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孤高のクリエイター、林道雄に迫る。
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孤高のクリエイター、林道雄に迫る。

スタイリスト林道雄。キャリア10年の実力派で、名だたる媒体で独創的なスタイリングを披露しており、そのセンス、審美眼は折り紙付きの辣腕です。その林さんが、2020SSシーズンよりファッションブランドを始めました。その名も〈by H.〉。このブランド、スタイリストが始めたものといって一括りにすると大きく見誤ります。なぜなら林さんは元々服作りをしていた人なのです。これまでほとんどメディアに露出することがなく、知る人ぞ知る存在だった林さんですが、ブランドスタートをきっかけに取材に応じてくれました。〈by H.〉という新しいブランドの話はもちろん、林さんの持つ美意識などについて、いろいろな話が聞けました。

ー ところで、初めて〈by H.〉を見たときに、意外とシンプルだなって思いました。

林: そうなんです。意外とシンプルになっちゃったんですよ(笑)。

ー 概念的にもっとパンクなものを作っているのかな、と思ったりもしましたが。

林: はい。そこはちゃんと着れる感じにしていますね。

ー ただ、最新の2021SSのルックとかは、だいぶ変わってますよね。

林: ルックの撮影は本当はしたくないんです。。よそのブランドのルック撮影はすごく得意なんですけど、自分が作った服を着せこんで撮影をするのって、本当に辛いんです。誰かに頼みたいくらいです。

ー 恥ずかしいってことですか?

林: 恥ずかしいというところも勿論ありますが、やはりさっきも言ったんですけど、もう見飽きてしまっている部分もあったりして。。他ブランドのルック撮影だと、良い意味で新鮮なのでわざと遊びを入れたりもするんですが、自分の服だとなかなかそれができないんです。

ー 自作自演になっちゃいますからね。

林: そう。ボケづらいんです(笑)。

ー 2021SSのテーマは、「ハイパーリゾート」ということですけど。

林: そうです、こういう風にボケるしかないんです。以前一度だけソニアから、〈アーツ&サイエンス〉のルック撮影のスタイリングを頼まれたことがあるんですけど、今となってはその気持ちがすごくよくわかります。ちなみに今までのスタイリスト業でダントツに緊張したことは言うまでもありません(苦笑)。どういう風に作られたかわからない服を、スタイリストが客観視してスタイリングするのがルック撮影の醍醐味だと思うので、ある意味無責任で、それがゆえにストレスなくできるし、そこで化学変化みたいなものも生まれるんですよね。その点、どうやってできたかわかってる服を、もう一回まな板の上に乗せて料理するっていうのはなかなかきついんですよ。

ー それって服だけではなくて、食べ物とかでもそうなのかもしれないですね。

林: そうそう。例えば自分が農家で、丹精込めて育てた野菜を使って料理するのって、ある意味しんどいというか、上手く調理出来ないような気もするんですよね。それこそそれを客観視した料理人の方が美味しい料理を作れそうというか、、カメラマンでいうと、アラーキーが自分でプリントしないのとかもきっとそんな感じなんじゃないのかなと。。

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ー とはいえ、作ったものをきちんと伝えないとな、という気持ちはあるんですか?

林: うーん、正直そういう気持ちはあまり強くないかもしれないです。わかってくれる人が買ってくれればいいというか、営業をあまりしないのもそういう思いがあるからなのかなと。それはスタイリストでも一緒ですね。もともとあまりガツガツ営業するタイプでもないですし。気づいてくれる人に共感してほしいわけで、むやみやたらに打ち出したいっていうのはないかもしれないです。売れなかったらそれはそれで自分の責任なので。ただ、スタイリスト業も含めモノを表現するにあたり社会に対しての責任というのはいつも心の中にあります。買ってくれた人に対しても同じです。

ー それはそうですよね。責任っていうと少し重たいですけど、自分の服を着ている人を見たら、シンプルに嬉しいという気持ちはあるわけですよね。

林: もちろんです。そういったわかりやすい喜びは服作りの方が多いのかもしれないですね。スタイリングの評価って形があってないようなものなので。だからこそ面白いんですが。同じブランドのルックでも違うスタイリストが入ることによって、全然違うものになるのとかもすごく面白いなって思います。だからオファーがあるうちはスタイリストはやめないつもりです。ブランドの場合は自分から需要を作り出さないといけないですからね。逆に需要そのものがなくなったとしても知力と体力が続く限りはやってしまうんだろうなぁという気がしています。

ー スタイリスト業界に関していうと、10年前とは随分状況も変わってきてしまったので、なかなか難しいところもありますよね。

林: 確かに、それは否めないところはありますね。自分の中で「おっ、このページいいな」って心から思うようなスタイリングを見ることが少し減ってきたのは確かです。嫉妬するような、、それは自分自身が年をとったのも関係してるかもですが。そういう意味でいうと、洋服の方が嫉妬するところが多いような気がします。名前を挙げるのもあれですけど、〈コモリ〉には〈コモリ〉の良さがありますし。普段わりと好んで着るんですが、ただよくあそこまでデザインを削ぎ落とせるなって本当に感心します。僕は怖くてあそこまで削ぎ落とせないですね。仲のいいブランドでいうと〈サスクワァッチファブリックス〉がやってることも自分には到底出来ないし、〈アーツ&サイエンス〉の服も、生活の様式美含め、自分にはまだあそこまでストイックに作り込めないし、それらに対して良い意味で嫉妬もあります。嫉妬があるから面白いのかもしれないですね。

ー ちなみに好きなブランドってあるんですか? 昔、〈ドリス ヴァン ノッテン〉は着るとか言ってましたけど。

林: 〈ドリス ヴァン ノッテン〉は好きですよ。ただ、好きなブランドというか、もろに影響を受けたってことになると、ベタですけど、プロダクトとしてはマルタン・マルジェラがいたときの〈メゾン マルジェラ〉、アティテュードとしては川久保玲の〈コム デ ギャルソン〉ですね。特にファッションに対しての向き合い方については、いまだに川久保玲が僕の中ではヒーローです!いやアイドルになるのかな(笑)。今も〈コム デ ギャルソン〉の立ち上がりのときはウインドウ越しに拝見しに行くんようにしてます。それは勇気をもらいたいという部分もありますし、学生時代からの癖みたいなものなんですよね。単純に青山店のマネキンを見るとやっぱり心が踊ります。

ー 納得の二人ですね。ちなみに洋服って結構買う方ですか?

林: 〈by H.〉を始める前の方が買ってましたね。服作りをするようになると、良くないとは思うんですけど、自分の着る服はどうでもよくなってしまう瞬間があって。ただ、元々そんなにファッションヴィクティムではないので、変わってないといえば変わってないですね。一年の半分ぐらいは短パンですし(笑)。

ー スタイリストでもすごく服を買う人と、あんまり買わないというか、いつも同じような格好をしている人の2種類がいますけど、それでも同じスタイリストという職業についてるのが面白いですね。

林: 発見という意味では、自分でも色々な服を着る方がいいとは思いますけどね。ただ、自分で着なくても仕事ができるのは、学生のときにレディースをやってきたのが大きいかもしれないです。服を客観視するという視点がすでにあるので、自分が流行りの服を着なくても流行りのスタイリングができるんだと思います。

ー ところで、何度かボケるという言い方をしていますたが、林さんの表現の根底にはユーモアとかそういうのがあるような気がします。

林: ボケるというかひねるというか、そういう意識はありますね。メゾンでいえば、オフィシャルのルックと同じことをしても仕方がないわけで、日本でやるからにはなにかしらの要素を入れないと面白くないじゃないですか。落語でも古典をアレンジするから面白いわけで。逆にこれはストレートにやった方がいいなっていう場合もありますけどね。あとはそこに色気が必要ですね。

ー 色気の話もよくしてますよね。林さんなりの色気の定義ってあるんですか?

林: うーん、わからないんですよね。。センスとちょっと似てる部分もあるような気がしてるんですが、色気って絶対に真似できないんです。色気がある人はデフォルトで持ってるし、そういう人が作れば色気のある服になるし。一方で、色気がない人っていうのもいて。

ー たしかに。

林: 定義は難しいんですが、狙って生み出すことはできないですよね。一方で着こなしなんかは物理的なことなので意外とコピーできるんです。肩をどれくらい落とすとかそういうテクニック的な部分の話です。ただ、写真に撮ってみるとなにかが違うんですよね。それが色気なのかなって。

ー わかります、とても。

林: あとは、どういう遊び方をしているか、どういうご飯を食べてどんなお酒の飲み方をしているのか、どんな風にクルマを運転しているのか、どんなものをチョイスしているのか、などそういった生活全部が関係してくるのかなと思います。もっと言えば、どんな育ち方をしているかっていうのも色気には関係あるでしょうね。

ー うーん、なるほど。

林: 色気がある人って、出そうと思わなくても出ちゃうんですよね、毛穴から。逆にない人がどんなに出そうとしても出ないです。

ー 色気は無理でも、センスは磨けますよね?

林: そうですね。センスを磨くにはやっぱり場数を踏むことだと思います。あとは自分よりセンスのいい人と一緒にいたりすると、やっぱり磨かれていきますよね。

ー 林さんがソニア・パークさんに師事したのとかは、まさにそれですよね。

林: そうです。スタイリストになりたいわけではなく、ソニアが面白いから近くにいたいと思ったし、無意識的にソニアのセンスを盗むというか、見ていたかったんだと思います。

ー やっぱり影響を受けているわけですね。

林: それはもうもちろん!今でもよくご飯とか飲みに行くんですけど、毎回、新鮮な影響というか、パワーみたいなものをもらってます。達観というか、、、やっぱ、敵わないなぁと。。(苦笑)

ー ぱっと見はそんなにお弟子感はないですけど、よく見ると美意識とかそういった部分はやっぱり影響はあるなと思います。林さんのインスタひとつとっても。

ー 林さんって結構何でも深く掘るタイプですよね。

林: そうかもしれないです。まぁでも、ある程度広い範囲をある程度深く掘るっていう感じですよ。ただ、花器にハマったときはひたすら花器を買ってましたし、オークションで落としたりもしました。料理にしてもそうで、結構凝って作ったりはします。

ー そういうことには、自然に興味を持つようになったんですか?

林: 何かを発信する人は美しいものに興味を持たなくてはダメだと思うんです。一言で言うと、美意識ですよね。醜いものにあんまり時間を費やしたくない。でも美醜も各々の好みという部分もありますが。

ー 美意識、たしかに。

林: 特にスタイリストは絶対に美意識をバランス良く持ってないとダメな職業だと思います。だからスタイリストで食に興味がない人とか僕からしたらちょっと信じられないんですよね。スタイリストってファッションだけわかってればいいかっていうと、全然そんなことないんです。あらゆるジャンルに広く深く精通していないとダメだと思うんですよね。

ー デザイナーはどうですか?

林: それは難しい話で、デザイナーはまたちょっと違う気もしてしまんですよね。ある意味でデザイナーは何かに突出していれば成立するところもあるような気がして。でもやはりスタイリストは総合力が鍵になるのかなと。

ー 最初の話に戻りますけど、林さんのこのお住まいには、林さんの美意識が詰まってますよね。こんな部屋見たことないです。センスの良さってある程度の種類があって、ある程度どのタイプかに収斂されていくと思うんですが、林さんは何にも当てはまらないような気がします。

林: 置いてあるものがいい意味でそんなに気にならないと思いませんか? いま座ってる椅子も地味に〈フィン・ユール〉ですからね。そう見えない(笑)。

ー どれもこれも、これ見よがしではないですね。すごく馴染んでる感じがします。あらゆるものの価値をフラットにするというか。なんか、林さんがお店やったらきっと面白いと思ってしまったんですけど、どうですか?

林: 実はそれ、散々言われるんですよね。スイッチが入ればそっちにガッといけるかもしれないんですけど、今はブランドを始めたばかりだし、まずは〈by H.〉をしっかりやらなきゃいけないなって思います。

ー なるほど。

林: お店はゆくゆくですかね。表現において多少の無茶は必要なときもありますが、無為無策は絶対にダメだなと思っていて。自分は何ができるか客観的に把握できるのが強みだと思っています。そういう意味で言うと、お店はまだですかね。

ー 勝手に期待しています。服だけではない、色々なものが混在した林商店を。美意識をおすそ分けしてもらえるような。

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