服なんていらないのに、それでも手に取りたくなるものをつくる。
ー 次はどんなアイテムを考えているんですか?
金子: ニットキャップとか、バンドカラーシャツなんかを仕込み中です。あとは、ずっとレギュラーカラーのシャツをやってきましたけど、それを見直して、襟をちょっといじってリニューアルしようと思っています。あとはスーパーワイドという身幅のサイズをつくろうかと。トレンドに合わせてというのではなく、プロダクトとしての精度をあげるようなイメージですね。
ー 完成はないということですか?
金子: それはもうエンドレスですね。見直すと、いじりたいところがどうしても出てくるんです。つくった当時は完璧だと思っていても。
ー そうなってくると、いじろうと思えばどこでもいじれるのに対して、どこで着地するか判断するのが難しくなりませんか?
金子: そういうのが難しくないから、ストレスなくやれているのかもしれません。仮に僕が〈コモリ〉に加わって一緒にやろうとすると、全然ダメだと思うんですよ。いろんな意見が混ざり合っちゃって。だけど、これは“普通”っていうところをあえて目指しているし、「こんなもんだよね」っていう感覚がお互い一緒なんです。
小森: やっぱり、20代の頃からずっと同じものを見てきたというのが大きいんじゃないですかね。
ー 味付けをやめるポイントが、お互い一緒ということですね。
小森: デザイナーって余計なことするんですよ。自分のブランドなら作家性を出すのは当たり前だと思うんですけど、それ以外のところで作家性を出しちゃう人がいると思って。この前、とある美術館に行ったんですけど、そこの制服がすごく主張が強くて、がっかりしてメールで問い合わせたんです。
ー どうしてそこまでがっかりしたんですか?
小森: その美術館の空間がものすごくかっこよくて、展示もとても魅力的だったんです。それなのに制服だけが残念で…。問い合わせたところ、何周年かのタイミングで高名なデザイナーの方に依頼して制服をリニューアルしたそうなんです。美術館は展示が第一であって、制服に作家性が入っていたら、展示の邪魔になるに思うんです。
ー なるほど。

小森: 〈LE〉に関して僕は、金子さんのやりたいものをできるだけ形にしたいと思いながらやっていて。金子さんは僕の色を必要としているのかもしれないですけど、僕は自分がやった証をここに入れようとは思ってないんです。だから、着地のさじ加減でぶつかり合うことがない。そもそも、東京にはデザイナーがたくさんいるから、街の景色もこんなにガチャガチャしているのかなと思いますね。海外ではデザイナーの人数って限られるみたいなんですよ。だからヨーロッパとかもあんなに整っていて。どっちを取るかは一長一短なのかもしれませんが。
金子: 先日、池袋にある自由学園に行ってきたんです。あそこはフランク・ロイド・ライトが設計をしていて、彼は地面と建物の床の距離をすごく近くするみたいなんです。シカゴにもたくさん彼が設計した家があるみたいで、同じような思想で建てられているんですけど、日本はシカゴのような気候じゃないから湿気がすごくて、床が腐敗しちゃうみたいで、ほとんどの床が変えられてしまったそうです。つまり彼のエゴを取り入れたばかりに、結果として日本には合わなかったという話なんですけど。そういう意味で小森さんは、“整えデザイナー”として新たなジャンルを確立していますよね。
小森: 本当に整えているだけですからね。
金子: コンセプトに忠実にやってくれているのがうれしいです。「ここ、こうしませんか?」っていう話が一切ないんですよ。いろんなショップの内情を見てきましたが、オリジナルレーベルでこういうことができるのって本当に珍しいと思いますね。
小森: 尊敬するスタイリストさんが、「今、何かをつくるときは、みんながいろいろな服を持っている前提でやらなければいけない」と言ってたんですけど、本当にその通りだと思って。服なんてもういらないのに、それでも手に取りたくなるものをつくらないといけない。これからもっと服がいらなくなる時代になるなかで、せめてつくった人が自分で着たいものをつくらないといけないなってすごく思います。
金子: 本当にそうだと思いますね。今とくにごまかしの効かない時代になっているから。だから僕もわざわざお店に足を運んでもらうからには、自分が必要だと思うものしか置きたくないんです。今後はそういうお店やブランドしか残らないと思う。がんばっていかないといけませんね。