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点は線に、やがて面となる。The TINY INNから始まる、福生の街づくり。
May change the town.

点は線に、やがて面となる。
The TINY INNから始まる、福生の街づくり。

米軍横田基地のある街として知られる、東京都福生市。街を横断する国道16号線すぐ近くの一角に、「カーライフサービス多摩車両」が手がける宿泊用タイニーハウス「The TINY INN」があります。隣接する「Delta EAST」という施設には、フードトラックやスケート用のボウルがあり、どこか異国情緒あふれる空間です。この2施設の企画・運営を担うNPO法人「FLAG」副理事の佐藤竜馬さんは、食、宿泊、カルチャーなどを通して、福生の街に新しい風を呼び込もうと奮起しています。佐藤さんを軸に、街づくり文化と食文化を築いてきた、憧れの偉大な先輩二人とともに福生の街の未来について考えてきました。

一所懸命オールを漕がないと、船は目的地に着かない。

ー 佐藤さんは、福生で生まれ、育ったんですよね。

佐藤:若い頃は福生出身と言うのがイヤでしたね。「どこに住んでるの?」と聞かれると「立川の方」とあまり胸を張って福生と言えなくて…。

佐藤竜馬(NPO法人「FLAG」副理事) 福生で生まれ育ち、都心で広告デザインやマーケティング業務で長年経験を積む。アーバンデザイン、コミュニティデベロップメント、地域資源を活用した地域再生事業やまちづくり、米軍ハウスなどプロデュースするNPO法人「FLAG」を立ち上げ、2019年に宿泊施設「The TINY INN」を含む「Delta EAST」を福生にオープン。

ー それでも、福生の街に魅力を感じたからこそ、この「The TINY INN」と「Delta EAST」をつくられたと。

佐藤:福生という街は危険ではないけれど、ちょっと不良っぽく、イリーガルなイメージがあるじゃないですか。そういうところは、この街の魅力に見えることもありますよね。でも、そういうアンダーグラウンドなカルチャーはあったものの、ビジネスが上手ではないから、文化的なことをビジネスにできる人がなかなか育たなかったと思うんです。

でも、最近では世の中もいろいろと変わってきましたよね。アメリカのポートランドへ行った時に、仲間とつくった会社やスモールビジネスが街のいたる所に溢れていて、個性を生かしながらも面白いビジネスをしている人たちが生き生きと生活しているのを目の当たりにしました。福生がそういうことをどんどんやっていける街になったらと思って、「カーライフサービス多摩車両」の猪股浩行さんに相談したら、共同で事業を始めることに。さらに、「カーライフサービス多摩車両」が「東京観光財団」の実施しているNature Tokyo Experienceで支援を受けることもできて。とにかくお金がなかったので、まずは自分たちでやってみようということで形にしたのが「The TINY INN」です。

「The TINY INN」はタイニーハウスを活用したモバイルホテル。ここを拠点に、福生の街を楽しんでもらいたいという思いから、しつらえは泊まるうえで必要なベッド、トイレ、シャワー、エアコンのみとシンプルに。最大二人まで泊まれ、ハイシーズンを除くひとりにつきの通常料金は、平日は3,500円、休日が15,000円とリーズナブル。

「The TINY INN」に隣接して5台のフードトラックが軒を連ねる「Delta EAST」がある。そのひとつが佐藤さんの経営する「DOSUKOI PIZZA」。ニューヨークスタイルのピザを提供し、腕前は昨年都内にオープンした話題のピザ屋の立ち上げをサポートをしたほど。一番人気のペパロニホールにペパロニをエクストラトッピングしたピザ(4,900円)を選択し、食べながらお話を聞いた。

ー たしかに、ここにはポートランドに似た雰囲気がありますね。始めて3年ということで、スタート時と心境の変化はありましたか?

佐藤:いままで京都のホテルをつくったり、沖縄でビーチハウスの企画やプロデュースをしたりしてきましたが、結局は人のお店や事業であって、自分たちでやるのはここが初めてです。情報で聞くのと、実際の体験はまったくの別物ですね。船を自分で買って漕いでみると、そのオールがどれだけ重くて、どれだけ夜の海は怖いのかみたいな感じで。本当に一所懸命漕がないと目的地に着かないんだなとか(笑)、そういうことを毎日リアルに感じています。福生はヒップスタイルの街でとても魅力があって面白いのですが、実際にお店をやるとなると話は全然違いますね。

中島 武(「際コーポレーション」代表取締役会長兼社長) 1948年生まれ。80年代よりアンティーク家具やアパレル、飲食店を福生にオープンし人気店に。
現在「紅虎餃子房」とはじめとする飲食店や骨董等を扱う物販店舗、京都、金沢等でホテル旅館など国内外を合わせ約360店舗を展開している。

中島:やはり飲食業界を長くやってきた自分からすると、この場所で1日にピザを100枚売るにはどうしたらいいのかとかを、考えて考えて考え続けなきゃいけないと思うわけだよね。話題になるための仕掛けづくりとか。やる以上、やっぱり生ぬるいことはやっていられない。ぼくが福生のこの一帯にお店をつくった時は、毎日店に出てあれこれチェックしていたからね。

佐藤:たしかにそのお気持ちはすごくよくわかります。(中島)武社長のように、その人が現場に来ると空気がピリッと引き締まるみたいな部分と、周りに慕われるような人間性の部分の両方を大事にしたいですね。

ただ、ぼくたちの事業は資金も潤沢ではないので、フードトラックの装飾なども全部自分たちでDIYしてやってきました。どうやってお金をかけずにかっこいいことをするのか、どういうふうに省いていくのがいいのかということを考えていましたね。「Delta EAST」も「The TINY INN」もそうですが、足りなければ自分たちでつくればいい。そんなDIYスピリットも、この場所の魅力として明確になってきた気はしています。

黒﨑輝男(「IDÉE」創業者、現「流石創造集団」社長) 1949年生まれ。「IDÉE」を設立し、日本の住環境の文化に大きな影響を与えてきた。その後「Farmers Market @UNU」「246Common(現在はクローズ)」「IKI-BA」「みどり荘」などの「場」を創出し、新しい価値観とカルチャーを社会に注入している。

黒崎:そういう貧乏だけど夢があるという状況では、発想力やイマジネーションなどのクリエイティビティが必要だよね。たとえば、この辺に住んでいる貧乏だけど話してみるとすごい面白い人とか、アートで生計は立てられないくらい無名だけど作品はいいとか。この辺りにはそんなアーティストくずれというか、くすぶっている人もいっぱいいると思うから、そういった人たちと交流して束ねると、それが財産になる。

そういった面白いものが何かあることで、面白い人も、お金持ちも、貧しい人も関係なく、いろいろな人が集まって来るという状況をつくっていく。ぼくは常々「状況をつくる」と言っているのだけれど、それは情報や人の力とか、施設の建築やインテリアの力、それに食べ物。いろいろなものが合わさって状況ができてくる。

「Chee Chee Chee CHICKEN/七七七鶏飯店」のメニューはとにかく鶏づくし。頼んだのは左上から時計回りにチキンフォー(1,200円)、チキンのバインミー(1,000円)、レモン&ペッパーとハニーマスタードのチキンウイング 6P(1,000円)。

ー 「場所」だけをつくるのではなく、そこで起こる「状況」をつくると。

黒﨑:「状況」をつくるには人がすごく重要。面白いけどダサい人って結構いっぱいいるけど、ただ面白いだけだとそこに人は集まらない。かたや、安くて美味しいものがあれば、人は来るけど育たずにそれで終わり。そこにプラスして何か心が動くような、本質的なものがないとダメなんです。もしくは、それは何なんだろう?という発想とかね。

たとえば福生ではアンティークがあるから、それにプラスして建築やデザイン、音楽などを入れたりして。総合的にみんなで集まって、思いつきを出し合い、何がいいかを広げていくという動きがこの界隈であればいいんじゃないかな。そういうことはひとりで考えていてもダメ。3人、5人、10人と人が集まって考えるようになると、状況が変わってくるはず。

INFORMATION

The TINY INN

ホームページ

Nature Tokyo Experience

多摩・島しょエリアに広がる“東京の自然”を活かし、体験と交流による新たなツーリズムの価値の創出を目指す事業を応援するプロジェクト。
ホームページ

協力/東京観光財団

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