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ぼくらが焚き火に夢中になるワケ。焚き火マイスター猪野正哉かく語りき。
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ぼくらが焚き火に夢中になるワケ。
焚き火マイスター猪野正哉かく語りき。

いま、キャンプが大流行中。空前の焚き火ブームでもあります。そんななか、焚き火マイスターこと猪野正哉さんが、自身初の著書となる「焚き火の本」を上梓。なぜ人は揺らめく炎に魅せられるのか? 猪野さんとは旧知の仲であり、同じく焚き火好きでもあるライターの榎本一生が、焚き火を囲みつつ、焚き火にまつわるあれこれについて話を聞いてみました。

焚き火は万能のコミュニケーションツール。

ー でも、いまでは焚き火が好きなわけですよね。そうなったのはなにかきっかけがあるんですか?

猪野:自分はかつて洋服のブランドを立ち上げて、それで失敗して大借金をこさえたことがあって。ある日、親父に「話がある」と呼ばれて、焚き火を囲みながらあれこれ話をしました。仕事のこと、将来のこと、借金のこと……。そのときに思ったのは、「ああ、焚き火って人の心を開かせるんだな」ということ。親とは決して仲が良かったわけではないけれど、火を囲むことで、初めて腹を割って話をすることができた気がする。そのときの経験が、ぼくの焚き火の原点かもしれません。

ー 猪野さんの著書「焚き火の本」を読ませてもらって、そのなかに印象的な言葉がいくつかありました。そのなかで特に共感したのが、「焚き火には、たとえ無言になっても、場を成立させる力がある」というもの。たしかにそうだな、と。

猪野:ひとりで焚いても寂しくないし、仲間と囲めば親睦が深まるし、初対面の人とでも仲良くなれる。焚き火は万能のコミュニケーションツールだと思います。

焚き火を日常の延長にある身近なものにしたい。

ー 改めて聞きますが、猪野さんにとって焚き火の魅力とは?

猪野:人はなぜ焚き火に惹かれるのか? よく聞かれる質問です。「そこに薪があるから」。冗談めかしてそう答えたりしますが、焚き火をするのに明確な理由は要らないと思います。揺らめく炎を眺めているだけで、なんだか気持ちいい。それだけで十分じゃないですか?

ー 焚き火の師匠はいるんですか?

猪野:「焚き火大全」という本がぼくにとってのバイブルです。あと、YouTubeからもいろいろと教わりました(笑)。そして、父親から受けた影響も大きい。ぼくの父親は日本赤十字社に勤めていて、日航ジャンボ機墜落事故や阪神淡路大震災のときに現地へ行って活動していました。サバイバル能力が半端じゃないんです。

ー いま、ソロキャンプがブームですが、猪野さんはひとりで焚き火をすることはありますか?

猪野:ぼくはひとりではやりません。みんなとやったほうが楽しいですから。

ー キャンプブーム、焚き火ブームと言われる昨今ですが、いまの焚き火カルチャーに物申したいことはありますか?

猪野:多くの人は焚き火を非日常のことと捉えているかもしれませんが、ぼくは焚き火を日常の延長にある、もっと身近なものにしたいと考えています。今回「焚き火の本」を出したのも、そんな思いからです。人間のすべての営みは実は日常の延長にあり、日常と非日常を隔てる境界なんて本来はないはず。一気に世の中が変わることはないかもしれませんが、いまのブームをきっかけにして、日常に根ざした文化としての焚き火を取り戻したい。そう考えています。

「焚き火の本」(猪野正哉著・山と渓谷社)¥1,800+TAX

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