ニュースレターはウェブよりも紙に似てる。
ー 自分たちの好きなひとがニュースレターというフォーマットで発信をしているのも、『LOBSTERR』がニュースレターの形を取った理由ですか?
佐々木:そうですね。アメリカにベネディクト・エヴァンスという人がいて、彼が2013年からニュースレターをやっていたんです。毎週月曜に届くんですけど、1週間それだけ読めばいいというくらいテック系のニュースがまとまっていて。それが好きだったというのがあります。そのフォーマットを参考にしながら、『LOBSTERR』はOutlookという冒頭のエッセイを加えていて。
ー アルファベットで署名のある部分ですね。
佐々木:そうです。
ー Outlookの部分も読み応えがありますが、ほかの部分もみなさんが原稿を書かれていると。
佐々木:そうです。ぼくと岡橋さんは、原稿ができたら宮本さんへ共有します。そこから宮本さんがめっちゃ時間をかけて校正してくれて、各記事のタイトルもつけてくれるんです。読者の方は気づいていないかもしれないけど、タイトルも映画や小説のタイトルを絡ませてちょっと洒落を利かせているんですよね。
ー それは知らなかった…タイトル、気をつけて見てみます。ネタの選定は、それぞれ好きなものを、という感じですか?
佐々木:そうですね。特にすり合わせとかはしてません。ただ、不思議なシンクロはあって、例えばブラック・ライヴズ・マターが盛り上がっていたときは全員それを取り上げたりだとか、若い人たちがこれからの価値をつくっている、みたいな記事を一斉に書いてたりとかはあります。
宮本:みんなバラバラのネタを取り上げてるけど、同じようなことを書いていることもあったりもします。
ー なるほど。あと特徴的なのが頻度です。週1回、月曜日に配信されるというペースがちょうどよくて。
佐々木:ありがたいことに、そういう意見はたくさんもらいます。毎週月曜日が楽しみですと。休日と仕事のスイッチャーとして使ってくれている人もいるようで。
岡橋:(サッとカバンから取り出し)あと、これはぼくらが参考にしたメディアのひとつで、イギリスの『Tortoise』のプリントメディア『Tortoise Quarterly』です。Tortoiseって日本語で言うと亀。速度が亀のように遅くても、ゆっくり深く考察するスローメディアを標榜しているんです。
ー スローメディアって最近耳にしますが、その定義はなんなんでしょう?
岡橋:まず、更新頻度が遅いってことですよね。
佐々木:扱っているテーマもあるかなと思っています。世の中で起きていることよりも、もう一個掘り下げた部分で起きていることを取り上げる。海面というよりは、海底の話に近いようなところを取り上げる。
ー そこの認識はみなさん同じですか?
宮本:一緒ですね。
ー 遅くて深いと。
岡橋:そしてだいたい長い。
佐々木:長いも確かにポイントですね。だから、読者もクイックに読めないんです。『LOBSTERR』も毎週1万5千字弱、1万字は間違いなく超える。読む方も大変だと思います。
岡橋:流行っているニュースとか速報的なニュースは取り上げないことが多いです。数ヶ月前の記事でも面白ければ取り上げるし、逆にそっちの方が文脈に合っていたりすることもありますね。
宮本:去年の記事をあえて取り上げたりもしますよね。
ー 文脈に合っているというのは、時流とあっているみたいなことでしょうか?
岡橋:そうですね。
ー メールというレトロなフォーマットも、スローに拍車をかけているような気がします。
佐々木:そうだと思います。ぼくは基本的にあまのじゃくなので、『LOBSTERR』をやろうとしたときに、ウェブメディアやSNSべースではなくて、あえて古いやり方を選びました。しかも、ビジュアルや動画重視の時代に、そういう要素は一切なくして。我々はよく「オルタナティブ」という言葉を使うんですが、内容だけでなくメディアのフォーマットもオルタナティブにできるといいなと思ったんです。
宮本:あと、スローに紐づけるわけじゃないですが、ニュースレターってデジタルな感じがしますけど、ウェブよりも紙に近いと思っていて。
ー というと?
宮本:例えば読み終われること。いまって無限スクロールが流行っていますけど、ニュースレターの場合はきちんと読み終われる。あと、パッケージ性のある媒体なので、基本的には上から読むしかないじゃないですか。タイトルだけを見て各記事に飛ぶことはニュースレターではできません。
ー たしかにそうですね。
宮本:なので、ウェブメディアと違って、タイトルをキャッチーにする必要がない。小見出しも、ウェブメディアだとそこだけで意味が通じるようになっていますが、『LOBSTERR』はきっと、小見出しだけ読んでもわからないようになっています。ビックリマークをつけないようにしているのもそうですね。それもキャッチーにする必要がないからで。
宮本:あと、これは読者側の体験というよりはつくる側の体験ですけど、一回出したら直せないところも紙媒体と一緒です。だから週に1度、8~10ページくらいの記事をつくっているような感じです。