CASE 1
PROFILE
1988年生まれ、東京都出身。調理師学校を卒業後、都内有数のレストランで研鑽を積み、2015年に渡豪。オーストラリアのメルボルン市郊外のレストラン「ブラエ(Brae)」でオーナーシェフのダン・ハンター氏に師事。農場から食卓までを意味する“Farm to Kitchen”という価値観に感銘を受け、日本でのローカルファーストを追求し、「マルタ(Maruta)」に立ち上げから参画。同店のシェフとして、循環型レストランの在り方を日々模索中。
自然との共生こそ、これからのニューノーマルな在り方。



最寄駅からバスで10分と少し。東京・調布の深大寺植物公園に隣接する場所に、緑豊かな「深大寺ガーデン」という複合空間がある。560坪ほどあるその空間の一区画に位置する薪火料理の店「マルタ(Maruta)」。同店は、空間緑化を本業とする「グリーン・ワイズ」運営のもと、自然との共生をテーマに、環境重視型の店づくりやローカルファーストな食材調達を行い、国内外の有名レストランで研鑽を積んだ石松シェフが切り盛りしている。
世界的にも実践している店舗は決して多くないコンポストの設置や、自然との共生を体現する自家菜園、そして大地からの熱源の恵みとして捉える薪火調理。「マルタ」の目指すレストランの在り方は、これからのニューノーマルな時代へのヒントがいたる所に散りばめられている。


しかし、環境的にも理想的なレストランを成立させることは決して容易なことではない。そのバランスを考え、「マルタ」は現在、完全予約制で週末のみの営業形態に落ち着いている。もちろんフードロスの削減的な試みでもあるけれど、そこから得た経験について石松さんが教えてくれた。
「一般的なレストランのように、平日もランチやディナーの営業をしたい気持ちはあります。ただ、菜園を含めた庭の手入れや果実やハーブの収穫、近隣の緑地へ野草やキノコを採集しに行っていると、どうしても時間が足りないんです。
最近は漁師さんの漁に同行したり、猟師さんと山へ行ったりすることもある。そうなると現実的に週末の営業しかできないことが辛いところですね。ただその分、ぼくらも一組のお客様に対して丁寧に長い時間をかけて向き合えるので、結果的にはよかったのかなとも感じています」


実験的でもある取り組みを積極的に採用し、日本での実現は困難であろうと見切られていた課題についても、意欲的に向き合っている石松さん。「マルタ」を通じて、食の奥深さと同じように伝えたいことが沢山あるのだという。そうした境地に辿り着いたきっかけは、オーストラリアでの修行時代にあると語る。
「都内のいくつかのお店に勤務した後、美食の都とも称されるメルボリンに渡り、その郊外にある「ブラエ(Brae)」というレストランで働くことになったんです。大自然に囲まれているそのお店は、ゼロウェイストに対する意識が高く、コンポストはもちろん自家菜園や薪窯を持っていて、カルチャーショックを受けましたね。数年ではありましたが、そのお店での経験は『マルタ』にも息づいていると思います」

