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FEATURE|PRIDE OF KURUME 久留米の老舗スニーカー工場を探訪。ムーンスターの真価に迫る。

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PRIDE OF KURUME

久留米の老舗スニーカー工場を探訪。ムーンスターの真価に迫る。

誰もが一度は履いたことがあるはずのスニーカーですが、実は日本でも長きにわたり、製造がつづけられていることをご存知でしょうか? 日本の老舗シューズブランド〈ムーンスター(moonstar)〉の本拠地である福岡県・久留米市のファクトリーでは、ヴァルカナイズ製法とインジェクション製法という伝統的な2つの技術を軸に、世界でも稀なハイクオリティなプロダクトが日々作られています。現代のファッションシーンにも影響を与えている同社のものづくりの真価を見極めるため、編集部は久留米へと飛びました。

  • Photo_Toyoaki Masuda
  • Text_Tetsu Takasuka
  • Edit_Yosuke Ishii

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ムーンスターの歩みとともに久留米はゴムの街へ

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人口30万人を擁する福岡県南部の都市、久留米市。古くは日本三大絣のひとつである久留米絣の生産で栄えましたが、現在はゴム製品関連産業が集中する“ゴムの街”として知られています。ではなぜ、久留米がゴムの街となったのか?その理由を紐解くうえで、実は〈ムーンスター〉の存在は欠かせないのです。

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〈ムーンスター〉が創業したのは、1873年のこと。当初の屋号は「つちやたび店」。その名の通り、日本伝統の足袋の製造販売を手がける小さな商店としてスタートしました。創業者は倉田雲平。明治期の動乱で紆余曲折があったものの、ドイツ製のミシンを取り入れて縫製した品質の高い足袋が人気となり、事業は軌道に乗ります。大きな転機が訪れたのは、1920年代のこと。取引先であった〈シンガーミシン〉の支配人が持参したアメリカ製キャンバスシューズを見た三代目社長は、それをヒントにゴム底を装着した地下足袋のアイデアを思いつき、試行錯誤の末、商品化に成功します。同時期に存在した他のゴム関連メーカーとも競い合いながら、久留米市のゴム産業を盛り上げていきました。その後、ゴム製ソールを使った学校の上履きや運動靴、スニーカーの製造にも着手。社名も「月星ゴム株式会社」、「株式会社ムーンスター」と変更しつつ、時代に即したものづくりをつづけてきました。このように、〈ムーンスター〉は、久留米がゴムの街として発展させる礎を作った企業だと言っても過言ではないのです。

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伝統のヴァルカナイズ製法を貫く。

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久留米市を代表する企業にまで成長した〈ムーンスター〉。その根幹を支えている技術のひとつが、地下足袋製造の時代から培ってきたヴァルカナイズ製法です。硫黄を混ぜ合わせたゴムソールをアッパーに取り付け、熱と圧力を加えることで固定するこの製法は、スニーカー作りで多く用いられていますが、現在は日本で採用しているメーカーはわずかであり、海外でも簡略化した手順を採用しているメーカーが大半。しかし、ムーンスターでは、手間はかかるが快適な履き心地と耐久性を生み出す昔ながらのやり方を貫いており、自社のプライドとしています。

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〈ステューシー リヴィン ジェネラルストア〉との共同開発で話題となったレインシューズ、「ALWEATHER」の製造現場。(上)これまでに、実に26万人以上から採寸して作り上げてきたというラストをもとにアッパーを形成します。アッパーの素材自体も2枚のキャンバスを糊付けして二重にする方法で自社生産しています。(下)アッパー素材をラストにかぶせ、吊り込みながら整えていきます。

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(上)ベルトコンベアで次の工程に運ばれます。各工程を分業化するなど、生産効率を上げつつもクオリティを保つための様々な工夫がなされています。(下)防水性を高めるためのゴムパーツを装着する部分に接着剤を塗っていきます。

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(上)加熱して接着剤を乾燥させることで、より強固に接着できるようにします。(下)ゴムパーツを手早く貼っていきます。履き心地を高めるためには、少しのズレも許されません。

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(上)トゥ部分にゴムパーツを貼っていきます。立体的なフォルムに合わせて正確にゴムを貼るには、熟練した技術が必要となります。(下)ソールとの境目にテープ状のゴムを貼って補強します。ゴムを貼る順番によって見た目も強度も変わるため、デザインは計算し尽くされています。

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(上)貼ったゴムに圧力を加えて、アッパーにしっかりと密着させます。(下)より堅牢性を高め、武骨な表情も演出するトゥガードを取り付けます。歪みなく貼り付けるのは難しい作業です。

ここからがヴァルカナイズ製法の真骨頂。

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アウトソールを取り付けられ、これから釜に入れられる「ALWEATHER」たち。一見、完成しているように見えますが、この段階ではゴムは手でちぎれるほど軟弱で弾力性もありません。

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こちらがヴァルカナイズ製法に不可欠な釜。〈ムーンスター〉では、合計5つの釜を使っています。それぞれ異なる温度、圧力、時間が設定されており、製品の特性に合わせて使い分けられます。その微妙なさじ加減も〈ムーンスター〉が長年培ってきた経験があるからこそできること。1つの釜に入るのは約300足。1回の作業を終えるのにおよそ90分を要し、1日に4回ほど稼働します。

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熱と圧力を加え、“加硫”という化学反応を起こさせることで、添加した硫黄分子がゴム同士をくっつけて堅牢性と弾力性を生み出します。釜を開けると蒸気とともに完成した「ALWEATHER」の姿が。ゴム部分は先ほどまでとうって変わって、豊かなツヤをたたえています。「実は釜からあがった直後のゴムが一番きれいな表情を見せるんです」と工場長の市丸和幸さん。

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現在、ヴァルカナイズの工程を担当している鹿谷利章さん。「様々な製品に合わせて、温度調節をしたり、使う釜を変えたりします。重たい釜の蓋を開け閉めするのには力も要りますし、釜の熱もすごい。しかし、最後の大事な工程で、みんなで作ってきた製品を台無しにするわけにはいきません。常に緊張感と責任感をもって取り組んでいます」とのこと。

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ALWEATHER ¥14,000

熱と圧力を加えたことで、凛とした表情に仕上がった「ALWEATHER」。これまで培ってきた技術と経験を結集したこの全天候型シューズは、現代の〈ムーンスター〉を象徴するアイテムと言っても過言ではありません。

次のページでは、ムーンスターのもう一つの顔、シックインジェクションシリーズに迫ります。
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