生地と縫製とプリントが三位一体にならないとこの雰囲気は出ない。
ー今回〈ネクサスセブン〉と〈レベル ドレッド ハードウェア〉のコラボレーションということで、スエットが先にリリースされて、その後にTシャツも出るということですが、アイテムについても教えてください。
Hatchuck: ドンと一緒に〈レベル ドレッド ハードウェア〉をスタートして、ぼくもずっとファッションからは遠ざかっていたので、今野くんに相談したんです。「こんなのつくったんだけど、見てくれない?」って。今野くんは服のことを本当に理解しているし、相談して間違いないひとだから。それで話しているうちに一緒にやろうということになって。このスエットのシリーズがおもしろい切り口だし、いいじゃんってなったんですよ。
ーこのシリーズはむかしからやられていますよね。

今野: もともとベートーヴェンの肖像画がプリントしてあるヴィンテージのスエットがあるんですよ。ずっとむかしに手に入れたものの、なんだか気恥ずかしくて着ていなくて。でも、なぜか手放せないアイテムだったんです。それからだんだん愛着が湧いてきて、こういうモチーフで映画に出てくるキャラクターを落とし込んだらおもしろそうだなと思ったのが着想ですね。
Hatchuck: ヴィンテージではベートーヴェン以外にもあるの?
今野: 「Three B’s」って呼ばれているシリーズで、ベートーヴェン、バッハ、ブラームスのプリントがオリジナルとして存在していて。その3名の肖像画をスプルース社のボディにプリントしているのが起源ですね。ただ、いろんなブランドやキャンペーンでそれをオマージュしたアイテムがつくられていて、派生系の古着もたくさんあるんですよ。
ーそちらにあるフーディ(ベートーヴェンの隣)がその派生系なんですか?

今野: そうですね。フード付きのものは珍しくて、ぼくが見た中ではこれがはじめてです。だけど、ここに描かれているのが誰なのかはわからないんですけど…(笑)。
ー「Three B’s」は何年代につくられたものなんですか?
今野: 60年代ですね。その後、この肖像画シリーズは、オマージュとしていろんなボディで刷られるようになるんですが、スプルース社のものがオリジナルとされていますね。
ーそのボディをこちらでも再現しているんですか?

NEXUSⅦ. × REBEL DREAD HARDWARE Don Letts Sweat ¥26,400
今野: 〈ループウィラー〉の鈴木さんに相談させてもらいながらつくりました。旧式の吊り編機を使って編んでいるんですが、なかなかこの表情がでなくて、何度も何度もやり直して納得のいくものに仕上げました。マニアックなんですが裏毛もこだわっていて、フリースっぽくならないように加減を気をつけています。あとはリブも“グリッド・リブ”といって格子状になっていたり、ネックの部分はこのためにわざわざ改造してもらったミシンを使って、縫製仕様もオリジナルに近づけているんです。

今野: あとはTシャツもこだわっていて、生地はアメリカでつくっているんです。米綿ってドライなタッチなんですが、“ARMY”と書かれたTシャツもその生地に化繊を混ぜて丈夫にしていて。こちらはコットンだけで極力同じような表情で丈夫につくることを念頭に置いて編んだ生地なんです。そうなると、アメリカじゃないとつくることができなくて。縫製は日本でやっているんですが、シングルステッチと呼ばれる方法で、洗ったときの糸沈みで表情に雰囲気が生まれる仕様にしています。
ーすごいこだわりですね。
今野: ヴィンテージが好きなひとって山ほどいると思うんですが、その中で好きの度合いはプロダクトに詰め込むしかないと思っていて。だけど、ぼくらはレプリカメーカーではないので、どこで差別化するかが勝負になるんです。そのバランスが難しいんですけど、自分なりに「Three B’s」のどこが好きなのかを自己分析して、押さえなきゃならないポイントをしっかりと踏襲してつくりました。生地と縫製とプリントが三位一体にならないとこの雰囲気は出ないので、そのどれもが欠けたらダメなんです。
Hatchuck: やっぱりすごいオリジナリティがあるよね。これまでのモチーフ選びも秀逸だし。
今野: 生きているひとがいれば、実在しない人物もいますね(笑)。
ーそのときの今野さんの気分が反映されているんですか?
今野: そうですね。いちばん最初は『ユージュアル・サスペクツ』のカイザー・ソゼをプリントしました。完全にネタバレなんですけどね(笑)。そういう、ちょっとしたおふざけみたいなところから着想を得て。
ーグラフィックもちゃんと描いて起こしてますよね。

今野: そうなんです。現在は〈トゥーネス〉っていうブランドにグラフィックを提供しているNABSFというアーティストがいるんですけど、彼が前に、ここにあるベートーヴェンのタッチで描いた作品があったんですよ。それで「あのタッチで描けない?」と相談して。なので、彼が描けないときは出さないようにしてますね。
今回はドンさんの写真をHatchuckくんからいただいたんですけど、アイコニックなタムを豹柄にしたらいいんじゃないか? っていうアイデアが生まれて。
Hatchuck: そうそう。別の写真でドンが被っている豹柄からアレンジしたんです。パンキーレゲエだから豹柄がいいんじゃない? ってなったんだよね。
ー写真をそのまま起こすのではなくて、ちゃんとアレンジを加えているところがいいですね。
今野: よりドンさんらしくなったというか、強くなりましたよね。
Hatchuck: オーラが漂ってるよね。

ーNABSFさんはどんなアーティストなんですか?
今野: すごく器用なひとで、過去にはいろんなブランドにグラフィックを提供しているんです。〈トゥーネス〉の村山伸くんに紹介してもらったんですが、本当に天才なんですよ。このスエットのシリーズは、彼のグラフィックがないと成立しないですね。

Hatchuck: ドンもすごくよろこんでました。はじめから「グラフィックを描き起こす」としか伝えてなくて。できあがったものに対してとやかく言うひとじゃないし、いいものができるっていうのは最初からわかってたから。ネタバレをしないようにしてたんですよ。なので、なおさらよろこんでましたね。まだ実物を送れてないので、それを見たらもっと良さが伝わると思う。
ー今野さんとHatchuckさんの繋がりもそうですし、ドンさんやNABSFさん、それに〈ループウィラー〉の鈴木さんとの繋がりも、いろんなひととの関係性から生まれていて、本当に素敵なコラボレーションだと思います。
今野: 本当にそうですね。過去からの流れが集約されていると思います。このベートーヴェンのスエットも20代の頃に買ったんですが、仙台で出会ったんですよ。ずっと探していたけど大きいサイズが見つからなくて。