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孤高のクリエイター、林道雄に迫る。
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孤高のクリエイター、林道雄に迫る。

スタイリスト林道雄。キャリア10年の実力派で、名だたる媒体で独創的なスタイリングを披露しており、そのセンス、審美眼は折り紙付きの辣腕です。その林さんが、2020SSシーズンよりファッションブランドを始めました。その名も〈by H.〉。このブランド、スタイリストが始めたものといって一括りにすると大きく見誤ります。なぜなら林さんは元々服作りをしていた人なのです。これまでほとんどメディアに露出することがなく、知る人ぞ知る存在だった林さんですが、ブランドスタートをきっかけに取材に応じてくれました。〈by H.〉という新しいブランドの話はもちろん、林さんの持つ美意識などについて、いろいろな話が聞けました。

ー 何かを見出したんですかね、林さんに。

林: どうですかね。正直、僕としてはスタイリストになりたいという気持ちよりは、ソニア・パークという人物が面白いからこの人についていったらどんな景色が見れるのかな?って感じだったので、是が非でもスタイリストそのものになりたかったわけではないのかもしれません。で、そこで4年アシスタントをやっていて、独立した感じです。

ー フイナムで一緒にお仕事させてもらったのは、独立されてすぐだったような気がします。

林: そうでしたね。2010年に独立して、それから10年経って、洋服を作り始めることになりました。

ー そもそもなんで作ろうと思ったんですか?

林: それが意外と理屈じゃなくて、なるようになったという感じなんですよね。なぜか自然とデザインしなきゃだめだなって思うようになったというか。このままスタイリストだけをやっていたら、自分がやれる範囲が狭くなってしまうような気がして。服やらないの?っていうのは師匠含め、周りの人にも常々言われていたんです。

ー けどスタイリストしては、すごくいい仕事をされてますよね。

林: 恐縮です。でも自分で言うのもなんですが、そんなに悪いポジションではないのかなと思います。

ー ですよね。

林: ただ、ちょっと前から何か違うことをやらなきゃって思うようになったんです。それが結局〈by H.〉になりましたが。スタイリストってどうしても受動的な仕事だし、振られてどうボケるかという職業だと僕は思っていて。0を1にする仕事ではなくて、1をどうしたら5にできるのか、みたいな職業じゃないですか。それはそれですごく面白い職業だし、すごくテクニックのいることだと思うんですけど。知識と教養もいりますし。

ー はい。ボケる(笑)。

洋服を包むガーメントケースには、林さん直筆の「PART OF THE LANDSCAPE」の文字が。曰く「服も景観の一部」とのこと。この考え方がブランドの骨子にある。

FRAME SHIRT ¥34,000+TAX

林: けど、ずっと1から5をやってると、やっぱり0から1をやってみたいなって思う瞬間があるんですよね。デザインをやってみて思うのは、脳みそはすごく使うんですけど、物理的なエネルギーは以外とそんなに使わないんですよね。パターンを引くとなると、ちょっとしたスペースが必要で、ハトロン紙、カッター、消しゴムなんかもいるし。スタイリストの場合はリースに行くから、クルマがいるし、移動費がかかるし、洋服の場所もとるし。それに比べてデザインって、僕の場合は最初携帯に絵を描くことから始まるんです。だから信号待ちの間でもできちゃうというか。

ー 思いついたときにすぐできるんですね。

林: そう、どこでもできるんですよね。まだ始めて3シーズンですけど、そこが面白いなって思います。そこからどう育て上げていくかが、一番苦労するところではあるんですが。0から1にするポイントでは、自分との対峙という感じですよね。頼れる人は全くいないわけですし。そこが潔いなって。

ー 確かに。

林: スタイリングだったら、例えば今シーズンの_〈バレンシアガ〉はこういう感じか、っていう題材があるので、それに対してどうボケるのかという感じなんですが、デザインは題材から何から自分で作らなければいけないので。

ー 自分と向き合う作業ですよね。

林: そうです。大変といえば大変ですね。やり出したら早いんですけど、やるまでにむちゃくちゃ時間がかかるんですよね。『宇宙戦艦ヤマト』の波動砲って、打つまでにものすごく時間がかかるじゃないですか。ああいう感じです(笑)。その波動砲を溜めてるときに、例えば携帯で何か書いてるときに、母親とかから着信があると、波動砲のチャージがゼロに戻るんですよね(笑)。

ー iPhoneにサラサラするのはいつでもやってるんですか?

林: いつでもやってますけど、それも波がありますね。

ー メモがわりみたいなものなんですね。

林: はい。ただ、いつでもどこでも書けるという感じではないんですよね。それはおそらくデザイナー方達全員そうなんじゃないかなと思います。

ー スタイリストとデザイナーというまったく違うことをやってるので、モードを変えるのは大変なんじゃないですか?

林: そうですね。スタイリング業務と、デザイン、パターン業務って、脳みその使う部分が明らかに違うので。ただスタイリスト業は慣れてるというところもあって、1という起点というか対象物が常にあるので楽という言い方は変なのですが、わりとそこを手がかりにしていけばいいんです。その点、デザインは対象物がないし答え合わせのしようがないので。

ー そういう風に聞くとなんだか恐ろしいですね。。

林: 0ベースの脳みその部屋はなかなか開かないんです。鍵もかかってるし扉が重いというか、さっきの波動砲の話ではないんですけど、今年は世界的に自粛の期間と言うものがあったと思うんですが、あれは自分にとっては逆に良かったのかもしれません。

ー 集中できたと。

林: はい。ちょうど2021SSを作ってるときだったので。

ー ブランドを立ち上げてみて、率直な感想はいかがですか?

林: 当然、賛否両論あるわけですけど、何かをやらないとそういう意見もないわけで、そこはやってみてよかったなと思います。あとは評価が数字で現れるところは面白いし、怖いところでもありますね。

ー スタイリストの仕事はなかなか数字にはなりにくいですよね。

林: はい。雑誌の巻頭ページをやって、あのページが良かったから部数が伸びました、売り上げが増えましたっていうのはわからないですよね。手ごたえがあるようでないというか。

ー ちなみにファーストシーズンの20SSでは、何型くらい作ったんですか?

林: シャツを10型、パンツを5型です。

ー それは決めてたんですか?

林: 常々、いつかシャツは作りたいなとは思ってました。なんとなくこういうものを作ろうっていうのが頭の中にはボヤッとありましたけど、意外と溜めて溜めて出したっていう感じでもないんですよね。満を辞してっていう感じではないというか、自然にそこに至ったというか。

ー 誰かに頼まれてるわけでもないですからね。

林: そうなんです。「なんかできちゃいました、ごめんなさい。。」みたいな感じですね。

BOMBRT JACKET ¥79,000+TAX

TACK PANT ¥42,000+TAX

ー 久々に服を作ってみてどうでしたか? 自分的には。

林: 自分がやったことって、なかなか評価しづらいんですけど、シンプルだけどあんまり世の中にないものができたかなとは思います。

ー 〈by H.〉は2020SSに立ち上がったブランドですが、告知という告知はしてないですよね。

林: 全部一人でやってるので、なかなかそこまで手が回らなくて。営業スタッフがいるわけでもないので。ただ、それはそれでいいのかなって。スタイリスト業も同じようなアプローチでやってきてるので。

ー なるほど。こういうパーソナルな服って昔からあるにはありましたけど、これからはこういう自分そのもの、のようなブランドの方が面白いなって思います。

林: そうなんですかね。ただ自分でデザインして、パターン引いて、自分の身体で修正をして、ってやってるとどこかで飽きちゃう部分もあるんですよね。展示会のときには、実はちょっと飽きちゃってる部分もあったりします(笑)。けど洋服が面白いなって思うのが、人が着てくれて、人の生活に身近になると作り手側から見ると想像をし得ないいろんな発見があるんです。そこがアートとは少しだけ違う点なのかなとか思うときもあります。

ー たしかに。

林: アートも勿論生活にはリンクしてくるとものだとは思うんですが、洋服は衣食住っていうぐらいなので、着るとその人の生活に溶け込むというか、人に対しての侵入領域がより大きいというか。

ー 自分の手を離れたら、その人のものですからね。

林: そう。だから安い言い方ですけど、作り手冥利に尽きるというか。自分では想像し得ないところが見れるのが面白いですね。

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