作品を通して、セルフ・カウンセリングをしてる。

石田さんは初婚だったんですよね?
植本初婚です。37歳まで童貞で。
岩井え?
植本ああ、そうそう。知らないですか? その辺も、私小説(『失点・イン・ザ・パーク』)に書いていて。
岩井37までってすごいな。オープンにしてる人の中で最高年齢の可能性ないですか?
植本そこからふたり付き合って。で、(わたしで)3人目なんですよ。その作品を最初に読んで、わたしは私小説の面白さみたいなのを知って。
岩井そうなんだ。
植本だから、尊敬はいまだにしてるんでしょうね。
弟子入りみたいなことをしたんですね、結婚することで。
岩井そうかも。
植本深い弟子入り。
岩井そうですね。いなくなったら困るなっていうのは、やっぱあるんですよね。
岩井さんは、対人恐怖症を克服して、複数人の世界に行ったわけですよね。片や、植本さんはずっとひとりがいいというので、写真と文章を選んだ。
岩井ぼくはひとりでやれることは苦手ですね。小説を書いたときに何を思い知ったかというと、演劇って本当に楽だな、と。演劇はとりあえず書いたものを次の日、稽古場に持って行って、みんなで面白くできる。それで、面白くないのを俳優のせいにしたりできるんですよ。その楽さっていうのは圧倒的にあって。やっぱり小説をやっていける人っていうのは精神力が異常だと思うんです。
植本それは反動ですか? ひとりでいたときの。
岩井そうなのかな。どうなんでしょうね。
植本対人恐怖症だったんですか?
岩井そう。対人恐怖とか視線恐怖。じゃあ、そんだけ対人が怖かったのに真逆の演劇によく来ましたねって言われるんだけど、相手に思われているかもしれないことを、あるとき、本当にそう思われているのかどうか、とにかく確かめに行かなくちゃみたいな感じで、(外に)出てきて演劇に入っていった感じなので。
植本だいぶ勇気いりましたよね?
岩井完全にキャラクターチェンジをして外に出てきたので。だから、もともとのキャラクターってどうだったんだろうな、みたいなのがあるんですよね。よく“ありのままでいいんだよ”系の啓発的な言葉があるけど、ちょっと雑だなっていう感じはしますよね。ぼくは、自分の半分くらいは殺して出てきて、なんとか適応したから。(社会に)出ることが100パーセントいいっていう考え方、すごい危ないなって思います。
植本半分はどこにあるんですか? 部屋に置いてきた感じですか?
岩井そうそうそう、部屋。『ヒッキー・カンクルートルネード』の続編(『ヒッキー・ソトニデテミターノ』)でも、ふたりの引きこもりの主人公がいて、ふたり同時に職業訓練を受けに行くために外に出るんだけど、片っぽはその足で自殺するんですけど。引きこもりの支援センターに1カ月くらい取材に行ったときに、そういう、いろんなケースを聞いて。やっぱり出て行くことを良しとはしているんだけど、出て行ったことで、やっぱりダメだったって思って自分で死ぬってことを選ぶ人もいる。それが、結構大事なことだなと思ったので。
植本ショックでしたね。(『ヒッキー・ソトニデテミターノ』の)DVDを観て。
岩井例えば、15年くらい前の“引きこもり”といまの“引きこもり”っていう言葉の重さとか意味合いって、すごい違う気がするんですね。韓国で『ヒッキー・カンクーントルネード』をやったとき、 “引きこもり”って言葉がまだ韓国になくて。翻訳の人に「じゃあ例えば長男が25歳なのに働きにも行かず、学校にも行かずにいたら、どうすんの?」って聞いたら、「まず、親がそのことを絶対に外に漏らさないようにします」って言ったんですよ。まあ今は韓国の状況も変わってるとは思うんですけど、「漏らさないようにする」って、一番やばいやつでしょって思って。まだ社会問題としても取り上げてられてなかった。
日本では引きこもりって言葉を広めたのは『2ちゃんねる』とか、ネット社会だと思ってて。「引きこもり」って言葉をみんなが「ヒッキー」とか「自宅警備」とかって言って、傷つく人もブワッて出るんだけど、みんなが興味持って、グワーッて遊ぶんですよ。そうすると、その延長線上で「1年間家から出ない人っているわなあ」とか。家族も言いやすくなる。すっごい雑なように見えるんだけど、あえて、もみくちゃにみんなが勘違いしたり、勝手なこと言ったりとかしてくうちに、言葉とかその存在っていうのを認めていく。それが機能してるだけでも、実は日本って健全なのかなって思いますね。
だから、子どもを叩いちゃうとか、つらくて子どもを殺したくなるみたいな気持ちも確実にあるし、それを言わないでいるよりは、声に出して「エグい!」とか言っていくうちにだんだんと気持ちも軽くなっていくし。「その事柄についてもうちょい雑でもいいから、みんなしゃべってみようや」みたいな空気が、長い目で見ると、いま平気で認識してるものを、そもそも生んでたりするっていうか。そういうのを考えると、いま痛いけどちょっとやっておかないとねって。だから、そういう点でも勇敢ですよね。
植本さんの本をわかりやすく説いた、すごくいいレビューですね。
植本確かに。明るさが必要っていうのがいまわかりました。もみくちゃにしないと。
岩井そうそう。
植本ねえ。重いかもしれないですね。演劇の中でいろんなつらいことを話してみるのは、自分のカウンセリングにもなりますよね。
岩井すっごいなったんだと思いますね。
植本脳内だけだとすごいつらい出来事も、こうやって出すと。
岩井それがまず、すごくあります。
植本よかったですね。本当に。
岩井だから、さっきのファシスト演出家のこととかも、現実のその場では誰も笑ってないんですよ。とんでもないこと言ってるんだけど、みんな適当に流して「この時間よ、早く去ってくれ」って思うんだけど、1回外の世界に出て、観客の前で見せたらあれだけ笑ってもらえて。笑ってもらえたってことは、それだけあの演出家が異常なんだっていうことが明らかになったわけで。そのことで僕自身も救われたし。あと、ぼくは当然と思ってやってることを笑われたときに、「あれ?…うそでしょ…?」みたいなこと、とか。お客さんたちによっていろいろ学ばされることもあるし。

家族がまさにそうですよね。一番クローズドな社会。当たり前のことが他の家ではまったく通じない。「なんでそこに醤油かけるの?」みたいな話とかもそうですし。
岩井まさにそうですよね。「なんでそこに醤油かけるの?」ですよね。
植本『かなわない』で、最後に彼氏との修羅場を書いてるんですけど、あれを読んですごいエンタメで楽しかったみたいに言われたときに、最初すごい腑に落ちなかったんですよ。結構しんどかったし、書くことで乗り越えたというか。彼氏のところには戻んないみたいな決意もあって書いたのに、「あれエンタメでおもろい」みたいなことを言われて(笑)。エンタメって読む人もいるんだって。意外だったけど、読み手いろいろだよなって。
ファンタジーとして捉えないと理解ができないんですかね。
植本ああ、そうかも。それはあるかもしれないですね。その人は、こっち(『家族最後の日』)をしんどかったって言ってましたね。「おばあちゃん、かわいそう」みたいなことを言われたり。
岩井いつか、台本書いてほしいですね。『ワレワレのモロモロ』は、本人が出るっていう縛りなので、出てもらってもいいですし。「出てきた、出てきた!」って。
そろそろ時間もなくなってきましたが、新作のお話は……。
岩井えー。
植本ここから。
岩井「そんな岩井さんの」、でよくないですか?
一同(笑)
「ハイバイ、もよおす」
作・演出:岩井秀人
出演:岩井秀人 上田 遥 川面千晶 永井若葉 平原テツほか
日程:2017年7月29日(土)〜8月12日(土)
場所:KAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ
hi-bye.net/plays/moyoosu
「いっつもは僕の人生の周辺に起きたことを陰湿に描いておりますハイバイですが、今回は番外編のような感じで、今までに書いた3~40分ほどの中編を並べてみます。いまのところ、お正月に上演した「ゴッチン娘」「大衆演劇のニセモノ」「RPG 演劇のニセモノ」をやろうと思っていて、もうひとつは一人芝居をやってみようかなと思ってます。いつものシリアス目なハイバイが好きだと言う人も、今回はいい加減な気持ちで見にきてもらえればと思います。お待ちしております。(岩井秀人)」