いろんなことにチャレンジしているブランドだと気付かされる。

PROFILE
ベース、ギター、鍵盤、サックスなどを演奏するマルチプレイヤー、河原太朗によるソロプロジェクト。さまざまなアーティストのレコーディングに参加する他、プロデュースなども行う。昨年、セカンドアルバム『LIFE LESS LONELY』を発表し、今年4月には新曲『PIECE』をリリースした。 Instagram:@tanaakin
ー 「Heron Preston for Calvin Klein」の服はいかがですか?
TENDRE:ぼくはフーディやスエットパンツを着ることがあまりなくて、家にいるときもラフな格好はあまりしないんです。だから今回着させてもらってすごく新鮮だったし、当たり前ですけど着心地もよくて、なんでこれまで着てこなかったんだろうというのが正直な感想ですね。サイズ感も自分の身の丈に合っていて、家でずっと着ていたいと思いました。
ー 家でもラフな格好をしないというのは、どうしてなんですか?
TENDRE:気を引き締めるためでもあるというか、家で曲をつくることもあるし、いつでも外に出られる状態でいたいんです。ダラっとするよりは、気持ちの面でもちゃんとしておきたいというのがありますね。

ブラックのフーディと、ブラウンのスエットパンツはどちらもオーガニックコットンで仕立てられたアイテム。適度にゆとりのあるシルエットでありながらも、オーバーすぎず、日本人に合うフィット感。さり気なく配されたオレンジのステッチなど、細かなディテールも魅力。フーディ ¥21,780、Tシャツ ¥11,880、スエットパンツ ¥18,480、ソックス ¥5,500(3足セット)
ー 今回の服、デザイン面はどうでしょうか? オレンジのステッチが入っていたり、フーディのポケットは服の内側からアクセスできるようになっていたり、ギミックもユニークです。
TENDRE:服の裏側からポケットにアクセスできるって、斬新ですよね(笑)。オレンジのステッチはいいアクセントになっていると思います。こうしたさり気ない主張があるからこそ着やすいし、他の服とも合わせやすい。こうしたディテールがあるのとないとでは違ってきますよね。どのプロダクトも一貫性があって、当然でしょうけど、合わせることでより一層こうしたアクセントが引き立つように思います。
ー これまで〈カルバン・クライン〉の服は着たことありますか?
TENDRE:実はないんです。〈カルバン・クライン〉は大人の男というイメージがあって、ぼくのなかではフレグランスの印象が強いですね。ビジネスマンの方がスーツをまとって、香水の香りを漂わせている感じ。ぼくが通る道ではなかったんですけど、どこか洗練されたイメージがあります。だけど、今回のコレクションを着てみると、そうした印象はブランドの一部であって、いろんなことにチャレンジしているんだなと気付かされます。
ー TENDREさんにとって、理想とする男性像みたいなものはあるんですか?
TENDRE:男性像という言葉がぼくはそもそも変だと思っていて。人間的に魅力だなと思うのは、ものを長く使うひとや、一個のものを突き通して愛するひと。それはモノに限らず、趣味や、身近なひとを愛することでもいいんですけど、それができるひとに惹かれます。例えば、ファッションだったら、特定のブランドがすごく好きっていうひとがいるじゃないですか。ぼくの場合は音楽ももちろんそうですし、家具の雰囲気や色味、年代、どういう経緯でつくられたかなど、それを知ったときにロマンを感じるんです。古いものが好きなので、それを徹底して好きでいられたらいいなって思ったりします。

ー ファッションに関しても長く着られるものを選んでいますか?
TENDRE:最近はそうですね。もともと古着を買うことが多いんですけど、何十年も前につくられたものなのに、きれいな状態のものがあるじゃないですか。そういうものを見るとかっこいいなと思うし、大事に長く着たいと思うことが年を重ねるにつれて増えてきました。もちろん着古してなんぼの服もあるけれど、いまは自分がおじいちゃんになって着ていてもかっこいいと思えるものを選んで着ています。
ー 日本では着物を受け継ぐ文化がありますよね。そうやって過去からの伝統を受け継ぐことも大事ですよね。
TENDRE:それこそうちにはおばあちゃんに貰ったタンスや実家から持ってきたものがあったりして、服だけじゃなくて、受け継ぐという文化はすごく好きですね。そこに新しく自分らしさを付け加えるというか。もし自分に子供ができたらそういうことをしたいと思いますし、古いものに限らず新しいものでも共有することが大事なのかなと思ってます。
ー 今回、ご自宅での撮影でしたが、楽曲の制作もここでされているんですか?
TENDRE:ここで完結する楽曲もあるんですが、家ではデモをつくったり、ゼロからイチの作業をする場所にしています。そうして生まれたものをレコーディングスタジオに持っていって、完成に近づけるというのが楽曲制作のプロセスです。だけど、家のなかでしかレコーディングできないものもあるので、そういう曲は家で録っています。基本的には作曲の場所という感じですね。

ー 撮影中に鍵盤を弾くシーンがあって、自由に弾きながらゆるやかに自然とその音色が聞こえてきたのがすごく気持ちよかったです。
TENDRE:がっついて練習するよりも、好き勝手に楽器を触っていたほうが上達するんじゃないかと勝手な信念を抱いていて(笑)。好きで触っていても、知らないうちに探求していたりするんです。楽器を触っていると落ち着くし、自分にとって一番自然な状態かなと思います。
ー 4月に新曲『PIECE』がリリースされて、ライブも徐々に増えている印象ですが、最近の活動に関してはどんなことを感じていますか?
TENDRE:徐々に循環してきた感覚です。去年はライブが思うようにできなくて、いまは感覚を取り戻す作業をしています。それでも自分と向き合って曲をつくる時間も果てしなくあるし、前向きに順当になってきています。


ー 『PIECE』はどういったときにできた曲なんですか?
TENDRE:今年に入ってからつくった曲なんです。去年は孤独に向き合うアルバムをつくったんですが、年が変わっても状況に変化が見られなくて、上手に切り替えられない部分があって。もしかしたら切り替える必要なんて全然ないのかもしれないですけど。そういう状況のなかで自分やひとに対して思うことを曲にしようと思ってつくりました。
とある映画を見ていたとき、そのなかで語られていたことが結構胸のなかに刺さって。その機微みたいなことを歌詞に書こうと思ったんです。たまたまそれが自分がメジャーになるタイミングでもあったりして。だからといって大々的にこれまでやってきたことを変えるんじゃなくて、いつも通りのマインドで、自分たちの幸せをみんなで大切にひとつずつ拾っていこうと思ってつくった曲ですね。
ー それはどんな映画だったんですか?
TENDRE:『ソウルフル・ワールド』という映画でディズニー作品なんですけど、主人公がジャズをやっているんです。だけど音楽映画ではなく、生活の一部として音楽があって、そこが自分と重なって共感できた部分なんですが、死生観みたいなものも物語に含まれていて。生きるも死ぬも隣り合わせななかで、自分にとっての幸せであったり、あり方を探るような内容で、すごく刺激を受けたんです。
幸せの形ってみんなそれぞれ違うと思うし、俺がいれば幸せだろうっていう一方的なアーティストにはなりたくなくて、やっぱりみんなでそれを探り合いながら生きていきたいと思っていますね。

ー これからさまざまなフェスイベントやライブが控えていると思うんですが、そこに向けていま思っていることはありますか?
TENDRE:やるからには120パーセントの力でやりたいです。いまはお客さんが声を発しちゃいけなかったり制約も多くて、そのなかでベストな形を模索しています。ライブを見ているお客さんはきっと声を出したいはずだし、ぼく自身も歓声を求めたくなることもあるんです。マスクをしながら静かにライブを見なきゃいけないお客さんに対して、目を見合わせることが大事かなと思っていて。だんだん一人ひとりの目を見れるようになってきたし、そのひとが何を考えているんだろうって考えながら歌えるようになってきました。結局同じ瞬間や場所をつくり上げることに変わりはないので、お互いのベストを探りながら、いいライブをしたいと思っています。
ー 最後に今後の目標ややりたいことについて教えて下さい。
TENDRE:まずは東京以外の人たちにも会いにいけるようにがんばっています。いろんなライブが延期や中止になったりする昨今の情勢のなかで、そうならないために声を上げることが大事かなと。もちろんいい音楽をつくることも忘れずに、心置きなく日本各地、あとは海外にも行ける未来にするために、いまできることを全力でやっていきたいと思っています。