CLOSE
FEATURE
世界観を排除したものづくり。 アプレッセが提示する匿名的なファッションの在り方。
CLOTHING EDITORIAL DEPARTMENT

世界観を排除したものづくり。 アプレッセが提示する匿名的なファッションの在り方。

「このブランドの強みは世界観がないことです」。2021年秋冬にデビューしたブランド〈アプレッセ(A.PRESSE)〉のディレクター・重松一真さんによる言葉です。匿名性を保ち、ブランドの色を排除することで生まれる究極のシンプルネス。しかしながら、そこには服好きだからこそ気づくことのできる豊かさが隠されています。これまでに数々のファッションブランドやプロジェクトのプロデュースを手掛けてきた重松さん。彼だからこそ生まれる視点で“編集”されたファーストコレクションについて、公私ともに交流があるという「1LDK」のディレクター・三好良さんとともに語ってもらいました。

  • Photo_Ari Takagi,Shunya Arai(LOOK)
  • Text_Yuichiro Tsuji
  • Edit_Ryo Komuta

PROFILE

重松一真

アパレルの輸入代理店を経て、「アンシングス」を設立。〈ダイワピア39(DAIWA PIER39)〉や〈ウィークエンド(WEEKEND)〉などドメスティックブランドやスポーツブランドのプロデュース及びセールスをおこなう。2021年のAWより自身がディレクターを務める〈アプレッセ〉をスタートした。

PROFILE

三好良

ショップスタッフ、プレスを経て、現在は「1LDK」のディレクター、顔役としてショップのディレクションやバイイングを担当。他にもオリジナルアイテムのプロデュースなども行う。重松さんとは公私ともに交流がある。

自分たちのことを、服を編集する編集部のように見立てている。

ー 〈アプレッセ〉のコンセプトについて教えてください。

重松: ぼくは毎日のように同じ格好でいるんです。三好くんともしょっちゅう会うんですけど、二人ともいつも同じ服ばかり着ていて。つまりはクローゼットのなかにある1軍の服が決まっているということなんです。でも、もっといろんな服を着たいじゃないですか。だから1軍選手を増やしたいと思ってスタートさせました。だけど自分の好みだけでものづくりをしていても限定されたことしかできないので、いろんな人と関わりながら服をつくっているんです。

ー 重松さんはデザイナーではなく、あくまでディレクターという立場を取っていますよね。

重松: はい。ぼくの他に2名のデザイナーがブランドに関わっていて、3人で編集をするように服をつくっています。みんなアメリカの服もヨーロッパの服も好きなので、そうしたアイテムのいいところを上手に編集しながら服をつくったら、どういったアイテムが生まれるのかなと思ったのがきっかけです。〈アプレッセ〉では“CLOTHING EDITORIAL DEPARTMENT”というテーマを掲げていて、自分たちのことを、服を編集する編集部のように見立てています。

ー いろんな人と関わりながらひとつの記事をつくるように、〈アプレッセ〉もいろんな意見を汲み取りながら服をつくっているということですか?

重松: そうですね。ぼくのパーソナルなブランドにはしたくないんです。ファッションブランドって、そのシーズンのコレクションを通して世界観みたいなものをつくるじゃないですか。でもぼくたちが〈アプレッセ〉でやっているのは、単品の表現なんです。みんなで話し合うなかで出てきたアイデアを丁寧にまとめて、ひとつのアイテムをつくっています。

Double Breasted Jacket ¥79,200
コンセプトは日常で大人が着れる現代的なセットアップ。素材はウール×リネンで3シーズン着用できる。経糸に梳毛を、緯糸にリネンを使用することで、ヴィンテージライクな表情に。またピンストライプを採用することでクラシックなイメージに。丸みのある肩周りが特徴。

ー コレクション内でコーディネートを全身組むというよりも、気に入ったものがあれば、それを自分のワードローブに組み込むような感覚ですね。

重松: 仰る通りです。一般的なブランドは、例えばアウターをつくったら、それに合わせてインナーやパンツもデザインするじゃないですか。ぼくらのブランドにはコートも、ニットも、シャツも、パンツもありますが、それぞれが独立しています。1点つくったら、そのアイテムはそれで完結なんです。だからルックも、〈アプレッセ〉のアイテムは各コーデにつきだいたいひとつしか使っていなくて、他は古着でコーディネートを構成しています。

ー “編集部”にはどんな方々がいらっしゃるんですか?

重松: メディアには出ない方々なんですけど、名だたるブランドやセレクトショップでデザインをしていたり、立ち上げに関わってきた方ですね。ファッション業界内では有名な方たちですが、それも言ってしまうとブランドに色がついてしまうので、あまり言いたくないんです(笑)。

ー みなさん好みは似ているんですか?

重松: 似てますね。ベースになっているのは古着なんですが、ぼく以外のふたりは生地にも詳しくて、うんちくを語るとすごいので、そうした意見を参考にしながら編集しているという感じですね。

ー 〈ダイワ ピア39〉、〈ウィークエンド〉など、様々なブランドやプロジェクトのプロデュースやセールスを担当してこられた重松さんが、そもそもブランドをスタートさせようと思ったのはどうしてなんですか?

重松: いままでは裏方のなかの裏方みたいな仕事をすることが多かったんですが、これまでたくさんの先輩方と一緒に仕事をさせてもらうなかで、「そろそろブランドでもやったら?」ということをよく言われるようになって。それこそ「レショップ」の金子(恵治)さんとか。それでやる時期を見計らっていたんですが、ようやくこの秋冬にスタートできるようになったという感じですね。

ー 三好さんとは古くからの知り合いですか?

重松: いや、まだ3年くらい?

三好: そうだね、仕事で繋がってそれくらい経つね。

ー 重松さんはどんな人ですか?

重松: 変なこと言うのやめてね(笑)。

一同: (笑)。

三好: ぼくらお互い上の年代の方々とお仕事をさせてもらうことが多いんですけど、そのなかで重松さんは年齢がすごく近くて。まだ30代前半なんですけど、それこそ先ほど話にもあった〈ダイワ ピア39〉を軌道に乗せたりして、単純にすごいなと思っていたんです。ファッションとしてのカッコよさはもちろんですけど、プロデューサーやセールスとしてきちんとビジネスに関して考えている人だと思っています。

重松さんはブランドのセールスとして、ぼくはお店のディレクターとして、本来は取引をする関係でしたが、一度〈アブガルシア〉というブランドのプロジェクトに参加したときに、同じチームのメンバーとして仕事をしたことがあるんです。そうして距離が近くなった間柄で話をしたときに、自分とすごく感覚が似ていたんですよ。

ー そんな重松さんがブランドをスタートすると聞いて、どんなことを思いましたか?

三好: めちゃくちゃプレッシャーを感じているだろうなって(笑)。プロデューサーとしていろんなブランドを成功させてきたから、自分でやるとなったときは下手なことできないだろうなと。それに、その成功を妬んでいる人たちもきっといるはずなんです。業界内でも目立つ存在だし、その重圧に負けられないだろうなと思って。

重松: 正直、プレッシャーは全然感じてなかったですよ(笑)。この服は間違いないっていう自信はあったんです。バイヤーさんたちになんて言われるかな? っていうのはありましたけど。自分のブランドよりもむしろ、クライアントさんのブランドのローンチのほうがドキドキするんですよ。失敗したらどうしようって、言い訳ばかり考えますから(笑)。自分のブランドなら、自分が責任を取ればいいだけの話なので、気持ち的にはラクでした。もちろん評価は気になりましたけど、みなさんよかったと仰ってくれたので、ありがたいですね。

INFORMATION

A.PRESSE

Instagram:@a.presse_

このエントリーをはてなブックマークに追加