池松くんはまだ若いのに、現場で…。
ー 現場の人間関係を作ることも含めて仕事になっていくという。
池松:当然のことです。人が集えばトラブルや揉めごとは起こります。そこはひたすらに努力が必要です。まして今回はさらに大きな文化の壁が存在しました。でも、それぞれがこの映画のなかで家族であり続けること、互いの間にあるものではなく、互いの前にあるゴールをあきらめなかったことが、奇跡のように映画に映っていました。
ー 池松さんとオダギリさんが一緒に殴られるシーンがありますが、兄弟二人いっしょにビビっちゃってる様子が印象に残っていて、あの感情の共鳴っぷりはまさしく家族だな、と。兄弟らしさを演じるためには、どんな工夫を?
池松:オダギリさんが空気を作り、引っ張っていってくれて、どちらかというと僕がそれを受け入れるという関係性でした。そこにうまく乗っかったり反発したりするだけで充分に兄弟に見えるということを初日に確信しました。ベースは石井さんが整えてくれていましたし、あとは互いに思うようにやって、その都度瞬発的にセッションしていくやり方でした。オダギリさんという人間性を好きでいられたことが何よりの助けになりました。

オダギリ:石井監督の掌の上で「ここまで行ってもいい、ここまでは行かない」みたいな距離を測りながら演じていたんですけど、僕が何をやったとしても、池松くんはちゃんと反応してくれるんですよね。池松くんのバランス感覚の良さはわかっていたし、心配とか不安は全くなかったです。だから、役を作り上げたという感覚より、むしろ日々その場で何が生まれるかを楽しんでいた、という記憶が残っていますね。
ー この映画を通してお互いのイメージや関係性は変わりましたか?
池松:これまでも共演はあったんですけど。これだけ深くご一緒することはなかったですし、兄弟っていうことも、日本ではなく韓国で撮ったっていうことも合わせて大きかった。兄弟ならではの特別感のようなものが残っています。すごく信頼していますし、尊敬しています。また兄弟役をやりたいですね。

オダギリ:嬉しいですね。そんなふうに言われると恐縮しちゃいます(笑)
ー 撮影現場の楽しさが想像できます。
池松:楽しかったですね。オダギリさんは日本にとどまらず海外で撮影することを沢山やられてる方で。どういうふうに違う国の人とセッションしていくのかっていうのを僕も楽しみに見ていたんですけど、本当に大胆で。
オダギリ:ええ〜?! そう?
池松:こんなに大胆なんだ!と思いましたよ。オダギリさんならではだと思いました。今回は役柄もあって、大胆さとユーモアで俳優チームだけじゃなく現場全体を引っ張ってくれていました。
ー 大胆さをどういうところに感じたのでしょう?
池松:ひとつの現場で全てわかるわけではないけれど、選び方、遊び方、仕掛け方、本当の意味で映画と戯れることができる方なんだと思います。見ていてとても面白かったです。

オダギリ:自覚してなかったですね。僕はどちらかというと小心者というか、いろいろ測りながら距離を詰めていくタイプの人間なので。大胆だとは思っていなかったんですよ。それこそ、海外だからかもしれないですね。外国にいると、普段に輪を掛けて自由な感じがしちゃいません?(笑)
ー 開放的な自分が出てくる感覚、わかります。
オダギリ:自分のことを知っている人も少ないし、より自由に芝居を楽しんでいるのかもしれませんね。僕は逆に、池松くんの印象が大きく変わったことがあって。池松くんはまだ若いのに、現場で携帯を全く見ないんですよ(笑)。
池松:(笑)
ー それ、実はすごいことじゃないですか。
オダギリ:そう、今の時代、すごいことなんです。しかも台本も現場に持ってこないんです。もちろんセリフはちゃんと入っているんですよね。それって僕らの世代の役者が先輩から教わってきたことなんです。「俳優としての在り方、プライド」みたいなこと。僕らより下の世代は、そういうことを教わっていないからか、携帯を見るのはもちろん、空き時間に「Switch」とかやってる役者もいて(笑)。ダメってことはないけど、作品に対する覚悟が違うのはわかるじゃないですか。池松くんのような“絶滅危惧種”みたいな俳優に久しぶりに会ったので、好感を持っちゃって(笑)。
池松:(笑)。人が触ってる分には何とも思わないんですけど、正直に話すと確かに撮影現場で携帯を触るというのが僕としては好きではないんです。でも全く触らないっていうふうに決めてるってわけではないですし、触ることもあります。オダギリさんと次の現場でも一緒だったんですけど、共演の麻生久美子さんにそのことを話したらしく、「池松くんって、全然携帯触らないらしいね!」って麻生さんに言われて。余計に触れなくなりました(笑)
ー 携帯を見ない俳優、という印象が(笑)。
池松:何気なく携帯見ようかなと思っていたときに言われたので、そっとポケットにしまいました(笑)
オダギリ:麻生さん感心してたよね。彼女は携帯めちゃくちゃ見るタイプだから(笑)