“狂ってる”ジージャンのつくり方。
ー 今回、下田さんにはいくつかの絵を描いていただいていますが、どれも素晴らしい作品で。川上さんが特に気に入っているのはどれですか?

川上:虎のイラストには一番びっくりしました。下田さんはぼくの目の前で思いついて描いてくださったんですけど、虎の柄がブランドネームになっているアイデアに衝撃を受けて。
下田:あとで調べたら、本物の虎の柄とは違ったんだけどね。たしか晩飯を食べに行った後にコーヒーを飲みに行ったお店で描いたのかな。サンフランシスコと虎って関係ないようにも思うけどよかったの?

ー (笑)。あとはガイコツのモチーフは『死んだかいぞく』 とリンクしますね。ところで〈セブンバイセブン〉にはどんな印象がありますか?
下田:川上くんはいい意味で、時々“狂ってる”と思うものをつくっているんだよね。このガイコツを刺繍したジージャンも、相当面倒くさいやり方でつくっているんでしょう。思わず「え?!」って聞き返しちゃった。

川上:これは70年代の〈リー〉のジージャンを自分で解体して、生地に刺繍を入れてからつくり直しているんですよ。ぼくにとって、洋服のおもしろさってそこにあるんです。
ー 再構築はすごく時間がかかるでしょうし、一点モノのようなプロダクトですね。
川上:商売としては大量に商品をつくらないといけないけど、自分が好きなものはこういう手間ひまがかかる洋服なので葛藤はあります。とにかくブランドのおもしろさを出しつつ、下田さんとものづくりすることを突き詰めたかったので。
下田:そうやって必要以上のことをやることに意味があるんだよね。ぼくが最初に恐竜のマスクをつくったときも、なんとなく恐竜博に行ってみて、自分の頭に合わせてツノとか牙を縫い合わせていったら被れてしまったという。身につけられることがわかったときの興奮は絵を描くことにはないものであって。それが楽しくてつくり続けているんだと思う。

川上:その興奮が50歳を過ぎても続いていることがすごいですよ。下田さんは自分のためにつくっているものだからリアルなんだと思います。
下田:全部、自分が被るためっていう馬鹿なコンセプトだからね。ギャルソンのコレクションも、恐竜展をパルコで大規模に展示したときも全部、この六畳間のスペースでつくっていたんだけど、最初は誰にも頼まれていないのにつくり始めてさ。この馬鹿コンセプトのまま、まさかパリまで行けるとは思いもしなかった。最近つくった恐竜のマスクは後ろがキャップになっていてさ。これは昔の広島カープのキャップを使っているんだけど、ロゴにRとNを足して「HORN」にしていて。


〈セブンバイセブン〉の“7”が刺繍された、下田さん謹製のデニムマスク。
何歳になっても、馬鹿なものばかり買ってしまう。
ー 普段は下田さん個人の作品として発表していますけど、〈セブンバイセブン〉とのコラボレーションのようなものづくりは、ご自身にどんなフィードバックがあるんでしょう。
下田:絵やマスクも誰にも頼まれなくても描いちゃうんだけど、小説の挿絵とかもぼくは好きで。注文されたり誰かと一緒にやり始めたりすると、一人で思いつかないチャンネルが入ってくるから、ぼくはどちらも並行しているのが楽しいの。落語みたいにお題を出されて返すのがおもしろいんだよね。一人でずっとやっていると、ぐずぐずに煮詰まっちゃうから。ぼくの長話を整えるのは大変だと思うけどさ、介抱している感じがあるでしょう。
川上:いや、喜んでお世話しますよ(笑)。ぼくは下田さんのTシャツセレクトも響いていて。展示会のときに着ていた高速道路の速度違反カメラに映っていたやつは最高でしたね。

下田:映画『ヘヴィ・トリップ 俺たち崖っぷち北欧メタル!』の馬鹿Tですね。村上春樹が『POPEYE』で私物のTシャツを連載していたやつはわかる?
ー 最近、書籍化されましたよね。
下田:あの連載を読んでさ、ちょっと反省したよ。ぼくのコレクションはとても人様にお見せできるものじゃないなって。昔、『Coyote』で連載していたときに海外で買ったものを紹介していたんだけど、タイトルが「買わなきゃ後悔。買って後悔」だったんだよ。
川上:(笑)。選んでいるものにはその人の好みや性格が出ると思うんですよ。
下田:だから、ぼくが買ってきた土産ものは喜ばれないんだよ。センスが悪いみたいでさ。

下田:このアラスカで買ったローリング・ストーンズのマトリョーシカもそうだよ。似ているかどうかを含めて価値があると思って買い占めたのに、お土産で何人かに渡しても微妙なリアクションで。なぜか何歳になっても馬鹿なものばかり買っちゃうんだよね。ところでさ、ほとんど洋服について話していないけど大丈夫なの?
