ヒップホップでジャンプ。
日本にスキージャンプを文化として根付かせたいという大きな野心を宿す小林さんだが、気負いはない。プライベートでは、ヒップホップを愛聴するような、年相応の若者でもある。
「ファッションは音楽からも影響を受けています。よく聴くのは、国内外のヒップホップです。試合前のリズムをつくるときに聴くことが多くて、最近だとクリス・ブラウンやドレイクをよく聴いています。日本のアーティストでは、AK-69、JP THE WAVY、LEXなどを聴きます。歌詞が深くて、結構、考えさせられるんです」
ラッパーのKOHHからの影響も受けていると言う。自分を鼓舞する歌詞が多いラップミュージックとスポーツは相性がいいのかもしれない。そして小林さんのやりたいことを貫き通すという姿勢は、意外とヒップホップと相通ずる部分なのかも。
「もう小さい頃から、学校の勉強が嫌いで、できるだけ勉強したくなかった。スキージャンプが好きで、ずっと飛んでいたかったんです。遠征に行ったりと、これがずっと続けばいいなって」

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やりたくないことから逃れるために、やりたいことを極める。その逆も然り。いい意味での欲望を糧にしてきた小林さんの次なる目標はなんだろう。
「2030年には、札幌で『オリンピック』が開催される可能性があります。もし実現したら、その頃ぼくは30歳ちょっと。いまはいい感じに飛べていますが、多分これから山も谷も経験するでしょう。それに細かなところではルールも変わるはず。でも、それが起きると分かっているから焦りません。スランプはこれまでも抜けてますから。そうしてゆくゆくは、最多勝を更新したいですし、記憶と記録両方に残るような選手を目指します」
来るべき未来の好不調さえも、あくまで想定内。淡々とした冷静な視点は、アスリートにとって悪いことじゃない。遠くに見える理想と突きつけられる現実。そのギャップを埋めるには、勝ち続けるしかない。そして勝つことでしか、成し遂げられないこともある。
「公式の場で日本代表のチームウェアを着用しなくて怒られたことがありました。でも、ぼくは服が好きだから、着たいものしか着たくない。TPOには合ってないんでしょうけど、何を着ても『小林ならしょうがないか』という状況にしたい。でもそのためには、やっぱりスキージャンプの成績で示していくしかないなと」
それは決して、楽な道でもなければ、子供じみたわがままでもない。大人の事情や常識に飲み込まれずに、高く、遠くに飛ぶには、自分自身が飛ぶ理由でなければならない。自分の “好き” という気持ちを原動力に変えて、小林陵侑は空を飛び続ける。
