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耳と目で感じる、浅井健一のピュアネス。そしてスカイブルー。
Feel The Benzie

耳と目で感じる、浅井健一のピュアネス。そしてスカイブルー。

パッケージメディアからサブスクへと音楽の視聴形態が変わり、更には興行に際して制約の多いニューノーマルな現代。音楽業界にとって逆風とも言える状況で多くのミュージシャンが新しい表現のかたちを模索するなか、浅井健一氏は泰然としつつも着々と活躍の幅を拡げています。今年、そのキャリアのなかでも最長の活動歴を誇るSHERBETSが待望の新譜『SAME』を引っさげて再始動。同時に画集『Beauty of Decayed Trans Am』の上梓と個展の開催も発表となりました。レーベル設立から20年を超えたいまも精力的に活動する浅井氏に、新譜と画集のリリースを記念して、ふたたび会いに行くことに。ファン丸出しのミーハーな質問にも自然体で答えてくれた吟遊詩人であり絵描きの言葉を、前回同様に出来る限りそのままお届けいたします。

人生も半ばを過ぎて紡がれる、失ったものへの追憶と未来への肯定。

—サブスクで楽曲単位で聴くことが増えてアルバム単位で聴く機会が減ったのですが、今回の取材の前にやはり1枚のアルバムを頭から最後まで聴くと「これぞ音楽鑑賞だな」という深みがありました。

アルバムとしての完成度が高けりゃ、ね。自分がつくったのはどれも最初から最後まで聴けるとは思っとるけど。そうでもないか、昔の曲は一曲がめちゃくちゃ長かったりするので、一回聴くと頭がいっぱいになっちゃってしばらく聞かなくても大丈夫。なんてアルバムもあったかもしれませんね。自分の考えとしては。どんなふうに自分たちの音楽を聴いてもらっても嬉しいと思いますね。

『SAME』は去年から今年にかけてつくってたんだけど、そのときに浮かんで来た「これいいな」って思う曲を20曲ほどつくりまして、最後にチョイスして並べた感じかな。

—『SAME』に込めたテーマは何かありますか?

テーマはその時自分の中から出てくるものでいいかな、って思ってるね。日頃から色々なものを見て感じてるから。30代の時に感じたことが30代につくったアルバムになっとるし、いまは人生もだいぶ後半になりかかって来た57歳の人間の発する言葉が自然にアルバムになっとるから。もしテーマがあるとしたら、自分の気持ちに素直なまんま作品にしてるってことかな。毎回そうだけど。

—『Happy Everyday』のようにSHERBETSらしいストレートな楽曲もありつつ『おフランス』のような曲もあったりと、年齢を重ねたからこそのバリエーションがあるように思いました。

『おフランス』ね。一番気に入ってるんだよね(笑)。

—パリの街角を散歩している情景が目に浮かぶようで、ぼくも好きな楽曲です。簡単に海外旅行が出来ないご時世の中で聞くと……。

懐かしさ? あの時は良かったなぁ、みたいな。

—はい。失った世界への憧憬があるように思いました。

そう。この歳でつくると、自然とそうなっちゃうんだよね。「さあ行くぞ」みたいな曲にはならないんだわ。そういうのを無視して作詞することもできるけど、20代の子がつくる曲とは全然違うよ。『おフランス』にしても、昔の思い出話だからね。補足しておくと、飴玉だけじゃなかったから。一番最初に入ったのが飴玉3つで、その後にちゃんと小銭を入れてくれた人がおって、最終的に48フランぐらい貰えた。その時まだカメラはフィルムだったから、フィルムケースに入れて飴玉と小銭をまだ取ってあるんだよね。

注)歌詞中に「バスティーユの地下道で 勇気を出してギター 弾いてみた 宇宙語で/そしたら誰かがさあ 通り過ぎた時にさ/ギターケースに 何か入れた/嬉しすぎて さらっと 見たら/なんと 飴が3つ!」という箇所がある。

—歌詞に書いてあることはモロに実際の体験なんですね。

うん。フォークダンスはしとらんけどね。

注)「そっこら中のカフェで もうみんな飲んでるよ/OK フォークダンスタイム」という箇所がある。

—今回の新譜で『おフランス』以外に気に入っている曲は?

『Grantham』。この曲はAJICOの『接続』の姉妹曲と言うか……。AJICOでもこの歌詞で提案したんだけど、UAが「歌詞は自分でつくるよ」ってことだったから、それも嬉しいから任せたんだよね。でも俺はこの歌詞がすごく好きだったんで「このかたちでいつかやるよ」とは言ってあって。『接続』とサビのコードは違うけど、Aメロは同じでキーが違うだけ。そのまま眠らせるのはもったいないなって思ったんで、かたちにしておいた。

—バンド違いで対になる曲があるのは、浅井さんのプロジェクトの楽しみ方かもですね。それから、初回限定盤のボーナスディスクも聞き応えがありました。

ボーナスディスクはルームレコーディングとリハーサルの風景をハンディレコーダーで録ったものだけど、すごくレアだと思う。中でも『LIP CREAM』って曲がすごく良いし、曲に合わせて個展会場の物販用にリップクリームもつくったんだわ。

—ツアータイトルにもなった『欲望の種類』に込められた意味とは、どんなものでしょうか?

みんな自分が幸せになりたいってのが根本にあって、そのためにお金を稼いだり家庭を築いたりして頑張っとるでしょう。それは良いことだし当たり前のこと。だけど、自分が幸せだったとしても隣には不幸せな家庭があったとするじゃん。「自分だけが良ければとりあえず良いや」ってなるのは生き物の本性で否定なんかはしないし、それがひとつの欲望だと思う。だけど、周りの人も楽しくないと心のどっかが苦しい。だから周りの人もなるべく多くの人が笑い合えるような社会とか国でありたい、って言うかさ。それは少し種類が違う欲望でしょ?

もう一段高見というかさ、崇高というか。自分たちだけがうまい具合にやっていればそれで満足だっていう欲望と、それからもう一段階進んだ「みんなも嬉しくなくちゃ気持ちよくなれないよ。だからそこに向かうんだ!」っていう欲望って種類が違うじゃん。そのこと。

自分はたくさんの人を傷つけてきたと思っていまして、利己主義な所もあるのは知っていて。だから歌は綺麗でいたい。なんて勝手なことを思っているんです。

INFORMATION

SHERBETS

SEXYSTONES ONLINE STORE

SHERBETS 『Same』
独特な世界感がさらに深く、鮮やかに描きだされた約6年振り通算11枚目のオリジナルアルバム。

CD収録曲(初回・通常共通)
1.MIA
2.欲望の種類
3.Vanessa
4.Grantham
5.おフランス
6.Toy Address
7.Happy Everyday
8.STUDENT
9.CHELSEA
10.Lonely Night

初回限定盤
ルームレコーディング、リハーサルスタジオで録音された 超レアな音源を7曲収録。
「LIP CREAM〜A Moment Rehearsal and Recording Rare Disc〜」
1.COLD HOT
2.Cad Camel
3.LIP CREAM
4.やったるわ
5.Faraway
6.トゥル
7.セレナーデ

通常盤
品番:VKCS-10063
価格:3,000円+税

初回限定版
品番:VKCS-10061〜10062
価格:4,300円+税

SHERBETS 「欲望の種類 TOUR」
5月21日(土)から6月23日(木)にかけて、全国10か所のライブハウスを巡るツアーが決定!

価格:7,700円
イープラス
ローソンチケット
チケットぴあ

浅井健一 作品集 『Beauty of Decayed Trans Am』
夢溢れる場面、ぶっ飛んだキャラクター達、美しすぎる景色、理想の車など 唯一無二、独特の世界の絵が200ページオールカラー!

品番:SSR-055
価格:5,500円(TAX IN)
判型:H300mm X W220mm
発売日:2022年4月22日(金)
SEXY STONE ONLINE STORE

浅井健一 個展 『Beauty of Decayed Trans Am』
会期:4月22日(金)〜5/14(土)
時間:13:00〜19:00 (月曜・休)
場所:Roll
住所:東京都新宿区揚場町2-12 セントラルコーポラス105号室
電話:080-4339-4949(受付:13:00〜19:00)
https://yf-vg.com/roll.html