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YOONがアンブッシュ®を通して見つめ直した、日本のルーツ。
AMBUSH® 2020AW COLLECTION

YOONがアンブッシュ®を通して見つめ直した、日本のルーツ。

7月11日に幕を開ける、“カントリーサイド” と題した〈アンブッシュ®︎(AMBUSH®︎)〉の2020年秋冬コレクション。世界基準のファッションアイコンとして、多くの人がその動向を追うYOONによる最新のクリエイションとは? そして、〈ディオール メン(DIOR Men)〉ジュエリーディレクター就任の経緯、世界の構造すら変わってしまいそうなポストコロナ時代のブランド像まで、いま気になることすべてを語ってもらった。

  • Photo_Koichiro Iwamoto
  • Text_Kenichiro Tatewaki
  • Edit_Ryo Muramatsu

ステレオタイプに捉われなかったからこそ、いまの〈アンブッシュ®︎〉がある。

ー 大学で専攻されていたのはグラフィックデザインとのことで、独学でVERBALさんにアクセサリーをつくり、彼のスタイリングを始められたのがファッションに関わることになったきっかけ。ことファッションにおいて、影響を受けたヒトやモノはありますか?

YOON:学生時代に近所の図書館になぜかUS、UK問わず『VOGUE』や『i-D MAGAZINE』、『The Face』などのファッション雑誌があり、置いてあったものを全部読み漁ったんです。それで「あ、こういう世界もあるんだ」みたいな。何も分からない私が、ファッションに出会った瞬間ですね。あのとき読んでいた雑誌に載っていた人たちと出会って、まさか一緒に仕事できるなんて思いもしませんでした。

ー 当時雑誌で見ていた人で、いま一緒にお仕事されている方というと?

YOON:例えば、昔『i-D MAGAZINE』で見ていたジュディ・ブレイムは、次の〈ディオール メン〉のコレクションでも彼のストーリーをフィーチャーしているし、キム・ジョーンズもそう。5、6年前に彼がディレクターを務めていた〈ルイ・ヴィトン〉とコラボするに際して初めてちゃんと会って、〈アンブッシュ®︎〉の大振りのジュエリーを気にいってくれて。そのときにプレゼントしたネックレスを、いろいろな場面でつけてくれていたのは嬉しかったですね。他にも、たくさんの著名な方々とお会いする機会がありました。

ー いまお名前が挙がったキム・ジョーンズとは、現在〈ディオール メン〉で一緒にコレクションを製作されていますよね。どういう経緯でジュエリーディレクターに就任されたのですか?

YOON:以前から「コラボしよう」という話は頻繁にしていましたし、彼が〈ルイ・ヴィトン〉を離れることになったときも「まだどこに行くか決めていないけど、次のブランドで一緒にジュエリーをやらない?」と誘ってくれていたんです。彼ほどの人物になるとたくさんのジュエリーデザイナーと繋がっているにも関わらず私を選んでくれたことは、本当に嬉しかったですね。

ー 〈ディオール メン〉内でのクリエイションはどのように進められているのですか?

YOON:基本的には、キムのアイデアを形にするのが私の役目です。テーマが決まって、アパレルが形になり、ジュエリーの製作が始まるのはそこから。テーマが決まったときに私もいろいろリサーチしますけど、キムのなかにもアイデアがあってたくさんのリファレンスが送られてくるから、それに合わせて進めています。

ー 〈アンブッシュ®︎〉に〈ディオール メン〉、その他多くのコラボレーション。それらが常に同時進行するなかで、YOONさんご自身はどうやって各プロジェクトのバランスをとっているんですか?

YOON:〈ディオール メン〉では、自分がやるべきことだけをやれば終わり。あくまでも〈ディオール メン〉という大きな組織のなかのひとりなので。一方〈アンブッシュ®︎〉においては、コラボレーションひとつとってもすべてが自分の裁量で決まるし、すべてがブランドの評価に繋がる。だから、アプローチとしては住み分けができていると思います。大変なのは、ぐちゃぐちゃになりがちなスケジュール管理(笑)。

ー 過去のインタビューで、〈アンブッシュ®︎〉設立直後は「朝までDJをして、自宅に戻ってからVERBALさんと二人で一枚一枚伝票を書いて発送作業を行なっていた」とお話しされていたのを目にしました。当時のことを考えると、ものすごいスピードでデザイナーとしてのキャリアを築かれていると感じますが、現在の成功を手にする上で、ご自身では何が重要なファクターだったと感じていますか?

YOON:物事を柔軟に考えること。先のことを見据えた上で、常にいろいろな方向にアンテナを張って、同時に多くのことを勉強しないといけません。たくさんの人に出会っていつも感じるのが、途中どんなに上手くいっていても、頭が固くなった瞬間に止まってしまうんです。だから、自分では自分の仕事をデザイナーとかディレクターと語っていますが、実際はファッション業界ではデザインだけではなく、マーケティングなどのビジネス面の知識も欠かせないし、それらすべてを踏まえて形にするのがデザインだと考えています。「こうなりたい」と思ったら何が必要かを考え、オープンマインドになって知識やスキルを蓄積し、目標にコミットし続けることが重要。「これだ」っていう答えなんて、やっぱりないんですよね。

今シーズンの特徴でもある、天然石を使用したアクセサリー。上から時計回りにネックレス ¥90,000+TAX、リング ¥52,000+TAX、リング ¥46,000+TAX、リング ¥52,000+TAX、ブレスレット ¥45,000+TAX

ー その発想は、〈アンブッシュ®︎〉設立時からずっと変わらないものですか?

YOON:〈アンブッシュ®︎〉だって、ファッションをちゃんと学んだことが無ければ業界のシステムも分からず、物づくりのノウハウすらないゼロの状態からスタートし、自分で勉強しながらそのときどきのベストな方法を探りながら成長してきました。3年、5年のような中長期的なプランはなく、私自身、自分なりのスタイルで徐々に形にする方法に楽しさを感じていたので。従来の決まりきったやり方でやってきた人たちにとってはきっと納得できないところもあるんでしょうけど、オーガニックなアプローチで進めてきたからこそ、新しいことにも挑戦できたのだと思います。

私のなかでは、ジュエリーにも男性女性という概念はないんです。いまでこそマーケティングのための言葉として “ユニセックス” は一般的になりましたけど、〈アンブッシュ®︎〉を始めた2008年当時、誰もユニセックスのジュエリーに納得してくれませんでした。実際にイギリスの著名なジャーナリストの方にも「unisex? such an ugly word」って言われましたし(笑)。でも、それが私たちのブランドのDNAで、新しいジャンルも確立できたし、いまの〈アンブッシュ®︎〉がある理由。何度も「それじゃダメだ、変だ」と言われてきましたが、私のなかでは「別にいいじゃん」って思うんです。

アパレルの展開を始めたのも、ルックブックをつくるときに服が必要だったから。トップスをつくったら次はパンツが欲しくなって、それがだんだんと増えていまの状態になっているだけなんです。パリで展示会を行うようになったのも同じような理由で、日本だと「もっと小さいジュエリーはないの?」「この手のジュエリーはないの?」って、決まった枠に合わせて見る人が多かった。いまとなってはショップなりの理由があるのも理解していますが、どうしても納得できなかったし、本場でチャレンジする必要性を感じてパリに行きました。

ー パリは本場だからこそ、ファッションに対する固定概念という意味では日本より強い印象があります。向こうで壁にぶつかることはなかったんですか?

YOON:ありましたね。でも、映画をつくる人がハリウッドを目指すのと一緒で、本場でしか学べないことはたくさんありますし、実際にストレートな意見をもらえてすごく勉強になりました。また、大きなブランドがショーを開催している裏で同時に何百ものブランドが展示会を行なっている様を実際に目の当たりにして、自分が強くならないとファッション業界では目立てないということも分かりました。要はサバイバルなんです。

〈アンブッシュ®︎〉らしさ溢れる大振りのネックレス。所々ネイビーになっているチェーン部分にはラピスラズリが使われており、大きな塊から削り出しているため、つなぎ目が無い珠玉の逸品。ネックレス ¥700,000+TAX

ー そして今年1月には、〈アンブッシュ®︎〉が〈オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー™〉や〈ヘロン・プレストン〉といったブランドを擁する「ニューガーズ グループ」の一員になることが発表されました。

YOON:パリで展示会をするなかで、売り上げが大きくなるとビジネス面でのフォローアップに割かれる労力も大きくなって、私たちのような小さなブランドはそれだけで疲弊してしまうことに気付いたんです。

ー クリエイション以外のことに力をかけざるを得ない。

YOON:はい。そこで、例えばどこかのショールームに入れば、クリエイションに割ける時間が増えるんじゃないかと考えました。実際にあるショールームに入ったことで卸も増えたんですけど、ちょうど〈アンブッシュ®︎〉の渋谷店がオープンしたタイミングと重なり、お店を始めていろいろなことが見えてきました。お客様の動きとか、それに合わせたやり方とか。いまは世界中にショップも物も溢れているし、お客様も賢いから、わざわざいろいろなお店に行かないと思うんです。自分たちのお店やウェブサイトがあれば、そこでいいじゃないですか? その方がブランディングにも繋がりますし。だから、一緒にブランドを育ててくれる人たちと組むのがベストなんじゃないかと。

ー いつ頃から「ニューガーズ グループ」に入ることを考え始めたのですか?

YOON:一年半前くらいでしょうか。決まるまでは結構長かったんですよ。その間にもいろいろな企業がオファーをくださったんですが、そのなかでも「ニューガーズ グループ」のビジョンが最も〈アンブッシュ®︎〉のそれと近かったので、彼らと組むことに決めました。

ー デニムやジュエリーは引き続き日本で生産しつつ、これを機に一部のアイテムはイタリア生産に切り替わります。過去のインタビューでもメイド・イン・ジャパンへのこだわりを度々お話しされていましたが、「ニューガーズ グループ」の一員になることで〈アンブッシュ®︎〉が得るものとは?

YOON:私のなかでの日本の重要性はこれからも変わらないと同時に、「ニューガーズ グループ」と組むことでまた新しいノウハウを得られるんです。ハイブランドはみんなイタリアで服を生産しているじゃないですか? そのプロセスがどういうものか、どんな生地、縫製を選んでいるのかを私が学べば、〈アンブッシュ®︎〉の次の可能性に繋がるので。

ー イタリア生産となれば、当然プライスも上がるのでしょうか…?

YOON:お互いにキープしたい水準を設定しつつ、上手くバランスを取っているので、プライスを上げる予定はありません。

ー 〈アンブッシュ®︎〉にとってはいいこと尽くめですね。商品がイタリア生産に切り替わるのはいつから?

YOON:この秋冬から一部のアイテムは試しているのですが、多くは次の2021年春夏コレクションからですね。

INFORMATION

AMBUSH® WORKSHOP

住所:東京都渋谷区渋谷1-22-8
営業:12:00~20:00
電話:03-6451-1410

www.ambushdesign.com

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