エレクトロミュージックを土台にいろんなコンセプトを表現することが可能。
ー再び「THE TRIP」の話に戻ります。今回はブラック・ホールをテーマに、音楽のみならず、「COSMIC LAB」による空間演出や、ダンサーたちによるパフォーマンス、されには〈ファセッタズム〉の落合宏理さんが手がけた衣装によって複合的な表現をされています。そこで目指したのは、どんなことなのでしょうか?
いろんな方向、いろんな分野のアートフォームをミックスして、さまざまなクリエイティブの側面からブラック・ホールを表現したいと思ったんです。これまでにそうしたことを実現してきたプロジェクトは意外なことに少ない。もっと早くからこうしたことが企画されるべきだったと感じています。今回の公演がひとつの例となり、今後各方面のコラボレーションに貢献できればいいなという想いもありますね。

ーそうした想いの裏側にはどんな気持ちが隠されているのでしょうか。
テクノロジーが進化しているのに対して、エレクトロミュージックはこの30年間進化があまりない。私自身はそれに対して危惧する気持ちもあります。80年代にいろんなことがされるべきだったのに、エレクトロミュージックのカルチャーはレイブや大型のミュージック・フェスティバルの方向へと走ってしまった。だからコンセプチュアルな音楽をつくるアーティストが活躍しづらい現状がある。そうした背景の中で、エレクトロミュージックを土台にいろんなコンセプトを表現することが可能であるということを、多くのひとに知って欲しいという願いもあります。
ー今回の作品では戸川純さんがフィーチャーされていました。彼女に対してはどのような印象を抱いていますか?
実は、このプロジェクトがはじまるまで彼女の存在を知らなかったんです。そこからいろいろとリサーチを重ね、TV番組やミュージック・ビデオも拝見して、非常に素晴らしいアーティストだという認識を深めました。だから今回一緒にプロジェクトを進められたことをすごくうれしく思います。
彼女は非常に複雑なトピックを秀逸な歌詞で表現されています。そのアプローチというか、方法がとてもユニークで優れているというのが私が抱いている印象です。あと、私と彼女は同世代なんですよ。60年代に生まれ、70年代にさまざまなことを学び、80年代に自分たちの表現活動を通してさまざまなメッセージを投げかけてきた。その共通項もコミュニケーションをする上で重要な要素になりました。
ー一方で、衣装を手がけた〈ファセッタズム〉の落合さんとのコラボレーションはいかがでしたか?
非常に素晴らしかったですね。彼はコスチュームデザインを過去に手がけた経験があったから、コミュニケーションも円滑に進めることができました。コンセプトを伝えて、それを彼なりの解釈で衣装に落とし込んでくれました。リサーチもかなり重ねていたようで、その結果としてパーフェクトなコスチュームができた。本当にうれしく思います。


今回の公演はブラック・ホールを通り抜けていくというコンセプトなので、通過の跡のようなものを衣装でも表現したかったんです。宇宙を光速で通り抜けることによって、服にも当然変化が生まれます。そうした現象を彼は上手に表現してくれました。