なんてことない時間にこそ、人間らしさが滲みでる。
ー 公開間近ですが、今回松居監督の作品への出演を振り返って、高良さんはいかがでしたか?
高良:はじめに脚本を読んだとき、とにかくおもしろいと思いました。読み終わった瞬間に興奮して、ハマケン(浜野謙太)さんに「この本ヤバいですよね。いっしょにがんばりましょう」と言ったら、「そんなのあるの?」って何も知らなかったんです(笑)。出演候補に俳優の名前だけが挙がっているのはよくある話なんですけど、舞い上がって順番間違えちゃいました…やっちゃいましたね…。
松居:それ、何度聞いてもおもしろい(笑)。
高良:これまで松居さんの映画をずっと観てきて、このひとは映画と遊んでいるんだろうなと感じていました。ノリや勢いな部分がありつつ、松居さんのなかにはしっかりルールがあると思う。そして、どの作品も松居さんの個人的な思いが込められているはずなのに、それだけで終わらない。気づいたら登場人物全員の問題になっているという話が好きなんです。あと、本作もそうですが、見せる部分と見せない部分をつくるという松居さんらしい独特の構成、展開も魅力的です。

ー 映像作品をつくるうえで、高良さんがおっしゃっているようなルールをお持ちですか?
松居:高良くんが言った通り、描くべきところを描かないということを大事にしています。たとえば、本作で言うと明確な別れを描きたくないなとか、6人が仲良くなった文化祭のコントのシーンも描きたくない。いわゆるドラマチックとされているシーンが好きじゃないんです。毎年あたりまえのように行われている旅行ではなくて、その約束が壊れかけたある夜や、三回忌の次の年とか、いわゆる大事じゃなさそうな時間に身を置いているときのほうが、人間味が出るように感じていて。
高良:そういう時間がつづいたあとの、心臓を投げ合うシーン。なぜこのシーンを描いたのですか?
松居:あれは不思議なんですけど、心臓を投げ合いたかったんですよね。どうしても(笑)。
高良:え(笑)。
松居:撮影のとき、高良くんが心臓を投げる感情になろうとしてくれて、カットがかかったあともなんだかおかしなテンションになっていて。ずっと笑っていたよね? それがすごく印象的だった。

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高良:いや、あのシーン、ぼく、ほんと無理で…(笑)。ここでちゃんと語れないのが残念ですが、みんなの心臓の押し方が…だって、あれ、変ですよ(笑)。台本を読んであのシーンは震えましたね。文字で読んだら、何か宗教の教えになぞらえた話のようで、すごく高尚な物語だと思いました。
松居:死の向こう側の話なのか、とか?
高良:ぼくたちの体は本来入れ物で…とか、人生や命のメタファーみたいな。でも実際は、心臓を投げたかっただけなんだって(笑)。

ー 重要なところは描きたくないとおっしゃっていましたが、6人のやりとりを追うなかで、画面で描かれなかった過去の時間を感じました。松居監督にとって6人の俳優陣は、高良さんにとって彼らとの共演はいかがでしたか?
松居:さきほど友達の定義を聞かれてうまく答えられず、しばらく考えていましたが、利害関係がないというのはあると思います。要は、そこに損得がなくても成り立っている。演じた彼らも、こいつの演技がいいから目立たせるとか、このセリフのパスがうまいから注目させるとかない。ただそこにいるだけ。変な損得感情がない感じは、出演者にも通じるところがあったかなって思います。
高良:なるほど。ぼくは現場にいて本当に楽しかったです。それは、さっき話したように、この共演者でお芝居をしているときは、何かをはっきりさせなくてもやれた。お互いに野暮なことを聞かないでおこうとか、これを聞いたらこんな感じになるよなと、それぞれが考えていたんだと思うんです。
ー はっきりさせすぎないということですかね。
高良:そうですね、ノリや勢いで押し通すんじゃなく、自分を表現するときの美学やルールに近いもので、それをはっきりさせずにやれたのは珍しいことだと思っていますし、この作品では大事なことでした。監督から見てこの6人のキャラクターはどうなんですか?
松居:映像を編集したり、完成映像を観たりしていたら「会いたいな〜」と思うんだけど、実際に彼らを演じた俳優自身に会うと役とは違うから、頭のなかがぐちゃぐちゃになる。リアルな本人たちはもうちょっとゲス…(笑)。
高良:(笑)。みんなゲスだけどいいやつですから、また会いましょうね!

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