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ABOUT ESSENTIAL ITEMS Vol.01ヒップなあの人が愛用する、ごく私的な定番品。
MONTHLY JOURNAL Feb. 2024

ABOUT ESSENTIAL ITEMS Vol.01
ヒップなあの人が愛用する、ごく私的な定番品。

ファッションはトレンドの移り変わりが激しいものだけど、流行を追いかけるのではなく、自分の物差しでモノを選ぶひとは、間違いなくヒップ。そんな考えのもと、今回は自身のスタイルを持つ4人のファッション賢者に、プライベートで愛用する“マイ定番”を伺ってきました。それぞれのモノ選びの基準をヒントに、改めて、ワードローブについてじっくり考えてみましょう。

No.1_Setsumasa Kobayashi 定番とは、アイビーの延長線上にあるもの。

ー今回はマイ定番を持ち寄っていただいたのですが、小林さんの中でファッションにおける“定番”とはどういった位置づけなのでしょうか?

小林:自分は見てのとおり、デザイン要素が詰まったものはあまり着ない。どっちかといえばアイビーなアイテムが好きなので、その線上にあるものが定番っていう位置づけになるかな。例えばボタンダウンシャツだったり、チノパンだったり、スエットだったり。ベースはそこにありつつも、そこからひとヒネリあるものをチョイスすることが多いね。

ーなるほど。

小林:それとは別に、ヒトのものでとにかく羨ましく思うのは“吊るし”で買えないもの。要するにそのままの状態でお店には売ってないものに惹かれる傾向にあるね。

ー使い込んで味が出たものという意味ですか?

小林:そうだね。実は若い頃、写真家の小暮徹さんの家で書生みたいなことをしていたんだけど、小暮さんが海外ロケなんかで家を空けるときには、おのずと留守番だから、ここぞとばかり小暮さんのクローゼット中のワードローブを見せてもらっては、いろいろと刺激を受けていた日々があった。それこそ小暮さんは吊るしのアイテムはなにひとつ持っていなくて、全部、ロケ先で買った民族衣装や古着ばかりだったもの。

ーすごい体験ですね(笑)。

小林:若い頃に見せてもらっていたそのワードローブが、あの頃から40年を経たいまも自分のファッションの基礎部分。

ITEM01_スイスベルト

ー小林さんのひとつ目の定番品は、見たことのないデザインのベルトですが、これはどんなアイテムなんですか?

小林:これがまさに小暮さんのクローゼットの中にたくさんあったベルトで、昔、スイスとかのお土産品として売られていたもの。小暮さんが飼っていたシェパードの首輪とリードも全部、この手のデザインだった。たぶん“スイスベルト”で検索すると出てくるんじゃない。

ー小林さんはいつ頃手に入れたんですか?

小林:初めてヨーロッパにいったときに探して、やっと見つけたのが22歳ぐらいの頃かな。手に入れた後も、小暮さんのを眺めて物欲しそうにしていたら、「そんなに欲しいならやるよ」って、このベルトとポーチ(写真一番右)を譲ってもらったんだよね。

―そうした思い出も含めて、すごく貴重なものですね。

小林:当時はスイスの空港の売店とかに、カウベルなんかと一緒に売ってあったんだけど、それは90年代の話だから、いまは見つけられないかも。最初に現地で買ったやつ以外は「e-bay」とかで見つけては買い集めたものだし。自分の中でこのベルトはずっと惹かれているもので、いまだに現役で毎日使っている定番だね。

ーどういう部分が気に入っているんですか?

小林:ファッション的に言うところのクオリティとは全くの別次元の話だけど…。牛や牛飼いのメタルのプレートはひとつひとつ鋲打ちされているし、ベルトだから身体に沿うように少し湾曲させているのがおもしろくて。自分の山趣味みたいなところに火をともしてくれたのは、間違いなくこのベルト。

―このベルトが小林さんの原点というわけですね。

小林:小暮さんの普段のスタイルが、フランスやスイス、北イタリアといった文化圏のいわゆる山側のアイテム(チロリアンシューズやベスト)の牧歌的な雰囲気に初めて触れたきっかけだったんだよ。だから〈ジェネラル リサーチ〉から〈マウンテンリサーチ〉への転換期を含め、小暮さんからの影響は自分にとって刺激的だったし、大事なものなんだよね。

ITEM02_GENERAL RESEARCHのパッチワークパンツ

ーこれは〈ジェネラルリサーチ〉時代のパッチワークチノパンですね。

小林:そうだね。これはさっきも話したアイビーの線上にあるもの。BDシャツやセーターに合わせるお決まりの一本といった感覚かな。夏はずっとショーツの方を穿いているし、春と秋は長い方ばかり。

ーかなり穿き込まれているのが見て分かります。

小林:裂けたり壊れたりする度に、どんどん上からパッチを足してこんな表情になったんだよね。その都度パッチワークを足してゆくものだから、どんどん重くなっているんだけど、長年穿いてる分、柔らかくもなってるから穿きやすさもあって。

ーたしかに通常のパンツと比べると重量感があります。

小林:毎年、修理に出す期間があって。戻ってくるときにはちょっとずつ違う表情になっていく。年次更新しているアイテムのひとつだね。

ーリペアをしながら着続けていると、自然と愛着も湧いてきそうですね。

小林:時間をかけてメンテナンスをして、修理されたものの風情はいいよね。

ITEM03_PHISHのバンドT

ー最後は、バンドTですか?

小林:そう。アメリカの「PHISH」っていうロックバンドなんだけど、2000年に日比谷の野音でライブを見てからハマったんだよね。アメリカで行われたオールキャンプインのライブも楽しかったなぁ。ボストンから車で8時間くらいメイン州の森の中を延々と走って、辿り着いたのが使われていない空軍の滑走路。そこの2本の滑走路で4万人がキャンプするっていう。その会場で買ったのがきっかけで、集めるようになったTシャツだね。

ーどれもグラフィックがおもしろいですね。

小林:いわゆるバンドTだから、「PHISH」のロゴはもちろんだけど、グラフィックが描かれてる方だと、モチーフは会場に置いてある仮設トイレだったり、ドラムのジョン・フィッシュマンのパフォーマンスでおなじみの掃除機だったり、わかる人にはわかるデザインってのがまたいいんだよね。

ーボディもいい感じにヨレていますね。

小林:ボディはオーガニックコットンなんて書いてあるけど、実際はどうなんだろうね…? でも、バンドTでオーガニック素材と謳ってるのを見たのは「PHISH」が初めて。勝手にヒッピーイズムを感じて大いに感心した記憶がある。

ー今回紹介していただいた3点はどれも、吊るしにはない味を感じます。

小林:Tシャツは洗い込んだり乾燥機をかけたりしながら大切に着込んでいるし、さっきのチノパンとショーツはリペアをしながら愛用してる。ベルトだって、付けっぱなしのほったらかしではなく、定期的にオイルを入れてるよ。メンテナンスを重ねることでくたびれながらも風情が出てきたものにこそ、ココロがときめく感じ? 何物にも代えがたいし、こういったものが自分の中の“マイ定番”になるのかな。

PROFILE

小林節正

「. . . . .RESEARCH」代表。カテゴリーごとに掘り下げるべきテーマを掲げ、入念なリサーチをベースに既存のアイテムを再構築したコレクションを製作。山の〈マウンテン リサーチ〉を軸に、近年はカスタムバイクの〈R.E.R〉こと〈ライディングエキップメント・リサーチ〉にも力を注いでいる。
Instagram:@anarchomountaineers009

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