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性別や世代を超えて。 TANAKAが見据える 100年後の世界とは。
Between NewYork and Tokyo

性別や世代を超えて。 TANAKAが見据える 100年後の世界とは。

「NEW CLASSIC」「NEW STANDARD」「NEW ESSENTIAL」を標榜する、ファッションブランドの〈TANAKA〉。その言葉から連想される、どこか穏やかなイメージとは異なり、シーズンごとに迫力を増していく骨太なクリエイションにて、世界的に熱い注目を集めている俊英です。近年、日本では数多くのブランドが誕生していますが、そのなかで〈TANAKA〉は明らかに異質な輝きを放っています。今回、その光の源を探るべく〈TANAKA〉のデザイナーとクリエイティブディレクターの二人に密着取材を試みました。果たして見えてきたのは、ブランドそのものに宿った強い信念でした。

今回の取材では、二つの工場を見学させてもらいました。ひとつは世界屈指のデニム生地メーカーである「カイハラ」。そして、洗いをはじめとした数々の加工のプロフェッショナルである「西江デニム」。

まず我々が向かったのは、〈TANAKA〉オリジナルのセルビッチデニムを織っている「カイハラ」です。

現在、広島県に4つの生産拠点を構えており、国内シェアは約50%、輸出先は約30カ国にのぼるという、まさにデニムジャイアンツ(巨人)。ちょっとファッションに興味がある方であれば。“カイハラデニム”の名前を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?

今回訪れた上下(じょうげ)工場では、〈TANAKA〉の別注生地を織り上げているのですが、その全貌を写真でお伝えすることは叶いませんでした。ようするに企業秘密です。元々ある織機(しょっき)に改造を加え、どこにもない仕様で製造をしているわけで、その生産過程そのものが門外不出なのです。

おそらく日本の企業で一番多くの織機を持っているだろう規模感(3フロアあるそう)ですが、〈TANAKA〉のセルビッチデニムは旧式のシャトル織機で織り上げられています。 効率を考えれば、現在ではウォータージェット織機、エアジェット織機、レピア織機、スルザー織機など様々な種類があるわけですが、〈TANAKA〉が選んだのはヴィンテージ感のあるセルビッチデニムだったということです。

デニムの起源に想いを馳せて、当時のムード、情緒を再現しようということですね。セルビッチだからいい、数を作りにくいからいいということではなく、そこには明確な理由があるわけです。

THE JEAN TROUSERS

ヴィンテージから着想を得ながらも、”トラウザーのように履けるデニム”をコンセプトにデザインされた〈TANAKA〉のシグネチャーデニム。「カイハラ」のプレミアムセルビッジデニムを使用し、ワイドレッグとやや深めの股上でバランスの良いリラックスフィットに。¥28,930

NEW CLASSIC JEAN JACKET

トラウザーと同じく「カイハラ」製のプレミアムセルビッジデニムを使用したデニムジャケット。ややゆったりとしたボクシーなシルエットが特徴で、前立てのプリーツやポケットを止めるリベットは補強性を高めつつ、デザインのアクセントにも。¥52,800

THE STRAIGHT JEAN TROUSERS

パターンメイキングとカッティングによってツイストされたラインを描き、すっきりしたシルエットとフィットを獲得したデニムトラウザー。自然で全くもって押し付けがましくない加工感は「西江デニム」によるもの。¥38,060

ークボシタさんはクリエイティブディレクターという立ち位置で〈TANAKA〉に関わられているとのことですが、実際にはどんなことをしているんですか?

クボシタ:すごくシンプルにいうと、(タナカ)サヨリさんがやる仕事以外、全部やってます(笑)。

タナカ:たしかに(笑)。私がどちらかというと感覚的なところがあるので、クボシタさんにはもうちょっと冷静に見てもらっているというか。〈TANAKA〉の守護神という感じです。

ーお二人の会話を見ていると、すごくいいバランス、関係性なんだろうなということを感じます。

タナカ:そうですね。クボシタさんにはすごくクリエイティブな面もあるので、グラフィックだけでなく、 私がうまく言語化できないようなこともちゃんと形にしてくれたり、コンセプトのところまでも一緒に組み立てくれます。本当に色々な部分を担ってくれています。

ーまさにクリエイティブディレクションですね。

クボシタ:あとは生産のことにもだいぶ関わっています。今回のように工場の方とミーティングをするのもそうですし、かなり細かいところまで自分たちでやっているので、 今の価格に抑えられているという側面もあると思います。もちろん〈TANAKA〉の服は安いものではないのですが、とはいえ買えないと思われてしまうほどの値段にするのは良くないと思っているので、自分たちで工夫できるところはしています。

ー工場の方に頻繁に質問をぶつけていました。

クボシタ:かなり突っ込んで聞くようにしています。だからおそらく嫌がられていますね(笑)。

ー信頼関係あってこそのコミュニケーションですよね。

クボシタ:まさに。正直にお付き合いさせていただいているので、ぜんぶつまびらかに教えてもらっています。

「カイハラ」には織機だけではなく、デニム生地製造のすべての工程を手がける一貫生産体制が確立されています。今回は原綿の状態から、糸になるまでの紡績の工程も拝見できました。

〈TANAKA〉のデニムにの大きな特徴のひとつに、緯糸(ヨコ糸)に落ち綿を混ぜたリサイクルコットンを使っているということがあります。落ち綿とは綿のなかに入ってるカスやゴミを落としていって、文字通り落ちた綿のこと。それを再生綿にしていくわけです。

ちなみに落ち綿は、緯糸の30%に使われています。強度やクオリティなどを考えると、それくらいがベストだそうですが、仕上がった糸には、悪い意味でのラフさは微塵も感じられません。

クオリティとデザイン性を損なうことなく、できることをやる。それが〈TANAKA〉のサステナブルです。

通常のコットンの繊維長が1.5インチくらいある一方で、再生綿は1インチ前後。

2023SS LOOK

ー〈TANAKA〉はオフィシャルのルックがとにかく素晴らしいですよね。

タナカ:ありがとうございます。ここ数シーズンは小浪次郎さんに撮ってもらっています。小浪さんが撮る写真って〈TANAKA〉に別の色を加えてくれるんですよね。

クボシタ:そうだね。全然違う視点で切り取ってくれるよね。あと単純にかっこいいなって思います。

ー20FWシーズンが最初のセッションだと思うのですが、どんな風に始まったんですか?

タナカ:共通の友人、アーティストの山口歴さんがいて、そこから連絡を取るようになって、という感じです。

ー最近では、小浪さんの写真をTシャツやパーカにも使っています。

タナカ:そうなんです。すごく気に入っています。ビジュアルがちょっとメンズっぽい?なんて言われたりするんですが、〈 TANAKA〉はユニセックスでの展開ですし、ストリート感も含めて、感度の高い女性のお客さんにもぜひ手に取ってほしいなって思います。

ー言うまでもないことですが、ビジュアルは大切ですよね。〈TANAKA〉の魅力が一面的ではない理由は、この小浪さんが撮るエモーショナルなルックにあると思います。ワクワクしますよね、彼の撮る画は。

次に訪れた「西江デニム」は、〈TANAKA〉のデニムアイテムの加工を一手に引き受ける創業60年を超える老舗です。

敷地内の地下をパイプが通っていて、工場内を水がぐるぐる回り、24時間かけて水が浄化されていく。

様々な加工を行なっているなかでも、水のリサイクル設備は究極のレベルにまで達しています。ご存知の通り、デニムの加工には大量の水が必要となります。アパレル産業が環境を破壊しているという風に言われる理由のひとつはここにあります。

汚れ、有機物をバクテリアに食べさせて分解してしていく。工場ができてからずっとバクテリアがいるわけで、塩素などにも耐える薬品耐性ができているバクテリアだとか。

「西江デニム」は自社にろ過システムを整備しており、浄水されたリサイクル水を使用してデニムの加工を行っています。この独自の循環システムにより、汚水を放出せず、新たに水を使わないことで水の使用を大幅に削減。これこそが本当のサステイナブルではないでしょうか。

浄化水は、水道水よりも綺麗になっていることがデータにより証明されている。

施設内に設備を増やし続けて今の状態にまで辿り着いたわけですが、このレベルの排水設備はもう許可が降りないそうで作れないそうです。

ー〈TANAKA〉においては、デニムはすごく重要な存在のアイテムだと思うんですが、かといっていわゆるデニムブランドとは全く違う。 そこがまた面白いなと思うんです。タナカさんがデニムに深く携わるようになったのは〈ユニクロ〉からですか?

タナカ:そうですね。〈ユニクロ〉の頃は、デニムデザイナーを担当していたこともありました。後半はデニムだけではなくて、ウィメンズの布帛全般のリーダーという感じでした。

ーその前の〈ヨウジヤマモト〉ではどんなことをしていたんですか?

タナカ:メンズのニット・カットソーをメインに担当していました。なので、一通りの企画には携わってきています。

ーそのなかで、デニムが個人的にも好きだったと。

タナカ:はい。あとは、私が〈ユニクロ〉に参加したときが、ちょうどデニムを強化するタイミングだったんです。それで「あなた、いつもデニム履いてるからデニム担当どう?」と声をかけてもらって。そんなタイミングだったので、デニム業界のプロの方達もたくさん〈ユニクロ〉に関わるようになってきて、そのなかに「カイハラ」さんや「西江デニム」さんがいらっしゃったんです。

ーなるほど。そこでデニムの本格的な知識や生産背景を学ばれたんですね。〈TANAKA〉のデニムは、そうしたデニムづくりの本質的な部分をしっかりと踏襲したうえで、いわゆるヘリテージ的な作り方とは距離を置いていますよね。

タナカ:そうかもしれません。ザ・デニムなパターンを使わずに、トラウザーのフォルムを取り入れたり、最近はよりデザイン的なアプローチをデニムに取り入れています。 日本のインディゴの色とかセルビッチって、すごく特徴があって、それを「西江デニム」さんで仕上げていただくと、これぞ“日本のデニム”といったイケてる本格的なデニムの顔になるんですけど、〈TANAKA〉ではそこに何か別のエッセンスになるようなものを加えたい気持ちがあって。かといって突飛なデザインではなくて、普段も着れるようなものにする、 そういう風にミックスすることがTANAKA流なのかなと思っています。今後はものづくりを超えて、スタイルを作っていきたいです。「この時代のスタイルに、このTANAKAのデニムあり」といったような。

THE WORK JEAN TROUSERS

機能的なワークパンツをモダンな解釈でデザインした新しいワークジーンズ。ワイドレッグとやや深めの股上でバランスの良いリラックスフィットが特徴。 染色やブリーチをせず、無染色、無脱色で、綿そのものの色と風合いを活かした生成りのローホワイトは、着込む程に肌に馴染み、柔らかく変化していく。¥32,780

UNFINISHED JEAN TROUSERS (RIGID BLACK)

経糸、緯糸ともにブラックの糸を使い、深みのある黒を表現している。プリーツがもたらすニートなイメージと、深みのある野生的なブラックデニムのコントラストが面白い。また、カットオフしたデザインのウエストもポイント。 ¥31,680

〈TANAKA〉専用のヒゲ台。これがあれば誰でもできるというものでもないところが難しい。

精密かつ緻密な加工は、熟練の職人たちによる手作業の賜物。どこまでいっても機械化できない、微妙なさじ加減というものが、大きくものを言います。

〈TANAKA〉が全幅の信頼をおくスタッフさんが「西江デニム」にはいるそうで、だいたいのベースの部分は言葉を尽くさなくても伝わるとのこと。「もうちょっとシュッとした感じ」「シャキーンっていうイメージ」などなどの、オノマトペ的なニュアンスを的確に汲み取ってもらうには、15年の付き合いだという年月の長さも関係しているのでしょう。

また、工場内の会議室にて行われた、別注分の加工の打ち合わせにも同席させていただきました。

箔をつける場所、加工の仕方などによって、工賃が細かく変動するわけなので、やりとりは真剣そのもの。クリエイションとビジネスを真剣に両睨みしながら落とし所を探っていくのが普通なのですが、〈TANAKA〉の場合は、いい意味で若干クリエイション優先のような雰囲気を感じました。

こうした場で、できることできないことを含めた技術的な打ち合わせをして、その上でショップ側に提案をしていくという流れです。

ー多くの国で取り扱っている〈TANAKA〉の服ですが、国ごとに人気アイテムに変化はあるんですか?

クボシタ:売れるものはやっぱり全然違いますね。ヨーロッパはデニムの生地で言うと白が人気です。きれい目な感じが求められるというか。

タナカ:日本はデザインデニムっぽいものの反響があるように思います。

クボシタ:ヨーロッパはシンプルなものの方が売れるよね。

タナカ:おそらく日本はブランドがたくさんがあるから、どこかで差別化したものを、という気持ちがあるのかなと。

ー22FWでいうと、ダウンジャケットがすごくキャッチーだなと思いました。

タナカ:ありがとうございます。あのダウンは結構人気でした。

クボシタ:形がベーシックだし、使いやすいんでしょうね。けれどギミックが入っていて、どこかちょっと他とは違うというか。見たことあるけど、見たことない感じがいいんだと思います。

ーそれこそが〈TANAKA〉の本筋ですよね。ベーシックをどう捻るかというイメージが、どのアイテムにも込められているように思います。

ーところで〈TANAKA〉のアイテムについている金具、これはどんな意味があるんですか?

クボシタ:〈TANAKA〉はパンクなブランドなので、カミソリをつけていて、、というのは冗談で、これはドッグタグをベースにしたものなんです。

タナカ:実際、パンク精神もちゃんと内側に秘めています(笑)。

ーそうなんですね。軍隊が兵士の個人識別用に使用するものですよね。

タナカ:とあるヴィンテージショップから発掘したもので、おそらく100年以上前のものなんです。メタルなので土に還らず残っていくってところが、〈TANAKA〉のブランドの思想と似ている気がして。

ー「次の100年を紡ぐ衣服」ですものね。

タナカ:そうです。100年後にボロボロになってもこのドッグタグは残るというところで、あやかれたらという意味で使っています。

クボシタ:時代に爪痕を残すと言うか。そんな意味も込めてます。ただ、カミソリだと切り傷になっちゃいますけど(笑)。

ーうまいこと言いますね(笑)。

クボシタ:ちなみに実は、内側の切り込みは「TANAKA」になってるんです。

タナカさんが首からかけている一点物のネックレスも〈TANAKA〉のSS23の新作アイテム。

クボシタさんがこの日穿いていたトラウザー「THE WORK JEAN TROUSERS」。柔らかな生地感と、リベットやダブルニーなどのディテールとがギャップを産む。

ー今もブランドの拠点はニューヨークですよね?

タナカ:はい、会社はニューヨークにあります。けど、今は東京にいるクボシタさんとしっかりコミットしてやっているような感じで、行き来して日本を中心にものづくりもしているので、ブランドとしては“Between NewYork and Tokyo”という感じですね。

ーなるほど。両方の都市にあるいいところとか、多様な刺激を柔軟に取り入れたクリエイションをこれからも期待しています。最後にこれからのことを少し伺いたいです。

クボシタ:プレゼンテーションやショーのようなものは、やっぱりやりたいなと思います。とにかく見てもらう機会を増やしたくて。あとはいつか自分たちでお店をやれたらいいなと。自分たちが思う〈TANAKA〉の世界観を表現したいです。

タナカ:例えばそのお店では、デニムジャケットをXXXSサイズからLサイズまで、全部揃えたいです。ブランド本来の世界観をお届けできたら。

ーそれはいいですね。〈TANAKA〉の服は男女に合うように変則的なグレーディングをしているので、全部着比べしてみたりしたら面白いですよね。

タナカ:そうなんです。サイズごとに全然違うサイズ感でつくってたりするので。

クボシタ:あとは家具とかも売ってみたいです。洋服で終わりというよりは、ライフスタイルを提案するというか。

ー楽しみです。日本にもお店をつくってください! 期待しています。

クボシタ:はい。最初はおそらくアメリカがいいんでしょうけど、そこはあんまり決め込んでないので、日本にもつくるかもしれません。

というわけで、〈TANAKA〉のクリエイションを、生産工場への視察と二人のインタビューから紐解いていきました。

タイムレスで丁寧なものづくりの背景と、アーティでパンキッシュなムードが共存しているその理由が少しはわかっていただけたのではないでしょうか。

「TOKYO FASHION AWARD 2023」を受賞したということで、これからまた違う世界が開けていくだろう〈TANAKA〉の一挙手一投足に、これからも注目し続けていきたいと思います。

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