BUYER 04 リレーションの構築はこれからもっとも大事にしなくてはいけない。
PROFILE

「伊勢丹新宿店」メンズクリエーターズバイヤー。2014年に入社後、伊勢丹新宿店メンズ館2階で2年間、販売の仕事に従事。2016年4月より紳士・スポーツ統括部 新宿商品部 メンズクリエーターズでアシスタントバイヤーを務め、2020年から現職。
www.imn.jp/special/link_creators/
ー オンラインで発表された映像作品のなかで、印象深かったブランドを教えて下さい。
発表が夜中まであったのでリアルタイムで観ることは難しく、担当しているブランドを優先的に観たのですが、なかでも〈メゾン ミハラヤスヒロ〉は、映像のつくり込みが素敵でした。見応えあり、クオリティあり。ファッションショーが開催できない状況下で、ショーの前後の一連のストーリーを演出するというアイデアが素晴らしかった。展示会で三原(康裕)さんご本人から発表直前まで修正を加えたという裏話を聞いたのですが、やはり相当な苦労があったようです。〈カラー〉はこのブランドらしい世界観がもちろん良かったのですが、本来であれば横置きにして使うように設計された360度カメラを、縦置きに設置してモデルに跨がせて撮るというアイデアが面白い。下から覗き込むという画角はランウェーでは見ることができませんから。
〈メゾン ミハラヤスヒロ〉のムービーは、パペット人形がベッドから起き上がるシーンからスタート。朝食の写真を撮ったり、ショー会場前でスナップされたり、エントランスで名簿をチェックされたり…パリを訪れたプレスやバイヤーの一日を追いかけるような構成。ランウェーにはリアルなモデルを起用。
2017-18年秋冬からランウェーショーを休止していた〈カラー〉が公式スケジュールに復帰。26台のカメラにより360度すべてのアングルからモデルを捉えた。ディレクションは映像作家の田中裕介、撮影はフォトグラファーの田島一成。
ー やはりデジタルだからこそできるアプローチに注目されているのですね。
そうですね。一方、服は人が歩く姿を見るのが一番分かりやすいと思っているので、モデルが歩く姿を無数のアングルから捉えた〈セリーヌ〉は、デジタル時代における “ランウェー” として、とても観やすかった。セカイ(CEKAI)というクリエイティブチームが手掛けた〈ファセッタズム〉、〈ホワイトマウンテニアリング〉や〈ウェルダン〉の映像には現代性がありましたし、それが今回のパリ・メンズでやる意味として感じることもできました。
パリ・メンズファッションウィークが閉幕してから発表された〈セリーヌ〉は、「TikTok」で踊り明かす現代のユース、E-boyから着想し、タイトルは「THE DANCING KID」。フランスのモーターサーキットをランウェーに見立て、ドローンなどさまざまなアングルと画角からモデルを捉えていた。
ー 今回デジタルでのファッションのプレゼンテーションという点で、率直な感想を聞かせて下さい。
まだ良いとも悪いとも言えない印象ですね。ショーを観ている感覚とはまったく別物だったことは確かです。ルールのないなか、それぞれのブランドが独自に解釈して進めていったので明らかな差が出ていました。キャンペーンのような映像はインスピレーションを掴むことはできても、空気感や服の動きも把握できるコレクションの発表かという点で疑問は残ります。ただ、今回はあくまで出発点でもあるんだろうと思っています。個人的には、国内ブランドの展示会に行けることは大きく、その一方、映像や普段の数倍の写真が載っているオンラインオーダーシステムの限界も感じましたね。
ー インポートブランドなどはサンプルが直に見られない状況が続いていますが、たとえば、新しく仕入れるブランドはありますか?
コロナの影響でバジェットも限られているなか、責任のない買い付けはできません。かなり慎重になっていますが、もともと興味があったオーストラリアの〈ソング フォー ザ ミュート〉は扱うことにしました。オンラインで3時間以上、ブランドのディレクターも同席し、一部日本でも行っている生産背景をしっかりと見せてくれたので、安心して取り引きできそうだと確信を持つことができました。時差が少なくてやり取りしやすかったですし、ヨーロッパが相手だと、どちらかが早かったり、遅かったりして、なんだか眠そうなんですよ(笑)。
ー 「伊勢丹新宿店」は5月30日に全館営業を再開しました。
百貨店業界に限ったことではなく、業績は右肩上がりとはいかないので効率化の部分は求められています。当然、買い付ける量も以前通りとはいきません。また、我々の業態は直接買い付けをしているエリア以外に直営ショップが入っているところもあります。そうしたフロアの編成も毎年検討されるため、包括的に考えていく必要がありますね。緊急事態宣言が解除され、営業再開した際に想像していたよりも落ち込まなかったのは、メゾンを中心に顧客様を呼び込んだことも大きいと思います。実際に来店された方々は年間の購買額が高い方が多く、コロナ対策も含め、「伊勢丹」で買い物をすることに対して安心して下さっているのだと思います。
ー そうしたことが今後のビジョンも繋がっていくのでしょうか?
そうですね。毎シーズンの立ち上がりを楽しみに来て下さる顧客を増やすことがこれからの目標のひとつですし、リレーションの構築はこれから一番大事にしなきゃいけないことです。そうしたことに加えて、飲食もあれば、アートもあり、食器などの衣食住が全部揃っているというのが「伊勢丹」の強みのひとつにあると思っています。実際にライフスタイルにコミットできているブランドの小物類の売り上げは好調です。単純なEコマースではなく、キュレーションして発信することができたら、「あそこならまとめて買える」という見方も改めて生み出すことができる。そこに、百貨店の可能性があるかもしれません。