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FEATURE
演じるために、人をもっとわかりたい。映画『流浪の月』公開記念、松坂桃李インタビュー。

演じるために、人をもっとわかりたい。
映画『流浪の月』公開記念、松坂桃李インタビュー。

人はいつも多面的だ。それなのに、私たちはニュースやSNSを通して、誰かを理解した気になってしまう。わかりやすいフレーズが一人歩きし、断罪する言葉が飛び交い、曖昧な領域はなかったことにされてゆく。
映画『流浪の月』は、ある出来事の背景にある、繊細で曖昧な感情・関係性を描いた物語。誘拐犯と見なされて捕まった男と被害女児として報道された少女、二人のその後の人生は、人々が知っているつもりの真実とは異なる様相を呈している。
本作において主演の佐伯文を演じた松坂桃李は言う。「この役を理解するために、自分が思いつく限りのことを全てやりました」と。物語の中に生きる人物を深く理解し、演じようと試みる彼の真摯な姿勢は、情報が溢れる社会を生きる私たちに示唆を与えてくれる。

  • Photo_Yuuka Eda
  • Interview&Text_Taiyo Nagashima
  • Edit_Ryo Komuta

「遊戯王の人」みたいにイメージが固まるのは、嫌ではないけど、ちょっと違う。

ー 文という人物は、松坂さんご自身のパーソナリティとは距離のある存在だと思いますが、その人物を深く理解して役に入り込むために、どんなことを考え、何をしましたか?

思いつく限りのことを全てやりました。徹底的に調べて、小説に出てくる家族構成をイメージして、彼が生まれて、学生生活をどう過ごして、家庭でどう育っていったのか想像して。台本や小説には描かれていない空白の部分を埋めていくという作業に、長い時間をかけました。ただ、それは彼を理解する第一歩でしかないんです。

自分のイメージにこだわりすぎると、本来の人物とは異なる、偏った存在になってしまうかもしれない。僕一人で役を作り上げるのは、成し得ないことだと思っていて。だから、李さんとたくさんディスカッションして、文ってこういう人物なんじゃないか。ああじゃないか、こうじゃないかって言葉を交わしながら、より立体的に文という人物を理解して、描いていきました。

ー そういった慎重で真摯な姿勢は、他者を理解し尊重する上で大切なことだと感じます。

そうですね。例えば、文は劇中で誘拐犯として報道されていますが、実際には背景に複雑な事情がある。そういうことって簡単にはわからないものなんです。僕自身、佐伯文という人物にちゃんとたどり着けているのか、いまだにわからないと思います。人物や事柄を正しく理解するに至るまでには、簡単ではない道のりがある。

人は多面的な存在なので、その多面的な部分をきちんと理解しようとすると、時間や労力が必要になるんですよね。そこを飛ばして、簡単に理解した気にさせてしまうのが、情報社会、ネット社会の弊害なのかなと。ちゃんと立ち止まって考えて、想像する意識を誰もが持たないといけない。そうでないと、知らないうちに人を傷つけてしまったり、真実を歪めてしまうことに加担しかねないなと思っています。

ー 松坂さん自身は、世の中のイメージと本来の自分にギャップを感じたりすることはありますか?

ラジオで「遊戯王好きなんです!」っていう発言をしたら、その後しばらく遊戯王オタクだと言われたりして、それだけじゃないのにな、って思ったりすることは、ありますね(笑)。やっぱり、家での自分と仕事場での自分は異なるんですよ。

ー 遊戯王お好きなんだなというイメージ、持ってました…。

もちろん好きなんです!間違ってないし、そう思ってもらうのはいいんです(笑)。でも、それだけが自分ではないという感覚も、ちゃんと大切にしておきたんですよね。遊戯王の話でラジオが盛り上がれば楽しいし、そういう一面は確かにある。でも、自分の中には他にもたくさんパーソナルな部分があって、「遊戯王の人」みたいにイメージが固まるのは、本来の自分とは違うなと。ただ、そういう情報を出したのは自分の判断でもあるし、そこを細かく説明したいというわけでもないんですよね。

ー そこには、俳優としての責任感のようなものがありますか?

表舞台に立って表現したり、言葉を発信する立場にあるという意識は常に持っていますね。公の場での発言は全て松坂桃李というイメージにつながっていくので、そこはきちんと自分の言葉に責任を持つ、ということは考えます。

INFORMATION

流浪の月

公開:5月13日(金)全国ロードショー
監督・脚本:李相日
原作:凪良ゆう『流浪の月』(東京創元社刊)
出演:広瀬すず 松坂桃李 横浜流星 多部未華子
撮影監督:ホン・ギョンピョ
音楽:原摩利彦
製作総指揮:宇野康秀
配給:ギャガ
©2022「流浪の月」製作委員会

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