about
10歳の時に、誘拐事件の“被害女児”となり、広く世間に名前を知られることになった女性・家内更紗(かない さらさ)と、その事件の“加害者”とされた当時 19 歳の青年・佐伯文(さえき ふみ)。二人の再会を描いた物語。
言葉にできない複雑さを抱えている人は確かにいて、だからこそ、この映画を描く意味がある。

ー まず、完成した映画を観て、ご自身でどう感じたか教えてください。
佐伯文という人物は、これまで演じてきた役のなかで最もハードルの高かった役です。だからこそ、一度目の試写では客観的に観れなくて、お願いして二回目を観させてもらって、ようやくこの物語を受け止めることができました。
世間に届いている情報と、文が抱えている真実、更紗が抱えている真実が、板挟みになって、こすれてこすれて、すり減っていった二人がギリギリのところで手を繋いでいく。そういう物語だと解釈しています。
この二人の関係性は、家族とか親友とか恋愛とか、言葉では括れない、強くて、そして繊細なもの。そういう感情がこの世に存在しているーーー存在していてほしいという希望のような感情を抱きました。
ー 松坂さん自身は、言葉では表現しにくい強い繋がりを、これまで感じたことはありますか?
振り返ると自分にはなかったなと思います。この映画は、言葉では言い表せないような繋がりを描いていて、僕はそれを経験したことがないなと。それは文を演じる中で初めて触れたもので、なんていうか、その強さに憧れのような感覚もあります。

ー この映画が、どんな人に、どのように届いてほしいと思いますか?
文の真実に関わる内容で、ネタバレに繋がるので言葉を選ばないといけないんですけど、他人には言えない事情を抱えている人って、決して少なくないと思うんです。そういう人たちにこそ見てもらいたいな、と思います。
役作りをする上で、文献を調べたり、さまざまな方に話を伺いました。とても難しい役だなと改めて感じたし、本当にセンシティブな真実を抱えている人がいるんですよね。でも、描かれにくいものを、できる限り丁寧に、真摯に描くということができたなら、それは映画の他には代え難い価値だと思うんです。
ー 演じる上では、勇気も必要だったのでは?
そうですね。大きな責任と不安がありました。ただ、この役に挑戦するモチベーションになったのは、「複雑なものを抱えている人が、この映画を通して何か感じてくれたらいいな」という思いなんです。それはずっと一貫していましたね。