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FEATURE
13度目の宇宙の旅で、いまジェフ・ミルズが語ること。
THE TRIP -Enter The Black Hole-

13度目の宇宙の旅で、いまジェフ・ミルズが語ること。

「13度目の宇宙の旅で闇が突如として現れた」。先日発表されたジェフ・ミルズと戸川純の楽曲『矛盾 - アートマン・イン・ブラフマン』がいまも耳から離れない。この曲は2024年4月1日に開催された「THE TRIP -Enter The Black Hole-」に向けて制作されたもの。ブラックホールというテーマのもと、ジェフのミニマルなサウンドスケープを土台に、「COSMIC LAB」による映像、照明などの空間演出が施され、さらにはダンサーによるパフォーマンスを披露。出演者の衣装デザインは〈ファセッタズム(FACETASM)〉の落合宏理が担当し、コズミックオペラとして総合芸術を築き上げ、オーディエンスを宇宙の旅へと誘いました。彼はどうしてそこまで宇宙にこだわるのか? “ブラック・ホール”というキーワードを軸に、ジェフ・ミルズの頭の中を探ります。

PROFILE

ジェフ・ミルズ

1963年アメリカ、デトロイト市生まれ。現在のエレクトロニック・ミュージックの原点ともいえるジャンル“デトロイト・テクノ”のパイオニア的存在。マイアミとパリを拠点に1992年に自ら設立したレコードレーベル〈Axis〉を中心に数多くの作品を発表。またDJとして年間100回近いイベントを世界中で行うほか、近代アートやファッション、シンフォニーオーケストラ、さらにはジャズ・フュージョン、アフロ・ビートなど幅広いジャンルに手を伸ばし、コラボレーション企画やプロデュース作品などを多数発表している。

THE TRIP

映像表現の境界を拡大し続けるクリエイティブ・チーム「COSMIC LAB」とジェフ・ミルズによるライブ・オーディオ・ビジュアル演目。SF映画に魅了されたひとりの音楽家として、「自身の音楽作品をフィルムや映像のために制作しなければ」という衝動に駆られ、2000年より開始した「CINE-MIX」プロジェクトがあり、そのひとつの集大成として、2016年に、東京・浜離宮朝日ホールにて発表された作品が「THE TRIP」である。今回開催された「THE TRIP -Enter The Black Hole-」は、その進化版としてブラック・ホールをテーマに掲げて制作された。

宇宙の旅を通して想像を広げる、拡張するための機会。

ー今回開催された「THE TRIP -Enter The Black Hole-」は、ブラック・ホールを題材とした演目です。このテーマを扱うことになったプロセスを教えてください。

過去から現在に至るまでに人類が宇宙に関して解き明かした事実があれば、一方では自分たちが理解し得ないこともまだまだたくさんあります。その中には、現時点では存在は確認されていないけど、恐らくこういったものが存在しているであろうという推測も含まれるはずです。私が興味を持つのはそうした事象なんです。

自分たちが知り得ないもの、理解できないものに対して、我々は想像力を通して知識を補っていくしかない。とはいえ、人類が地球から遠く離れれば離れるほど、さらに未知のものとの遭遇が増えてくる。そのときに必要になるのは、やっぱりイマジネーションであると私は思うんです。

「THE TRIP」は宇宙旅行をテーマとして扱っていますが、そうした旅を通して想像を広げて拡張するための機会をつくりたいんです。

ーステージで使用されたベンタブラックの丸いスクリーンは、可視光の最大99.965%を吸収する物質だと聞きました。実際に間近で見る機会があったのですが、光を反射しないから奥行きを捉えることができず、本当に吸い込まれそうな感覚に陥って、すこしだけ恐怖を感じたんです。ジェフさんはブラック・ホールという事象や概念と直面したときに、どんなフィーリングや感情が起こりますか?

ブラック・ホールの存在を考えると、いま我々がこうして生活を送っていることが如何に幸せであるかを実感するし、それと同時に時間が有限であることも認識させられます。もし宇宙に何かが起これば、ブラックホールがすべてを吸い込んでしまうかもしれない。だから、いますごく貴重な時間を過ごしているということを感じるわけです。

我々にとってブラック・ホールは遠い存在であるかもしれませんが、自分たち人間と深い関わりをもつものです。というか、宇宙すべてが我々とリンクしています。ブラック・ホールがすべての事象の根源であるという仮説があるとすれば、人間の進化の果てにもブラック・ホールが存在するはずなので。

デトロイトの環境によって想像力みたいなものが養われた。

ーブラックミュージックはアフロ・フューチャリズム(アフロ・アメリカンたちによる宇宙思想)と密接な関係を築いていますが、ジェフさんご自身はどうして宇宙に惹かれるのでしょうか?

アフロ・フューチャリズムではなく、私自身はフューチャリズムそのものに関心があるんです。時間を越えた向こう側にあるものに対して敬意と畏怖を感じる。宇宙への憧れというよりも、よりたくさんのひとが同じ目的を持って行動することにより、それが実現する可能性が増える。たとえば、人間は昔から空を飛びたいという願望を持っていたはずです。その結果として飛行機が生まれ、いまでは宇宙船や衛星まで存在するようになりました。

そうした流れに私自身も加わりたい。自分ひとりでは解決できない問題や取り組みも、多くのひとが加われば解決することができるはずです。多くのひとの努力がさまざまなことを可能にしていくし、今回の「THE TRIP」もそうした目的があるんです。いま私たちが過ごしている現実とは異なる現実、パラレル・ワールドが存在しているかもしれない。ブラック・ホールはそうしたアイデアを想起させる概念で、今回の公演を通してみなさんにそれを感じ、考えて欲しいと思ったんです。

ージェフさんは、そうしたイマジネーションの媒体として“テクノ”を通じて表現活動を行なっていますよね。デトロイトで生まれたテクノには、宇宙観のようなものが存在するような気がするのですが、ご自身はどのように感じていますか? たとえば、シカゴ・ハウスを聴いているときよりも、デトロイト・テクノを聴いているときのほうが宇宙を感じやすいと思うんです。

デトロイトはシカゴよりも小さな都市です。当然人口も少ないし、規模も小さい。だけど、そのぶん人と人の距離が近くてソーシャライズな場面では密な関係性が築かれている。我々の世代はみんな幼い頃にSFコミックや、パルプフィクションを見て育ってきました。そうしたものにすごく影響を受けていて、物事をコンセプチュアルに考えたりとか、イマジネーションを働かせることの土台がしっかりしたのだと思います。それが音楽にも反映されているのだと思いますね。

ーSFコミックやパルプフィクションの影響というのはすごく興味深いですね。そこで得られた想像力が、デトロイトという土地で純粋培養されていったと。

デトロイトはカナダとの国境に面していて、国の端っこにいるという環境も大きく影響していると思います。我々は中心ではなく端にいるという感覚がずっとあった。それにデトロイトは自動車産業で有名ですが、常に新しいテクノロジーがそこにはあって、幼い頃に街を歩いていると、まだ開発途中のクルマが横を走っていた。自分たちはテスト・グラウンドにいるという意識が間接的に働いていたと思うんです。

とはいえ、決してインターナショナルな都市ではなく、外国人と接することもなかった。限られた情報、たとえばテレビや映画、コミックを媒体に私は友人たちとコミュニケーションを取っていました。多くの家庭が工場の労働によって給料を得ていたし、みんな同じような生活を送っていた。そうした環境によって想像力みたいなものが養われたのだと思います。

ーいまはインターネットやSNSが普及して、簡単にひとと繋がれたり、答えを見つけやすい時代です。そこにはメリットがあれば、デメリットも存在すると思うのですが、こうした時代をジェフさんはどう眺めていますか?

たしかに、現代に生きる人々は本来持っているポテンシャルを最大限に活かしきれていないと思う。とはいえ、いまは移行期だと私は捉えています。我々はスマートフォンをなにかのレクリエーションやコミュニケーションツールとして利用していますが、そのうちなにか大きな問題が起こったときに、そうしたツールが解決へと導くのではないかと思います。人間ができないことをAIが行う時代に突入していますが、それが今後加速したときに、AI同士がコミュニケートをして解決方法を探ってくれる時代がくるんじゃないかと想像しますね。

INFORMATION

Axis Records

https://www.axisrecords.com/

『THE TRIP – ENTER THE BLACK HOLE』

ジェフ・ミルズが導く究極のサウンドトリップ。戸川純が参加で話題のニューアルバムがCD、アナログレコードでもリリース決定!
https://www.umaa.net/what/thetrip.html

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