お互いの表現していることは崩したくなかった。
ー 今回コラボレートしたブランドは、どんな想いでお声がけされたんですか?
山根:先ほども話した通り、この10年間でたくさんの方々と一緒にお仕事をさせてもらって、ぼくの中でいろんな組み合わせが浮かんでいたんです。ただ、今回のフィロソフィーを共有できる人とやりたいと思いました。それが〈マウンテンリサーチ〉の小林さんであったり、〈ディガウェル〉の西村くんでした。
ー ものづくりはどのように進行したんですか?
山根:デザインはお任せなんですが、生地は〈エフシーイー〉のオリジナルです。きちんとテーマを理解してもらった上で製作を進めました。お互いの色というか、表現していることを崩したくないというのが前提としてあったんです。
例えば、〈ディガウェル〉の場合はテーラリングが得意だから、「ダイヤルハウス」のコミュニティにいる人が外へ出かけるときの正装の服をお願いしたいと伝えて。そうしたら彼なりにそれを解釈して、イギリスでの正装はワークウェアなんじゃないかということで、〈ヤーモ〉というワークウェアをつくっている工場に生産してもらったら面白いと思う、というような答えが戻ってきたんです。
ー なるほど。
山根:〈ヤーモ〉はイギリスのノーフォークという港町にあるんです。そこでブルーワーカーたちの作業着をつくってるんです。なのでこのトリプルネームのアイテムに関しては、〈ヤーモ〉にある型を〈ディガウェル〉がデザインを編集して、うちの生地で縫ってもらったという流れですね。工場の人たちは「こんなツルツルした生地は縫えない」なんて言ってたんですけど、仕上がりはやっぱりすごく堅牢でいいですね。
ー 〈ディガウェル〉とはレコードバッグもつくったんですよね?
山根:そうなんです。これは絶対につくりたいもののひとつでした。西村くんはヴァイナルコレクターでもあって、めちゃくちゃ掘りまくってるんですよ。ぼくもレコードが好きですし、「レコードバッグでビールとかランチボックスが運べたら最高だよね」なんて話からこれをつくることになりました。
ー プリントされているグラフィックや文字には、どんな意味が込められていますか?
山根:RIAAカーブというもので、レコードの決まりを示すものみたいで、ぼくは知らなかったのですが、さすが西村くんという内容のグラフィックになっています。文字は「CRASS」のメンバーがつくったフォントがあって、それを使っています。著作権フリーで解放されています。
ー DIYというか、そうした精神が見え隠れしているところがユニークですね。
山根:アナルコ(無政府)パンクスってすごいですよね。自分たちで居住スペースをつくって、そこで自給自足して、こうしたフォントまで自分たちでつくっちゃうっていう。
コミュニティの中心人物の服は小林さんにお願いしたかった。
ー 一方で〈マウンテンリサーチ〉に関しても、やはりアナーキーな姿勢を感じるブランドですね。
山根:そうなんです。〈マウンテンリサーチ〉の小林さんはぼくらが〈ノルディスク〉のお店をスタートするときにお世話になった方で、プライベートでもよくご飯に連れて行って下さるんです。独自の哲学を持っていらっしゃって、〈マウンテンリサーチ〉が発信するメッセージに共感することが多くてお願いさせてもらいました。
ー アナーキストシャツとボンテージパンツですね。
山根:ぼくの中で〈マウンテンリサーチ〉といえばこのアイテムなんです。でも小林さんに「これとこれでお願いします」と言うのはやっぱり勇気が必要で…(苦笑)、それでも伝えたら「いいよ」って快く引き受けてくれました。
ー 〈ディガウェル〉とのコラボアイテムが正装なのに対して、こちらのアイテムは何かストーリーがあるのでしょうか?
山根:コミュニティの中心的な人物が着る服が欲しくて、だからこそアナーキストシャツとボンテージパンツなんです。
ー 今回のコラボレート全体を見渡すと、ネイビーやブルーが基調になってますよね。これには意味があるのでしょうか?
山根:これは「ダイヤルハウス」とは関係ないんですが、ロイヤルブルーはイギリス王室を表す色であったり、国旗にも使われている一方で、労働者の色でもありますよね。そうした二面性を表現したかったんです。〈エフシーイー〉のインラインではあまり馴染みがないんですけど、そういう意味でも特別な色になったと思います。
垣根を乗り越えてできるという点も自分たちらしい。
ー 先ほど「コミュニティで使うツールとして」というお話がありましたが、〈ノルディスク〉や〈ヘリノクス〉とコラボレートしているところも山根さんらしいなと思いました。
山根:〈ノルディスク〉というブランドに出会ったことも、この10年で大きなターニングポイントになりました。ぼくらのひとつのDNAとして、やっぱり “機能” というのは外せないんです。〈ノルディスク〉は色で完全別注させてもらったんですけど、〈ヘリノクス〉は今回はじめての取り組みなんですが、自分たちのオリジナルの生地を使わせてもらって、インラインよりも強度が高くて軽いアイテムをつくることができました。
どちらもブランドの本国の方と直接話をしたんです。やりとりは当然英語になるんですけど、10年の間に海外のお客さんも増えて、うちも英語を話せるスタッフが増えたからこそできたコラボレートだと思ってます。そうした垣根を乗り越えてできるという点も、自分たちらしいかなと。
ー 〈アンブロ〉もはじめての取り組みですか?
山根:そうですね。「ダイヤルハウス」って誰でも泊まれるんです。それで、やっぱりそこに集まるのはパンクスなどが多い。おそらくフーリガンも来ているんじゃないかと思って、彼らがスポーツ観戦のときに着ているジャージを絵として思い浮かべました。ベースになっているのは1998年のイングランドナショナルチームのユニフォームで、ベッカムがキャプテンをやっていた頃のものなんですが、それがすごいかっこよかったんです。
ー それをロイヤルブルーで表現したんですね。
山根:それに加えてシルエットやパターンに関してもこちらで引いています。街着としてきちんと着られるようにアレンジしました。
ー 〈オルフィック〉は「BACK DROP BOMB」のヴォーカルである白川貴善さんのブランドですよね。ここもなんとなく山根さんとの繋がりが見えます。
山根:そうですね。ブリティッシュトレーナーがぼくは好きで、この靴のサンプルをたまたま貴くんが履いてたんです。「それ、めっちゃいいですね」っていう話をして、「実はこういう企画があるんですけど」と相談したら、一緒につくらせてもらうことになって。靴をやるならシューズメーカーとやりたいというのがあったので、ちょうどいいタイミングで貴くんと話ができました。