CLOSE
FEATURE
足がけ6年で辿り着いた納得のクオリティ。服好きたちを魅了するBEYONDEXXのデニム生地。
What is BEYONDEXX?

足がけ6年で辿り着いた納得のクオリティ。
服好きたちを魅了するBEYONDEXXのデニム生地。

〈ビヨンデックス(BEYONDEXX)〉というファブリックブランドをご存知でしょうか? 扱っているのはデニムという普遍的な生地。ですが、もちろん単なるデニムではありません。「古着サミット」でもおなじみ、〈ネクサスセブン(NEXUSVII.)〉の今野智弘さんが中心となり、ヴィンテージに造詣の深い識者や専門家たちが何年にも渡る研究を重ねて開発した、特別なデニム生地であるというのが特徴。目指したのは、ヴィンテージ市場でも高騰している「大戦モデル」のデニム生地でした。今回はその首謀者である今野さんと、ブランドに貴重な資料などを提供した「ベルベルジン(BerBerJin)」のディレクター・藤原裕さんを迎え、〈ビヨンデックス〉のスタートから現在、そしてこれからについて語ってもらいました。

  • Photo_Takeshi Kimura
  • Text_Yuichiro Tsuji
  • Edit_Yosuke Ishii

常識を取っ払ってゼロから考えないとできないような発想。

ー そのあいだに生地も並行して開発を進めていたわけですが、目指したのはどんな生地なんですか?

今野:まず最初に取り組んだのは1942年から46年のあいだにつくられていた「大戦モデル」と呼ばれるデニムアイテムに使われている生地ですね。「ベルベルジン」に何度も足を運んでますけど、ハンガーに掛かっている大戦モデルを見ると、やっぱり異様なオーラを発しているんです。他のヴィンテージデニムの生地と比べても全然ちがくて、視覚的にも差別化できるというのがつくりたいと思った1番の理由ですね。

藤原:大戦モデルのデニムって、生地に厚みがあって、色も濃いんです。ぼくはそれを“黒い”と表現しているんですけど。名前の通り、当時は第二次世界大戦下で、軍需に力を入れるために物資統制令を民間に強いていたんですよ。

今野:どうして厚くて濃いのかは、資料などがないから明確な理由はわかりませんが、統制令が出て物資が少ないから、より生地を丈夫につくって売っていたんじゃないかと思いますね。実際に縫製もそれまでダブルステッチだったものがトリプルステッチに頑丈に変更されているブランドもあるので。

藤原:国からの指令が出たっていう事実しか残ってないですからね。もしかしたら当時コーンミルズ社で働いていたおじちゃんとかが生きていたら、そういう資料を持っていたりするのかもしれないですけど(笑)

今野:大戦モデルだけ明らかに生地が厚いし、その時期は〈リーバイス®〉も〈リー〉も他社でも同じ生地を使っているんですよ。

藤原:その時期だけそうなんですよね。

今野:ぼくはワンポケットのGジャンが好きで、いろんなストアブランドのアイテムを集めているんですけど、大戦モデルと呼ばれるやつは、やっぱり生地感が厚くて迫力がある。仮にいろんなブランドのアイテムを形にするとなったときに、ひとつの生地で完結するんですよね。それもまたひとつ魅力だなと思っています。

ー それで再現したのが、こちらの生地であると。逆算すると、開発まで6年かかっています。

今野:そうなんです。それまでに6、7種類くらい生地をつくったんですけど、納得のいくものができなくて製品化せずに地元や紹介先の孤児院や施設の方々にバザーなどで使用する材料として寄付したりしていたんです。それであるとき裕くんから遂に大戦モデルの貴重な生地の切れ端をいただいたんですよ。

藤原:今野さんが大戦モデルのジーンズが手に入らないという話を聞いていたんです。そこで自分ができることといえば、ヴィンテージのジーンズを見せるか、こうした生地を提供することかなと思っていて。やっぱり資料として渡すならデッドストックの生地がいいというのは理解していたんですけど、さすがにそれを一部だけ切って研究用にするということはできないですよね。

でも、あるときうちのお店にあった大戦モデルのジーンズで状態のいいものが売れたんです。それがすこしだけレングスが長かったんですけど、接客をしながらそのままにするか、それとも裾上げをするか、両方の選択肢をお客さまにご提案しました。すると最終的にはお客さまが裾上げされたいということで、「余った切れ端はどうされますか?」とたずねたところ、「藤原さんのほうで処分してください」ということだったので、奇跡的に色落ちの少ない部分を手に入れることができたんです。

今野:その切れ端を軸に、裕くんにご紹介いただいた物凄いデニム識者の方々と一緒に研究したんです。そして糸形状を見てみると、すごく大きな発見があったんです。

ー 大きな発見というと?

今野:細かくは言えませんがとにかくいままでのデニムと全然ちがうんですよ。常識を覆されたというか、ぼくらは固定概念に縛られてものづくりをしていたんだなと気づかされました。自分が抱いている常識を取っ払って、ゼロから考えないとできないような発想だったんです。たとえば、この生地のなかに粒々があるのわかりますか?

ー ネップですか?

今野:これ、ネップに見えるんですけど、ネップじゃないんです。ネップは生地を織る際に意図的につくられるものなんですが、大戦モデルの生地では自然とでるようになっていて。それで生地が色落ちすると、ここだけ点のように色が落ちるんです。“点落ち”ってぼくらは呼んでいるんですけど。「大戦モデルってこうだよね」っていう固定概念も、実際に組成を数値化してみると予想とは全然ちがう結果がでてきたりして、それもすごく衝撃的でしたね。

ー 世界中にヴィンテージのコレクターや研究者の方々がいらっしゃると思うんですが、今野さんとおなじことをやられている方は他にいなかったんですか?

今野:糸の太さや撚りの係数を測ったり、そういうことをしている方はこれまでにもたくさんいらっしゃるかもしれないですね。でも、そこからきちんと生地をつくるところまで行き着いたという話は聞いたことがないです。今回は糸を別注したんですけど、その工場の職人さんはずっとデニムをつくられている方で、「こんなつくり方ははじめてだ」と仰っていました。

ー 糸は縦も横も別注なんですか?

今野:そうですね。糸もそうなんですが、今回は綿花の選定から慎重に専門家の方にやっていただいています。大戦モデルの糸をつくるために適正な繊維長のものを選ぶとなると、そこからやらないとダメなんです。

ー 染料も特別なものを使っているんですか?

今野:そうですね。この生地は縦糸がちょっと太いんですけど、その分、インディゴも深く入っています。そうするにはきちんと糸に対して染色をしなければならず、それができるところが限られてしまうため、そういう意味では特別なのかもしれません。

色が深く入っているぶん、他のデニムよりも育つのに時間がかかるんですよ。白くなるまでの段階を細かく刻めるので、グラデーションが生まれやすいんです。それも大戦モデルの魅力のひとつかもしれません。

INFORMATION

BEYONDEXX

beyondexx.com
Instagram:@beyondexx_denim

このエントリーをはてなブックマークに追加