いまのテニス界をぶっ壊したい。
ー実際の服づくりはどんなところからアイデアを生み出していったんですか?

新井:バイヤーとしてたくさんの服を見てきましたが、とにかくいろんなブランドが世の中にはあるんですよね。だから何かしらの特徴がないと、他のブランドと張り合えない。〈セットイン〉も、なにか顔となるものをつくらないといけないなと思いました。

新井:やっぱりテニスを売りにしている以上はスポーツテイストをしっかりと打ち出したかったので、このブランドではメッシュをデザインの特徴にしているんです。今季はブレザーやチルデンニットがラインナップしているんですけど、そこにも裏地にメッシュを採用して、スポーティに味付けています。
ーメッシュを編み目として大きく解釈すると、テニスのネットやラケットのガットとも捉えることができそうです。
新井:そうなんです。そこも狙っています。だから編み目ってテニスとすごく深い関わりがあるんですよ。

ーいまはファッションとスポーツの掛け算が当たり前のように行われていますが、新井さんはテニスを題材として扱うことに、可能性を感じていたのでしょうか?
新井:もちろんです。テニスファッションってすごくクラシックだと思うんですよ。フレッド・ペリーやスタン・スミス、それにルネ・ラコステ。ちゃんとファッションのひとがいるんですよね。みんなポロシャツの上にチルデンベストを着て、そこにスラックスを合わせながらテニスをしていた。だから全然抵抗はなかったですね。
ー新井さん自身のファッションもストリートなんだけど、どこか上品さがありますよね。そこにはテニスからの影響があるんですか?
新井:おぼっちゃまストリートみたいなことをよく言われます(笑)。テニスの影響はすごく大きいです。両親の影響で競技をはじめたんですけど、父親も母親もファッションメーカーに勤務していたんです。だから小さな頃からちゃんとした服を着て、いつもコートへ行ってました。いいものを見てきたし、いいものを触ってきた。環境にはすごく恵まれていたと思います。

新井さんが90年代に手に入れた〈ナイキ〉のテニスシューズ。いま見ると、デザインがどれも秀逸。「加水分解して履けなくなっちゃったんですけど、捨てられない」という。
新井:だからテニスプレイヤーを見ていても、プレーよりも服装とかギアが気になることが多くて。まずは格好からで、プレーは後からついてくるもんだと思っているんです(笑)。プロの選手はスポーツブランドと契約していて、頭から爪先まで全身コーディネートされていますよね。それはデザインのコンセプトもそうだし、カラーマッチングもそう。やっぱりそれを見ているので、ぼく自身もトータルで合わせたいっていう気持ちがあって。コンビニへ行くときですら、服装に悩んじゃうんですよ。
ー影響を受けたプレイヤーはいるんですか?
新井:80年代はジョン・マッケンローやジミー・コナーズ。90年代はアンドレ・アガシ、ジム・クーリエ、ピート・サンプラス、パトリック・ラフターっていう選手が大好きでした。
ー彼らの共通点は?
新井:みんなおしゃれ(笑)。それにつきます。パトリック・ラフターなんかは、日焼け止めの塗り方がすごくおしゃれで。そういうのをいちいち気にして、プレーなんてほとんど見てなかったですよ。なにを着て、なにを使って、それをどう表現しているか。そこが大事なんです。
ーここにバンダナと、ラケットがありますね。

新井:バンダナは90年代のアガシのモデルなんですけど、パッケージがすごく凝っててとにかくかっこいい。中は無地なんですけど、このデザインに惹かれて購入しました。

新井:ラケットはジミー・コナーズのモデルなんですが、カーボンが取り入れられた時代にウッド調で、1本シャフトのアイテムを使っているひとって他にいなかったんですよ。きっと打球感が好きとか、そういう理由だと思うんですけど、そこにヤバさを感じたんです。そうやってクセのある選手が好きでした。プレーにも、服装にも、仕草にも。
ー当時といまとでは、そうしたスタイルにも当然変化がありそうですね。
新井:いまは見ていてあまり楽しさは感じないですね。だから変えたいんです。学生時代にずっとテニスをしていて、そのときの仲間はみんなメーカーに勤めたりとか、コーチになったりとか、いまでもテニス畑にいるんです。〈セットイン〉をはじめたことで、ようやく彼らと接点を持てるようになった。彼らもいまのテニス界を変えたいと思っているんですが、やっぱりその業界にいると、競技性ばかりに気を取られてしまうんです。
ーファッションやエンターテイメントの部分がおざなりになってしまうと。

新井:そこも大事な要素であるということは重々承知していると思うんですが、あくまでもスポーツの世界なので、守らなければならないしきたりみたいなものがある。だから、やりたいようにできない現状があるそうなんです。だけど、ぼくはそれをファッションの世界から眺めていて、テニスに対する間口を広く捉えているんです。そこでできることをやりたい。もっとふざけていいと思うし、ぶっ壊したい。ファッションだからこそできることをやりたいんですよ。厄介者になってもいいから。
