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10周年の節目を迎えたF/CE.のこれまでとこれから。
F/CE. 10th PROJECT

10周年の節目を迎えたF/CE.のこれまでとこれから。

「振り返ると、やっぱり感謝しかないですね」。ブランド誕生10周年という節目を迎えて、〈エフシーイー(F/CE.)〉のデザイナーである山根敏史さんはそう語りました。これを記念して、「F/CE. 10th PROJECT」と題した企画をスタート。作家やアーティストなどが集まるイギリスのコミュニティ「ダイヤルハウス」をテーマに合計7ブランドとコラボレートし、ウェアからアウトドアギアに至るまで、さまざまなアイテムをリリースします。そのプロジェクトについてはもちろんのこと、ブランドのこれまでや未来について、山根さんに語ってもらいました。

  • Photo_Takuroh Toyama(Portrait)
  • Text_Yuichiro Tsuji
  • Edit_Ryo Muramatsu

PROFILE

山根敏史

愛知県出身。数々のブランドの要職を経て、独立。現在は〈エフシーイー〉のデザイナーを務める。2017年にはデンマークのアウトドアブランド〈ノルディスク〉世界初のストアを東京にオープンさせる。バンド「toe」のベーシストとしても活躍。ファッションに限らず幅広いフィールドで才能を発揮している。

 

一度ゼロに戻して再出発するような意味合いもあるから、ちょっと怖かった。

ー 気づけばもうブランド設立から10年も経過しているんですね。率直に、いまどんなお気持ちなのかを教えてください。

山根:すごくありがたい気持ちでいっぱいですね。はじめた頃はバンドと似たような感覚で、好きな人にだけ届けばいいかな、なんて思ってたんです。こんなにアイテム数を多くするつもりなんてなかったし、ましてやお店を出すなんて思ってもいなかった。でも、音楽をやっていくためには仕事をしなければいけなかった。自分のやりたいものづくりを地道に続けた結果、売り上げも伸びて、お店もできて、会社としても人員を増やすことができました。なので、振り返るとやっぱり感謝しかないですね。あとはびっくりしているというのも正直なところです。

ー はじめは〈フィクチュール〉という名でバッグブランドとしてスタートして、そこからアパレルを展開したり、ブランド名を変えたり、お店をオープンさせたり…、これまでさまざまな転機があったと思います。ご自身の中で印象に残っている出来事はありますか?

山根:2016年にブランド名を変えたのは大きかったですね。ぼくは割とポジティブな性格なので、世界は広いから海外にも販路を広げられたらと思っていました。ブランドをスタートする前は外資の会社に勤めていたこともあって英語はできたので、自分でセールスをしながら徐々に海外の卸先も増やしていきました。ただ、〈フィクチュール(ficouture)〉というブランド名が誰も読めなかったんです(笑)。これはマズイなということで、もっとシンプルなブランド名にしたんです。

ー それで〈エフシーイー(F/CE.)〉となったわけですね。

山根:その当時は会社にもそこそこ社員がいて、これで売れなかったらどうしようという賭けでもありました。ブランド名を変えることは、それまでやってきたことを一度ゼロに戻して再出発するような意味合いもあるから、ちょっと怖かったというのもあるんですけど、最終的には「これなんて読むの?」なんてことはなくなったのでよかったですね。

ー 前に進むために変化したことはたくさんあると思うんですが、逆に変わらないことはどんなことでしょうか?

山根:ぼくはオタク気質なところがあって、たとえば「デニムを穿くなら〈リーバイス〉の特定の “これ”」みたいな、そういうこだわりがあるんです。世の中にいろんなモノや情報が溢れる中で、ある特定の物事をとことん追求する探究心というか、そこで得たものを咀嚼してデザインを生み出すというのは変わってないですね。

生地の可能性を追求するのがすごく好きなんですよ。特にドイツのバウハウスから生まれたインダストリアルなものとか、70年代に生地を3レイヤーにして生まれた「ゴアテックス®」とか、そういう技術的な革新に影響を受けていて、工夫しながら機能的なものをつくりたいというのは常にあります。

そういう気持ちを忘れちゃいけないし、忘れたくないという思いがあって、〈エフシーイー〉のサイトには「バウハウス」で撮影した写真をずっと載せているんです。

ー こちらの写真ですね。

山根:「バウハウス」は1933年にナチス政権下の影響で一度閉校してしまうんですけど、この写真にはストーリーがあって、映っている老夫婦はこの学校の卒業生。ふたりが出会った母校を前にぼくらがつくったバッグを背負っているという設定なんです。この一枚をどうしても撮りたくて、カメラマンの大辻くんと一緒に学校の前で5時間くらい張り込んで、一般のおじいさんとおばあさんを探してモデルになってもらったんです。こういう工業的要素や技術的なものを、ぼくらが得意とするファッションとミックスしてものづくりしたいというのは常に思っていることですね。

自分が影響を受けたものをいつかひとつの形にしたかった。

ー 今回10周年を迎えて「F/CE. 10th PROJECT」として7つのブランドとコラボレートをしています。このプロジェクトの裏側にはどんな想いが込められていますか?

山根:この10年、ブランドを運営する中でたくさんの人と知り合うことができました。人間関係を充実させることができたのは、ぼくたちにとってものすごく大きな財産になっていて、その集大成として何かひとつ形にしたいという想いがあったのと、ちょうど10周年という節目がピタっと重なったんです。

先ほど話した通り、そうして関わってくれた方々や、ぼくらのアイテムを使ってくれているお客さんへの感謝の想いもあるし、何かひとつテーマを決めて一緒にものづくりをしたいと思ったのが素直な気持ちです。

ー そのテーマとして、無政府主義のパンクバンド「CRASS」がイギリスで築いたコミュニティ「ダイヤルハウス」をチョイスしています。山根さんの文化的背景にはパンクやハードコア・カルチャーがあるのは多くの人が知っていると思うのですが、いまそのテーマを選んだ理由を教えてもらえないでしょうか。

山根:ぼくがハードコアバンドをやるきっかけになったのは「FUGAZI」のライブを観たことなのですが、いまの自分のアイデンティティを形成する上で外せないのが「CRASS」です。彼らの活動には社会や政治に対するメッセージが込められているんですが、その根底には世界平和を願う気持ちがあります。彼らは政府にも宗教にも頼らず、どこにも属さないで生きていて、ふと気づいたことがありました。それはファッションも同じだということです。つまり、どちらもすごく自由であるということ。ファッションを定義することなんてできないし、人それぞれ何に頼ることもなく自由に楽しめるものだと思うんです。

自分が影響を受けたものをいつかひとつの形にしたいという想いがあったんですが、「CRASS」をテーマにするとなると、ワンシーズンを通してそれを表現するのは少しヘビーな気がしていました。ただ、こうしたプロジェクトであれば、いまの時代背景ともリンクできて、メッセージとして発信したいと思いました。

それと、〈エフシーイー〉はひとつの国にフォーカスしたものづくりをしています。いまはちょうどイギリスをテーマにしていて、それと「ダイヤルハウス」が合致したというのもありますね。やるならいましかなかった。いろんなタイミングが重なったんです。

「F/CE. 10th PROJECT」のビジュアルはモデルとグラフィックを大胆にコラージュしたデザインが目を引きつける。

ー 「ダイヤルハウス」とは、一体どういったコミュニティなのでしょうか?

山根:「ダイヤルハウス」は、いまも現存する社会の枠組みから外れて生きることを提唱しているコミュニティのようなもので「CRASS」の中心的人物であるペニー・ランボーと仲間たちによって運営されています。そこには寝泊まりしたり生活をするスペースと、庭や農園もあって、誰の庇護も受けずに自分たちで自給自足をしながらそこで暮らしているんです。

ここからはぼくが思い描いた絵ではあるんですが、今回コラボレートしてつくったアイテムは、そうしたコミュニティで着る服であったり、暮らしに必要なツールなどを製作しました。

INFORMATION

ROOT 

住所:東京都渋谷区代官山4-5 J&Hビル 1階
電話:03-6452-5867
オフィシャルサイト
10th 特設サイトページ

※ご紹介した「F/CE. 10th PROJECT」はバイナルバッグが7月23日(木)から発売。その他のアイテムは予約受け付け中。7月23日から26日(日)の連休中は全ラインナップを「ROOT」でチェックできます

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