動けば動くだけ、何かに出会う。それを大事にしています 。

―〈ピリオドフィーチャーズ〉の受注会を「レショップ」で開催するということですが、今回はどういった内容のイベントになりますか?
金子:展示会で並んでいるものを買い付けるというシステムのつらいところは、小売側には予算の限界があるので、その範囲内で仕入れをしないといけないところです。津村さんのつくられているものを一斉にお客さまに見せられることはなく、あくまでぼくたちがピックアップしたものを展開する。ただ今回、今まで以上に素晴らしいコレクションで、すべてをお伝えしたいということで、スタッフとも意見がまとまって、受注会形式のイベントをやることになりました。
栗野:バイイングをやっている人間として、同じ悩みがあります。予算が限られていて限られた発注数で買い付けると、実際にはお客様がそれ以上に待っていてくださったらどうするのって。バイオーダーだったら、100%消化できるし、いちばんサスティナブルでもあります。サスティナビリティって、別にオーガニックコットンとか再生ポリエステルを用いることだけがすべてじゃなくて、10年着て続けられるシャツっていうものはサスティナブルだし、長持ちする服はたとえポリエステルでできていたとしてもサスティナブルです。まして受注分だけしか生産されないっていうのは、廃棄もなく、理想の形ですね。
―金子さんと栗野さんが、いまここに並んでいるものの中で個人的に気になっているのアイテムを教えてください。
栗野:こういう答えは求められていないかもしれないですが、どれもいいんですよね。
金子:やっぱりアウターが気になります。この素材はなんですか?
津村:それはウールシルク。初挑戦の冬物です。これは今年新しく織っているところで、インドのクルというエリアでつくっています。
金子:以前からコートは試作されたりしていたんですか?
津村:自分はコート好きだからやってましたね。でもまずは素材からつくりました。形はポロコートのようなもの。
金子:津村さん自身が着ている姿がすごいイメージできますよね。
栗野:80年代のあの時代を過ごした人がすごく好む形ですよね。そしてコートが白っていうところもまた津村さんっぽい。

津村:クルっていう場所は、もう行きたくないって思うような辺鄙な谷あいにあるんです。飛行機で行くんですけど、着陸できるかどうかは実際に到着するまで分からない。一度帰りの飛行機が飛ばなかったことがあって、そうしたらバスで移動なんだけど、バスに乗ったら袋を渡されるんです。おかしいなと思ったら、壮絶な道でした。全員戻していた。まあ面白かったですけれどね。
金子:その苦労を考えると、あまりにも安い価格でこの服が手に入ってしまうんだなと思います。普通のファッションと比べられないと思うけれど、やっぱりシャツだからこの値段、コートだからこの値段っていう値付けがファッションの文脈の中にはあって。でも、津村さんがやられていることを考えると、まったく異なる基準の値付けがあっても良いと思います。倍の値段だっておかしくないと思う。生産量も極めて少ないですし。そういうブランドって他にもなくはないと思っていて。これは自分の中での勝手な目標なんですけど、まったく異なる価格の基準が認知されていけばいいなと。ただ値段が上がればいいというわけではなくて、適正な価値・価格とは何かが、これまでの常識や慣習の中では測れないと思っているんですよ。一方で、洋服はアートでもなければギャラリーに置くものでもない。実際にお店で売ってお客様に届けて、日々袖を通す道具でもあるから、そこにジレンマと面白さが両方あるんですよね。

―津村さんは、つくりたいものをどんどん開拓していらっしゃると思うのですが、実際にインドに通って技術に触れる中で発想するのでしょうか?
津村:自分が動けば動くだけ、何かに出会う。それを大事にしています。だから続いているんだと思います。動いているから、やりたくなる。なんとなくここに行ってみようって思って調べてみると、そのエリアの伝統技術を継いでる職人が見つかったりするから、そうしたらその人の電話番号やメールアドレスを探して、お店の写真が載っていたらそこに行ってみたり。
―実際に行くということ。
津村:ぼくのつくっているものは、やっている人の顔が全員見えますよ。つくっている人の責任みたいなものは、ちゃんと伝えていきたいなって。
