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柿本陽平の個人商店、 鎌倉の柿乃葉、開店。

柿本陽平の個人商店、
鎌倉の柿乃葉、開店。

セレクトショップ「ブルーム&ブランチ」のディレクターとして忙しい日々を過ごす柿本陽平さんが、この秋鎌倉にお店をオープンさせました。長年の念願であったという鎌倉でのお店作り、そこにはどんな思い、そしてストーリーが込められているのでしょうか。コロナ禍を経て、お店のあり方にも新しい視点が求められるいま、柿本さんが営む「柿乃葉」にはこれから残っていくだろうお店のヒントが詰まっていました。

ー 元々鎌倉にお店を作りたかったんですよね。

柿本: そうですね。30歳くらいのときからずっと思ってました。

ー 「ブルーム&ブランチ」を始めたのはいつでしたっけ?

柿本: お店の構想がスタートしたのが30歳直前くらいで、実際にお店ができたのが2年後ですね。

ー 「ブルーム&ブランチ」がオープンする前の「フイナム」の取材でも鎌倉への思いは語られていました。

柿本: はい。ずっと鎌倉で物件を探していたんですが、結局思うような物件が出なかったんです。むしろ並行して進めていた青山での物件探しの方がトントン拍子に進んでしまって。なので、そもそも鎌倉1号店、青山2号店の予定だったんです。

ー そうだったんですね。しかしそれはまたなかなか思い切った事業計画ですね。鎌倉で洋服屋ってなかなか難しい側面もあると思うので。

柿本: はい。結構な熱意で会社の人間を説得しました。で、1年くらい探していたんですけど見つからず、、とはいえ仕入れもしてるしもう始めなきゃということで、まずは青山でスタートしました。けどその後も虎視眈々と、というかずっと鎌倉の物件を探してはいたんです。

ー なるほど。それで結局「ブルーム&ブランチ」ではなく、自分のお店となったのにはどんな理由があるんですか?

柿本: 僕が思い描くお店のスケールが、どんどん小さくなってきたんです。オーナーの趣味的要素が強い地方の個人店が1番面白いと思ってて、もっとお客様のパイを狭めていきたいというような気持ちになってきて。そこは当然、会社と意見の相違があったんです。

ー なるほど。けれど、そういう部分での食い違いがあるのは、仕方のないことかもしれませんね。

柿本: はい。会社には、家賃が多少高くてもいいから、人通りが多いところで、お店も大きくて、というようなビジョンがあったんです。やっぱり売上高も取らなければいけないし、と。

ー ちなみに鎌倉でやっているお店、つまりは同業のお店のことなどはいろいろ調べたんですか?

柿本: いや調べてないです(笑)。けど、鎌倉ってあんまり洋服屋のイメージはないですよね。長谷にある「ベルーリア」さんは、このお店とどこか近いところがあるのかもしれません。

ー ところでなんでそんなに鎌倉が好きなんですか?

柿本: うーん、なぜなんでしょう(笑)。このあたりに来始めたきっかけはサーフィンだったんですけど、通っているうちに自分の生活の仕方が変わっていったんですよね。そのうちに「なんかこのエリア好きだな」っていう気持ちになったんです。それってあんまりきちんと言語化できない感じなんですよね。あとはそもそもで、洋服の文化が根付いてない土地でお店をやりたかったんです。

ー それはなぜですか?

柿本: 僕が思ういいお店って、例えば石川県の「フェートン」とか、兵庫の「アーキペラゴ」とか、福岡の「うつしき」とかそういうお店なんです。

ー どれもキャラクターが立ってるお店として、よく耳にします。

柿本: ですよね。こういうわざわざ理由をつけて行きたいと思えるお店が、僕は素敵だなって思ってるんです。なので、洋服屋が根付いている場所っていうのはイメージと少し違ったんですよね。なんでもないところでやりたかったんです。

ー ついでにではなくて、そこをめがけて来てほしいということですね。

柿本: そうです。ウインドウショッピングではなくて、目的を持って来てもらえるお店にしたくて。あと今後は洋服だけをやるつもりはないんです。目指しているのはギャラリーとかそういうとうところもあって。

ー というと?

柿本: ギャラリーって、ものを見に行くだけじゃなくて、空間そのものを味わいに行くみたいなところもあるじゃないですか。建物を出た後に、とくに何も買わなかったけどなんかよかったな、って思ってもらえるようなお店にしたいというか。

ー なるほど。無形のなにかを持ち帰ってもらうような。

柿本: なので、洋服を置いてますけど、ファッションを提案したいわけではなくて。例えば器を見るような感覚で、洋服が見れないかなって思ってるんです。器を見るときって、手にとっていろんな方向から見ると思うんです。「これは薪で炊いてて、灰をかぶったからこんな色になったんだろうな」とか。

柿本: ここにある洋服も、見た目がそこまで特徴的なものではないので言葉で説明しないとわかりづらいんですけど、一方で作り手の思いがものすごく込められたものばかりなので、その部分を僕がしっかりと伝えられたらと思ってるんです。そういったものの売り方をするために具現化した空間がこのお店なんです。

ー 内装もすごく素敵です。

柿本: はい。まず、この物件がよかったですね。この場所は元々写真家の十文字美信さんが「カフェ ビー(CAFÉ bee)」を営んでいた場所なんです。カフェの隣にはギャラリーがあって、その奥にはご自宅があって。それでカフェを閉められたあとに、僕がお借りすることになったんですが、十文字さんとしても自分の敷地内に人を呼ぶことになるわけなので、あんまりガヤガヤしそうなお店はいやで、なので例えば飲食とかはナシだったみたいですね。人の紹介で初めてお会いしたときに、僕がやりたいお店の方向性や、つくりたい空間のイメージ、あとは土日しか開けないっていうことを伝えたら、気に入ってもらえて。

ー 絶妙な場所ですよね、ここ。観光客が行き交う小町通りから一本入ってすぐなんですけど、不思議と静かで。

柿本: そうなんです。小町通りはガヤガヤしてるし、まったく考えてなかったんですけど、ここだったらいいなって。ちょっとアクセスは良すぎるんですけど、ギャラリーのようなお店っていうのにもマッチするし。あとは音楽がないお店っていうのもイメージしていました。

ー 「柿乃葉」は音を流さないんですね。

柿本: はい。ちょっと緊張感がある方がいいなって思っています。

ー 内装は大きくはいじってないんですよね。

柿本: そうですね。少し手を入れた部分はあるんですけど、基本的には丁寧につくられていたので、活かしたところも多いです。壁はベージュの漆喰だったんですけど、僕のイメージは白い箱っていう感じだったので、塗装ではなくもう一回上から白の漆喰で左官してもらいました。

ー 六角形のタイルがいいなと思いました。

柿本: このタイルはそのままですね。「カフェ ビー」っていう名前は六角形、ハニカム=蜂の巣から来ていたみたいなんです。

ー 木の梁の、和の感じとすごく合ってますよね。

柿本: フランスとかで、こういう六角のタイルってあるんです。僕は日本的なものも好きですけど、海外とのミックス感も好きなので。

ー 什器が、またいい雰囲気ですよね。「ピエール・ジャンヌレ」の椅子をさらっと置いてみたり。

柿本: ありがとうございます。什器は北欧もあるしフランスや日本もあるし、という感じですね。あとはイギリスの教会で使われていた椅子を使ったりもしています。

ー 絶妙な和洋折衷感と、あとはキメキメすぎない感じがいいなと思いました。

柿本: 箱自体が洗練されているので、ちょっと味の出たカジュアルなものを混ぜた方がいいなって思ったんです。お会計をしていただくテーブルは北欧ものなんですけど、ここに(ハンス)ウェグナーの椅子を置くと、ちょっとキリっとしすぎてしまうかなと思って、味の出た「ジャンヌレ」ぐらいがちょうどいいのかなって。

ー すごくいい感じにまとまってますね。アンティークだけで構成してるんですか?

柿本: ミラーだけが新品ですね。千葉にある「アポロギア」というお店のオリジナルです。什器はいろいろなところから集めています。

ー バイイングで色々な国に行って、様々なものを見聞きするうちに趣味嗜好は変わってきましたか?

柿本: いや、そんなに変わってないです。昔からあんまり突拍子もない格好はしないですし、洋服屋だって思われるのもあんまり好きじゃないんですよね。なるべく普通のものがいいんです。ただ、素材がいいものとか、作り手が魂込めて作っているものには惹かれますね。

ー そこは一貫しているわけですね。

柿本: はい。「柿乃葉」と「ブルーム&ブランチ」のどこが違うかというと、ここは僕が個人で買うものが詰まっているお店なんです。洋服だったら僕の体に合うもの、僕が似合うものを集めているお店です。世の中には素晴らしいブランドってたくさんあるんですけど、着てみたら自分は似合わなかったっていうものもたくさんあります。どんなに良い商品であってもそういったものはこのお店では仕入れませんし、自分のありのままで好きなものだけ、真実だけを伝えたいんです。いいものは多いけど、自分で買うものってそんなに多くないじゃないですか。なので、今後も商品数はそんなに多くなることはないと思います。そういう意味ではお客さんのことをあまり想像していないんです。

INFORMATION

柿乃葉

住所:神奈川県鎌倉市雪ノ下1-7-22
営業:12:00〜17:00 土日のみ
電話:0467-73-8198
kakinoha-kamakura.com

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