一切妥協しない蒸留家の哲学。「カッコよく破産するならそれもいい」

ジンの蒸留機。ここまで美しい蒸留機をお目にかかれる機会は滅多にない。
〈モンキー 47〉の魅力を知るうえで、材料のほかにもうひとつ触れておかなくはならないのは、ブランドの創設者であり、シュヴァルツヴァルト出身のアレクサンダー・シュタイン氏の蒸留哲学。

〈モンキー 47〉の創設者アレクサンダー・シュタイン氏。
ドイツの老舗ブランデーブランドの創業家の子孫で、〈ノキア〉のマネージャーを務めていた彼。〈モンキー 47〉を立ち上げるきっかけとなったのは、古いレシピを発掘したことにあります。それはかつて、この土地に移り住んできたある英国人が試行錯誤してつくり出した独自のレシピでした。
シュヴァルツヴァルトの天然の湧き水や珍しいハーブをふんだんに使ったこのレシピに魅せられたアレクサンダー氏は、自分の生まれ故郷の原料でジンを製造するアイデアに心躍らせ、このレシピの復活に向けて動き始めたのです。

夏のシュヴァルツヴァルトの風景。中央に見える建物が〈モンキー 47〉の蒸留所。

冬のシュヴァルツヴァルトは、うっすらと雪が積もる。
もともと、香水づくりやインテリアに興味を持っていたアレクサンダー氏がまずこだわったのは、見た目も香りも美しいジンをつくること。そして、そのジンをつくる蒸留所の内装でさえも、隅々まで洗練させることでした。「最良のジンをつくるためには、蒸留所の環境を整えることも大事」と彼は考えたのです。

年に数回、丹念に手づくりされる少量生産の「モンキー 47 バレルカット」。
〈モンキー 47〉は独特なボトルです。薬瓶をモチーフに、ガラスメーカーでつくってもらった特注品。蒸留所のある人物は、こんなエピソードを語ってくれました。「ブランドを立ち上げたばかりの時期に、アレックス(アレクサンダー氏)がいきなり5万本もボトルを発注してきた。そんなにお金を使って大丈夫なのかと聞くと、彼は『自分のアイデアに妥協を許さなかった結果として破産するなら、それもいい』と言ったんだよ。非常に繊細で神経質なところがありながら、自由で大胆な発想も持ち合わせているのが彼の魅力なんだ」


蒸留器の長さや大きさは均等にすること。色も美しくすること。
アレクサンダー氏はそれを隅々まで徹底し、それはいまも続いている。
広い蒸留所でもっとも目を引くのが、ピカピカに輝く銅製の蒸留器。「最高の味のジンを作るためだけではなく、見た目も心躍るものにしたい」というアレクサンダー氏の思いが最も現れる部分でもあります。
原点を大切にしながら、常に新しい味を求めて。
新しいレシピへの探究心も忘れません。蒸留所の脇にはラボも併設され、ボタニカルの調合や、レシピの開発が日々行われています。シュヴァルツヴァルトを散策し、新しいボタニカルを探すこともあるそう。

ラボにあるフラスコ。これらの器具で日々、試行錯誤が繰り返されている。


ラボにある、あらゆるものの香りが詰まった瓶。
そして年に数回、各回500本という少量生産で、新作のジンを「エクスペリメンタムシリーズ」という名で発表しています。過去には、日本を代表するスパイスのひとつ「山椒」を採用し、さらに神戸牛の牛脂を使って香り付けしたものをリリースしたこともありました。

アレクサンダー氏曰く「〈モンキー 47〉のキーワードは“洗練”と“クオリティ”。1000人で料理するよりも、4人で徹底的にこだわり抜いてつくる方が好き。一切の妥協を許さずに丁寧につくり、小さな蒸留所だからこそ見出せる価値を追求したい」。創業時から変わらぬ彼の思いです。

平時、ドイツにある蒸留所は誰でも見学することができる。
ドイツ・シュヴァルツヴァルトの大自然と、蒸留家・アレクサンダー氏の哲学が詰まった〈モンキー 47〉。旅に出ることが難しいいま、そんなクラフトジンを飲みながら、遠く離れたドイツの黒い森に思いを馳せてみてもいいかもしれません。