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どうなる、未来のサウナ。これからのサウナブームを予言する。 〜AMAMI編〜
Sauna talk 2022 Part.01

どうなる、未来のサウナ。これからのサウナブームを予言する。 〜AMAMI編〜

もはや一大コンテンツになったサウナ。最近はライフスタイルのひとつに定着してきた様子も。それを裏付けるかのように、ここ一年でさまざまなスタイルのサウナ施設が急速に増えてきました。それでは、今後拡大し続けるサウナシーンは、一体どのように進化していくのでしょうか? 未来のサウナについて、有識者たちと考察していく連載がスタートします。
第一弾となる今回は、『BRUTUS』創刊初となるサウナ特集号のチーフサウナプロデューサーを務めた草彅洋平さんが登場。サウナを文化的視点で捉えるべく、草彅さんが結成した文化系サウナコミュニティ「CULTURE SAUNA TEAM “AMAMI”」のサ活に潜入! 笹塚の名施設「天空のアジト マルシンスパ」に新設された貸切サウナで、メンバーも交えてこれからのサウナシーンを探りました。

  • Photo_Yuya Wada
  • Text_Shinri Kobayashi
  • Edit_Hideki Shibayama
  • Special Thanks_天空のアジト マルシンスパ

PROFILE

草彅洋平

編集者。古書に精通し、文学を軸とした多方面のクリエイティブが得意。フィンランド政府観光局公認フィンランドサウナアンバサダー。2021年、サウナを勉強する文化系サウナーチーム「CULTURE SAUNA TEAM “AMAMI”」を結成。『日本サウナ史』を上梓(第1回日本サウナ学会奨励賞・文化大賞受賞)。 2022年12月1日に発売された『BRUTUS』では、創刊42年目にして初となるサウナ特集号の「チーフサウナプロデューサー」として、本誌を全面監修した。
Twitter:@TP_kusanagi
Instagram:@yohei_kusanagi

PROFILE

遠山晋作

AMAMIの第一号会員。「ととのう」だけでは飽き足らず、サウナ文化を学習する過程で草彅さんに出会い、入会。ベンチャー企業で働く傍ら、休日は古き良き歴史のあるサウナ施設を求めて日本全国を巡る。施設オーナーの愛を感じられるサウナが好き。

PROFILE

hỹp̃ẽ_はいぽたん

ランニングとDJをこよなく愛する会社員。電車は使わず、走ってサウナ施設にいく。その距離、10kmは当たり前、時には30kmにまで及ぶことも。草彅さんとは、西荻窪の「ROOFTOP Sauna」で偶然出会い、入会。

PROFILE

東城拓真

知人を介して、草彅さんと仲良くなりメンバーに。スタートアップ企業の立ち上げに携わるなどウェブ界隈にいたが、現在は独立して、サウナ付きの貸別荘をつくっている。新婚旅行も兼ねた世界一周旅行で、16ヵ国まわり、各地のサウナに入りまくる。驚いたのはエチオピアにもサウナがあったこと。

なぜコミュニティ?

ー 草彅さんはなぜ「AMAMI」というコミュニティをつくったんですか?

草彅:そもそも『日本サウナ史』を昨年出版した際に、自分の限界を感じたんですよね。一人で調べられる量にも限界がある。本当はみんなで調べてつくった方が、はるかに効率が良かったんですよ。サウナの歴史を調べることは、エンジニアの仕事に近かったんです。コミュニティづくりはいままで敬遠していたところもあったんだけど、サウナに限っては別物に思えたというのが大きかったですよね。それにサウナについて思う存分話せる友達が欲しかったのもあるかもしれない(笑)。

ー 数人でサウナに入ることはありますが、こうやって大人数で入ったり、情報交換をしたりというのはなかなか珍しいですよね。「AMAMI」には、いま何人くらいメンバーがいるんですか?

左から、草彅さん、東城さん、HYPEさん、遠山さん

草彅:50人くらいですかね。熊本「湯らっくす」の西生吉孝社長やサウナの出てくるアニメ『オッドタクシー』の木下麦監督など、ぼくからお声がけしてご参加頂いた方も10数名いらっしゃいます。

hỹp̃ẽ_はいぽたん(以下、hỹp̃ẽ):メンバーのグループslackがあって、そこでどこに行ったとか報告し合うのですが、草彅さんの熱量がずば抜けて高いんです。草彅さんばかりというのも申し訳ないから、それに触発されて、ぼくらも発信するようにしています。

東城:蒲田にある「黒湯の温泉 ゆ~シティー蒲田」がめちゃくちゃディープだったというのが、(取材時点での)最新の投稿でした。

遠山:一般的に、サウナ好きはととのうためだけにサウナに行くような体育会系が多いですよね。一方でサウナの歴史や文化まで好きという文化系サウナーというのもいて、「AMAMI」は後者でしょうね。オタク的にサウナを楽しむ、同好会みたいなものです。

マガジンハウスの田島朗『BRUTUS』編集長に「CULTURE SAUNA TEAM “AMAMI”」が招かれた際の記念写真。(写真は「CULTURE SAUNA TEAM “AMAMI”」提供)

草彅さんのサウナ外遊歴。

ー 草彅さんは、ちょっと前に海外へサウナ視察にいかれたとか。

草彅:オランダ、ドイツ、ノルウェー、フィンランド、エストニアの5カ国を回りました。サウナーブームが起きているノルウェーなんか、首都オスロの中央駅のすぐ目の前の海にサウナがあるんですよ! エストニアで取材したサウナストーブメーカーは上場していました。サウナで上場できちゃうんですよ⁉︎ カルチャーショックの連続でした。

ー 地政学を含めた歴史や文化と一緒にサウナを楽しむのは草彅さんのスタイルですよね。書籍『日本サウナ史』でもそうでした。どうしてそうするんですか?

草彅:単純に楽しいですからね。今回海外のサウナーとたくさん交流して面白かったのは、彼らがみなサウナを真面目に勉強してるということ。国際サウナ協会会長のエロマーさんなんて、『日本サウナ史』を翻訳してすでに読んでくれているほど! みんな、サウナに関係する本をたくさん読んでいるし、地域の健康を守るためといった高い意識を持ち、予防医学の観点から勉強してます。その辺りは、日本のサウナ好きとはレベルが違う感じでした。

ー ほかに、海外のサウナで印象的だったことはありますか?

草彅:オランダで開催された「Aufguss WM(アウフグース世界大会)」を観戦したんですけど、各出場者の世界観とストーリーがハンパないんですよ。もう意味がわからないレベル! 例えばドイツから出場したレバノン出身の熱波師の演目は、いきなり戦争の映像がサウナ室に流れるんですよ。その後にナレーションが流れる。

「レバノンでは子供たちが凧(タコ)をあげて楽しむのが好きだった。でもアルカイダの連中がやって来て、2度と凧をあげることができなくなった。あの平和の象徴である凧を、俺は復活させたい」そんな前説があった後に、タオルを回し始めるんですね。すると段々とタオルが凧に見えてきて、気づけばサウナ室で汗だくになりながら号泣しているんですよ…。もう訳がわからないですよね。

この大会の採点基準は、サウナマスターたちの人生観が大事とされていて、その人自身のストーリーがスゴく大切。どうやってそのひとが生きてきて、なぜアウフグースをしているのかを表現する必要があったんですね。日本のアウフグースとはまったく違う世界観に圧倒されました。

サ活を振り返って。

ー ここ最近で行ったサウナのなかで、印象的だった施設はありますか?

遠山:ぼくは新しい施設よりも、古い施設に行くことが多いです。最近は、木更津にある「サウナきさらづ つぼや」に行きました。おじいちゃんがすごく世話好きな方で、リクライニングソファにもたれかかっていたら、倒せるからねと教えてくれたり(笑)。スゴくアットホームでした。

草彅:あそこはロッカールームに貼られたヌードカレンダーがクラシックでいいんだよね。このご時世どこで買ってるんだ、という(笑)。瀬戸内海・直島の「SANA MANE」のサウナ「SAZAE」はスゴかった。隈研吾事務所建築設計とサウナー専門ブランド〈TTNE〉がコラボした宿泊者限定の貸切サウナですが、巻き貝のようなスタイリッシュな形状で、サウナ自体のクオリティも高い。設計した隈太一くんとはぼくも知り合いなんですけど、彼は筋金入りのサウナーですね。

直島のグランピング型リゾート施設「SANA MANE」に、2022年10月にオープンしたばかりの「SAZAE」。夜は幻想的な景色だ。(写真は「CULTURE SAUNA TEAM “AMAMI”」提供)

hỹp̃ẽ:大分のカフェを開いた方がDIYでつくった小屋サウナ「Tuuli Tuuli」は、薪ストーブ型のサウナでスゴくよかったですね。DIYだけど本格的で、水風呂代わりの川が気持ちいいし、オーナーの人柄も素晴らしかったです。

ー 皆さん遠方のサウナまで足を運んでいるんですね。都心部ではサ室前に行列ができる施設も増えてきましたが、普段はどんなサウナに行ってるんですか?

hỹp̃ẽ:駅から離れていたり、交通の便が悪い施設を狙っています。そういうところにランニングして行ってみると、空いてることが多いですよ。川崎の小田栄駅にある「栄湯」は、土曜20時に行って、サウナ室はぼくひとり。とても快適でした。

東城:「サウナイキタイ」のレビュー数が多いところや聖地的な施設は混んでますね。都内だといまは複数人で入れる予約制のサウナの満足度が高い気がします。恵比寿と麻布にある「THE CLASS.」はなかでも1番ハイエンドで、年会費が110万円もするんですけど、初回体験だと4人で行くと一人5,000円でいけるので体験としてオススメです。天然溶岩石やオリジナルのサウナストーンで作ったサ室に、ミネラル鉱石水で濾過した水風呂。温度へのこだわりも強くて、ただ熱くするだけでなく温度65℃、湿度55%、水風呂15℃が一番心地よく体にも良いとし、その状態がキープされていました。都内で独自進化したサウナだと感じます。

遠山:ぼくは最近、行列を避けてアウトドアに逃げていまして(笑)。川か湖か海の近くでテントサウナを楽しんでいます。自然に触れる機会が増えたから、自給自足みたいなことをしたくなって、昆虫食や釣りを楽しんだり、野草を覚えたりするようになりました。

ー サウナ+アクティビティというところで注目しているスタイルはありますか?

hỹp̃ẽ:注目しているというか、実践しているのがサウナ+ランです。ぼくはDJでもあるんですが、現場が続いて夜型になって、一時期かなり体重が増えてしまったんです。サウナとランニングで痩せようとしたんですが、やっていくうちにランニングのモチベーションが維持できなくなっちゃって。で、サウナにいくためにランをしようと、会社帰りに片道10km先の銭湯にいって、サウナに入って帰るようになりました。土日は20、30kmほど走ってサウナに行くこともあります。

ー サウナは、ランニング疲れにも効きますか?

hỹp̃ẽ:疲れは取れている気がしますし、気分もリフレッシュできます。あとは、ランで負荷をかけた方が、サウナが気持ちよくなりますね。この間、久しぶりに電車でサウナに行ってみたんですが、あまりととのえなかったです(笑)。

東城:たしかに、疲れている方がととのいますよね。

サウナはひととひととをつなぐ場所。

ー 今後のサウナのトレンドはどう変わっていくと思いますか?

草彅:ぼくがこれから来ると思うのは、ウィスキングです。

hỹp̃ẽ:いいですよね。ウィスキングは、大阪の「なにわ健康ランド湯〜トピア」で体験しました。

草彅:どうだった?

hỹp̃ẽ:白樺の香りが濃厚で癒されました。そこは、ウィスキングができるひとが一人しかいないみたいで、タイミングが合わないと施術してくれないみたいですが。

東城:草彅さんは、ドイツでウィスキングも体験したんですよね?

草彅:そうそう。ドイツのウィスキングは吉本新喜劇みたいだった。遅れてサウナ室に入ってきた二人をヴィヒタでめちゃくちゃに叩いて、ロウリュで熱くして、「熱っちー!」「わっはっは」ってみんなで笑う、みたいな。ドイツのウィスキングは完全にエンタメでしたね。これから先は、日本でもアウフグースとウィスキングを専門的に行う施設が加速すると予測しています。

ー そんな世界もあるんですね。海外から見ると、日本のサウナカルチャーはどんな印象なんですか?

草彅:日本は独特だと思いますよ。海外のサウナーからは、日本は日本で独自のカルチャーを育てて欲しいという声も実際に聞きます。

東城:ぼくも直近、海外のいろいろなサウナに行きましたが、日本ほど水風呂・外気浴にこだわる文化はありませんでした。これほどサウナ・水風呂・外気浴のバランスを意識して、「ととのう」にこだわっている国もないと思います。

ー 日本はサウナ文化もガラパゴス化しているんですね。

草彅:コロナ以降で個室サウナがたくさんできましたが、あれも日本だけのものですね。ぼくはあまり惹かれないんですが、帯広に「ローマの泉」という元祖個室サウナみたいな古い施設があるんですよ。ああいう店や、今日来た「マルシンスパ」の貸切サウナなら行きますけど。

1976年創業の元祖個室サウナ「ローマの泉」。1室あたりの料金は60分で2,200円とかなりお得。(写真は「CULTURE SAUNA TEAM “AMAMI”」提供)

ー それはどうしてですか?

草彅:個室に入りたい理由は、周りがうるさくて一人で入りたいってことですよね。極端なことを言えば、他人にイライラしてしまっているということ。「電車で話すな」の延長上に「サウナで喋るな」があり、日本人はやたらと他人に干渉するし、うるさいんですよ。

一方、海外のサウナは社交場だから、ヨーロッパ人なんか、みんながみんな優しい。ヨーロッパではサウナで繋がるのが普通ですし、みんなで入ってあれこれ話すのが楽しいわけですね。ぼくはどちらかといえば海外のサウナの方が好きなんです。なので仲間たちと喋れるサウナであればどこでも楽しめます。

ー なるほど。それに代わるようなサウナを草彅さんがやってくれるといいんですけどね。

草彅:ぼくはサウナは経営しないですね。でも、フィンランドの公衆サウナ「ソンパサウナ」には興味があります。寄付とボランティアで運営されているサウナで、完全無料。シャワーも更衣室もなく、ストーブも自分たちで温めないといけないけれど、ボランティアで働く人も多く、現地ではコミュニケーションスポットになっています。世界中のサウナーと話していると、みんな「ソンパサウナ」が大好きなんですよ。ぼくも行ってみて初めてその感動がわかりました。だから日本に似た形のものをつくれたら、面白いことになるんじゃないかと企んでいます。サウナでコミュニケーションが生まれるなんて、素晴らしいことじゃないですか。

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