THE NEW CLASSIC=新しい傑作。
ーそうして出来上がったのが、シルエット違いの3つのチノパンです。
堀家:ストレートの「ALLEN」、フレアの「BRAD」、ワイドの「DAVID」の3モデルですね。


BRAD(FLARE)¥33,000
膝から裾にかけてゆるやかに広がっていくフレアシルエットが特徴。細身のシルエットに合わせて、50’sのトラウザーのようにポケット口の角度を浅くしているのも隠されたこだわり。
タナカ:キムタクとトヨエツは一旦置いておいて(笑)、私とクボシタさんでチノパンといえばの世界中の誰もが連想できて、かつタイムレスな時代のアイコンをリサーチして。そのイメージをベースにつくりました。
堀家:ちゃんと上位互換にしてもらいました(笑)。 はじめは、スリム・普通・ワイドの3シルエットで考えていたんですけど、「スリムのチノパンって穿かないよね」ってタナカさんが言い始めて。最終的にスリムがフレアになったときは、めちゃくちゃグッときましたね。スリムなんだけど、ブーツカットで。
タナカ:これはクールな印象にしたかったので、90’s、00’sを代表する世界からモテモテのブラッド・ピットがイメージで。だから「BRAD」です。
堀家:(手元のスマホの写真を指しながら)これ、タナカさんが見つけてきたブラッド・ピットの写真で、めっちゃかっこいいんですよね。タンクトップ着てて。横にはキムタクの写真もあるんですけど(笑)。


DAVID(WIDE) ¥33,000
アーティストやペインターをイメージしてつくられたワイドシルエットな1本。〈TANAKA〉のデニムと同様、巻き縫いにすることで穿きこんでいくとパッカリングが生まれる、3モデルの中で最もカジュアルな仕上がりに。ちなみに、左右別々の色のソックスをパンツの裾から覗かせるのはデイヴィッド・ホックニー流。
ーキムタクが負けちゃったと(笑)。ちなみに「DAVID」のイメージは?
堀家:デイヴィッド・ホックニーですね。
タナカ:彼がノリに乗っていた80’s頃の写真を見たときに、チノパンをダボっと穿いて、タックインしたスタイルがかっこよくて、それがイメージです。なのでこちらは、「DAVID」。


ALLEN(STRAIGHT) ¥33,000
時代を超えても色褪せない、王道のストレートシルエット。裾を折り返すと見えるセルビッチのように脇の縫い代がパイピング始末されている丁寧な仕様も〈TANAKA〉ならではのポイント。このモデルが最もトラウザーらしく、裾はルイス(表に見えないすくいミシン)始末に。
ーそして最後、「ALLEN」といえばやっぱり?
クボシタ:ウディですね。
タナカ:王道のストレートシルエットなんですけど、『アニー・ホール』でウディ・アレンが穿いていたチノパンが、いま見てもかっこいいタイムレスなスタイルだなって思ったので、そのイメージは結構大事にしました。もちろん、「ウィズム」のお客さんに穿いてもらえるフィット感に持っていってるんですけど。
ーすべてクリースが入っていて、いい意味でチノパンに見えないというか、〈TANAKA〉らしい上品さがありますよね。
タナカ:私も堀家さんと一緒でチノパン自体は頻繁に穿かないんですけど、トラウザーは別。もう少し背伸びしたものだったら、みなさんも穿きやすいんじゃないかなと思って、イメージにとらわれず、トラウザーとして考えたんです。だから、名前は「THE NEW CLASSIC COTTON TROUSERS」で。ちなみに、“クラシック”は古いってことじゃなくて、傑作という意味で、“新しい傑作”をつくるという意味も込めてこのネーミングにしています。
ーなるほど。普通のチノパンとは違うデザインやディテールはあるんですか?
タナカ:3型全てに共通して、サイドのラインが前ポケットに一体化するようにしていて…。

クボシタ:脇線って普通上までズドンと通すんですけど、ポケット口を傾斜させることで、ちょっと腰回りを立体的にして、それぞれのシルエットを綺麗に出してるっていうのが〈TANAKA〉らしいポイントですね。
タナカ:ポケット口を傾斜させるっていうか、脇線からポケット口まで一体化してる。普通別々なんですよ。
クボシタ:うん、だからそれを分かりやすく説明した。
堀家:やめて! もう(笑)。これが二人の通常運転なんです(笑)。
クボシタ:あと、チノパンだけどトラウザーの仕様にしてるでしょ? マーベルト(腰裏にすべり止めのための生地をあしらい、穿き心地をよくする仕様)つけたり、内側全部パイピングしたり。
タナカ:なんかそれ、いつも当たり前のようにやってるから。
クボシタ:でも、言うの忘れてたでしょ?
タナカ:まぁ普通のチノはそこまでやんないよね。ちゃんとトラウザー仕様にしていて、そこはたしかにアップグレードされています。

シグネチャーとしてシンチバッグをあしらい、さらに、後ろポケットは昔のチノパンに見られる共生地で挟んだパイピング仕様にするなど、古き良きディテールも。ベルトループはモデルごとに長さや付け方を変更しているのもさりげないポイント。
ーシンプルに見えて、こだわりが詰まりに詰まっていますね。
タナカ:体に対する馴染みとかフィット感はすごく考えました。あんまり変にしちゃうと毎日穿きたくなくなるじゃないですか。本当にパンツってデザインできるところが少ないから、その中でどうアレンジするかがポイントでした。
ー生地についても教えてもらえますか? 先ほど堀家さんがカジュアルな生地をリクエストされたというお話もありましたが。
タナカ:今回使ったのはウエポンという生地。リッチ感、安心感のある肉厚の生地で、シルエットもしっかり綺麗に出ます。
これは、ウエストポイントっていうエリートが行く米国陸軍の士官学校があって、そこの制服に使われていたのがルーツでウエポンと呼ばれていて。双糸で高密だから、普通のチノクロスよりもしっかりしているんです。洗いをかける前は生地だけで立つぐらい丈夫で。
ー触ってみると柔らかくて穿き心地もよさそうなので、そんな生地が使われているのは意外でした。
タナカ:“みんなのTANAKA”の言葉通り、みなさんが毎日手に取りたくなるようなものにするための仕込みたいなのができたらなと思って。形態安定加工や液体アンモニアで洗う液アン加工によって、センタープリーツが取れにくかったり、シワができにくいようにしたり、穿き心地のいい風合いに柔らかくしたんです。

腰にあしらわれたネームは洗っても取れない仕様に。上下逆さまになっているのは、上から見たときに名前を読めるようにするため。
ー腰にはモデル名を記したタグもあしらわれています。
タナカ:私がかなり前に買ったヴィンテージミリタリーのチノパンがあるんですけど、同じ位置にマイク(MIKE)っていうネームがついてたんです。それをクボシタさんが覚えていたみたいで、こういうお化粧のアイデアを出してくれて。
堀家:クボシタさん、さすが!
クボシタ:支給品だから名前が分かるようにネームをつけていると思うんですけど、それを今回のチノパンにつけたらおもしろいなと思って。新品なんだけど、支給品だし古着にも見えて、よく分かんない感じになるのが。
堀家:これ、トヨエツって書いてあったらさらによく分からないことになりますからね。危なかった(笑)。
ーそして、カラーはブラックの展開もあると。


堀家:やっぱりブラックは必ず入れときたいなと思って。それによって、スラックス見えもするので。あと、カーキの方はモデルごとに色を少しずつ変えてるんですよね。そういうひねりもさすが〈TANAKA〉だなって。どっちの色も捨て難いんですけど、ぼくはブラックかな。いや、カーキにもトライしたいですね、やっぱり。
タナカ:堀家さんはカーキじゃないですか。似合ってましたよ。
堀家:あ、ほんとですか。じゃあこれにビルケン履いたら、トヨエツですね。俺の常盤貴子、どこにいるんだっつって(笑)。
ー(笑)。サイズは27、29、31、33と幅広い展開ですね。
堀家:このサイズの振り方も、“みんなのTANAKA”っていうキーワードがあったんで、ある程度みなさんが穿けるようにしようと思って。細いひともいるだろうし、女性に穿いてもらってもいいので。
あとは〈TANAKA〉らしからぬビッグサイズのフラッシャーですね。このデザイン画は、全部タナカさんの手書きなんですよ。しかも「ウィズム」のショッパーを持ってるっていう。
クボシタ:トラウザーにフラッシャーをつけて売る感覚ですよね。


ーどこを取ってもフレンドリーで、“みんなのTANAKA”を体現するチノパンツになっているわけですね。実際に完成したものを手にとってみて、堀家さんはいかがでしたか?
堀家:最初の展示会に行ったときから自分の中で思い描いていたことだったので、それが形になったことはやっぱり嬉しい。それに尽きますね。
ぼくはものをつくるときに、つくり手がテンションが上がるかどうかが一番重要だと思っていて。売れるからとりあえず置いとこうみたいなものじゃなくて、お店のスタッフがみんな着たいと思えるもの、今回はそこにちゃんと着地できていて、当たり前だけどすごく思い入れがありますね。
タナカ:最初は「ウィズム」のイメージからして、分かりやすいものの方がいいのかなとか、色々考えたんですよ。だから、もっとディテールを盛った案もあったんです。だけど、堀家さんが「抑えめで大丈夫ですよ」って言ってくれて。そうだったよね、クボシタさん?
クボシタ:最近、記憶力が…(笑)。まあ、たしかに意外とシンプルに行きたがるんだなとは思いました。
タナカ:そういう部分を〈TANAKA〉に求めているんだなって。
堀家:あまりごちゃごちゃ言いたくないタイプなんですよ。それに、やりすぎちゃうと、毎日穿きたくなくなっちゃうんで。もちろん、上がってきたプロダクトを見ても、 このたたずまいは本当に唯一無二だと思いますし、やっぱりこのチノパンは、普段穿かないひとにこそトライしてもらいたいですね。
ただ、あまりにも今回の出来がよかったから、次のタイミングはペンキ飛ばしてとか、ちょっと思っちゃってるんですけど(笑)。

ーなるほど(笑)。では、今後の取り組みにも期待していいわけですね?
堀家:〈TANAKA〉との取り組み自体が、ぼくだけじゃなく、他のスタッフみんなが手を加えられる場所になればいいなと思っています。次の秋冬はこの素材でドリズラーとかをつくってもいいかもしれないし、ペンキが飛んでるかもしれない。今回は、そんなアイデアが生まれる骨組みになるアイテムをつくりたかった。言わば、このチノパンは“素うどん”なんです。
そんなアイテムをつくってもらった以上、今度は「ウィズム」がどれだけ魅力を伝えて、かっこよく販売できるかだと思っているので、そこは楽しみながらやれたらいいですね。その先に、次の取り組みが見えてくると思うので。