心がけたのはリブランドではなくアップデート。既存のテイストをより良く表現していくこと
まずは、相澤さん自身、元々〈ハンティング・ワールド〉というブランドにどのようなイメージを持っていましたか?
相澤自分の父が持っていたバッグという印象ですね。毎日〈ハンティング・ワールド〉のバッグを背負って会社に行っていたのをはっきりと覚えています。愛用していたのは、それこそブランドを象徴するバチューの「キャリーオール」。父はどっぷりアメカジの人だったので、〈ブルックス ブラザーズ〉のスーツや〈リーバイス〉のデニムにバチューのバッグを合わせていました。だからアメリカというイメージも強かったですね。
これが「バチュー サーパス」の「キャリーオール」。長年多くのファンから親しまれている、まさにブランドを代表する名品だ。
そのお話を聞くと、このタイミングで相澤さんがこうなるべくしてなったというような不思議な縁を感じますね。実際に〈ハンティング・ワールド〉サイドから相澤さんにオファーがあった際、「こういう風に変えたい」といった明確なビジョンをすぐにイメージすることはできたのでしょうか?
相澤〈ハンティング・ワールド〉に対しては、価格帯も含めてアウトドアをベースにしたラグジュアリーゾーンのブランドという認識が元々あって、そこをリブランドしようという考えは実は全くなかったんです。そもそも歴史があって、知っている人もすごく多いブランドですから、既存のものをベースにプラスアルファをし、「バチュー サーパス」の良さをしっかりと表現しながら進化させていこうと。〈ハンティング・ワールド〉のバッグがあるべき情景をもう一度しっかり作っていくといいますか、プロダクトがそこに存在する意味のようなものを掘り起こすのが、僕に課された仕事だと思いました。
ディレクションやデザインに携わっていく中で、あらためて実感した〈ハンティング・ワールド〉のバッグの魅力とはなんでしょうか?
相澤「バチュー サーパス」は、バチュー・クロスというナイロンをベースにしたアイコニックな素材を使ったバッグなのですが、レザーのパーツとの組み合わせ方などがすごく合理的に作られています。そのあたりのナイロンとレザーのバランスをしっかり考えて作っていきたいなと。ただ一方で、実際にそのバッグをどういうファッション、どういうシチュエーションで持てばいいのかというのがいまいちわかりにくい側面もありました。だからバチューを現代的なスタイルにアップデートしていく上で、一つ一つのプロダクト作りの前に全体のイメージからまずは作っていかなくていけないなと。
6月のピッティでのショーは、そのイメージ戦略としてはまさに打ってつけの舞台だったというわけですね。
相澤そうですね。このタイミングでショーをやれたというのは大きかったと思います。〈ハンティング・ワールド〉のバッグの多くをフィレンツェの工場で作っていて、またピッティで展示会も行っていたという繋がりもあって、主催者側からもトータルで見せることができるなら、ぜひショーをやってみて欲しいとリクエストを受けました。さきほど話したような“バッグのある情景”を作り出すためにも、どういう人にどういうスタイルで持ってほしいというようなメッセージを打ち出す絶好の機会になりました。
ピッティのショーで発表された2018年SSの新作バッグたち。伝統的なバチューのバッグが、そのオーセンティックさはそのままに巧みにモダナイズされている。
アメリカにあるルーツとイタリアのモノ作り精神。それらを融合し、新鮮に見せることを心がけた
ショーのためには、バッグはもちろん洋服作りにもかなり注力されたかと思います。服作りにおいてはどのようなテーマを設けられましたか?
相澤〈ハンティング・ワールド〉自体が若いブランドではないので、特に旬のトピックやテーマ性は必要ないかなと。僕自身もちょうど40歳になる年ということもあって、この先どうやったら自分自身が良い感じに歳を重ねていけるかというイメージを持ちながら、元々ブランドの根底にある“旅”を題材にしたスタイルをブラッシュアップできたらと思いました。
どのルックを見ても、新しいエッセンスは存分に感じられつつも、やはりアメリカブランド特有のオーセンティシズムはしっかり継承されているように思いました。
相澤単なるアメカジにはしたくなかったんですが、イタリア人から見たアメリカのイメージというものにはすごく興味があったんです。例えばイタリア人がデニムを作ったり質実剛健なバッグを作ったりする感じ、さらに日本人が入ってどうアメリカを切り取っていくのかという部分はすごく意識しましたね。ルーツにあるアメリカをしっかり表現しつつ、同時にイタリアでモノ作りをしていることも表現する。その両方を心がけました。
「イタリアから見たアメリカ」を表現したワッペン使いがショーでも目を引いた。バッグやデニム、シューズなど様々なアイテムに施されている。
中でも、自身の中で強く印象に残っているルックはありますか?
相澤ファーストルックとセカンドルックですね。アイコニックなグリーンのバッグに対して、あえてグリーンとイエローという強い色を使うことで、昔ながらのオーセンティックな部分と僕がやるフレッシュさをうまく調和させることができました。
大きなトロリーを持ったファースト&セカンドルックは、どちらもグリーンとイエローの鮮やかな配色が目を引いた。
テキスタイルにも相澤さんらしさがすごく表れているなと感じました。
相澤工場に行くと、バッグが大量に積まれているんですよ。その山積みされたバッグたちがだんだん迷彩柄に見えてきて。それをイラストにして総柄にしてみたらどうだろうかと。そうやって、偶然目にしたものや見つけたものをテキスタイルに落とし込んでアレンジしていくのはやはり面白いですね。
まさに相澤らしいテキスタイルやスポーティーなファブリックが様々なルックに投影。
〈ハンティング・ワールド〉というとメンズのイメージが強い中で、ウィメンズはどのようなイメージでデザインやスタイリングをされたのですか?
相澤実は元々の顧客層を見てもウィメンズの比率は低くなかった反面、完全にウィメンズに向けに作られたバッグやウェアというのは少なかった。だから、「バチュー・クロス」をしっかり使ってウィメンズだけをターゲットにしたコレクションをもっと見せるべきだと思って取り組みました。それにウィメンズが広がると、おのずとメンズの若いゾーンにも広がっていくのではないかと思ったので。
飛躍的に女性らしさが増したウィメンズのコレクションにも注目。
イタリアでのショー、イタリアでのモノ作り。今回の仕事を振り返ってみて、あらためてどのような感想を持たれていますか?
相澤やはりピッティでショーをやる上で、バッグを作る工場がフィレンツェにあったというのは非常に大きかったなと。僕自身がフィレンツェに馴染み深かったこともあり、フィレンツェの人たちの気質やモノ作りに対する姿勢を自分なりに理解していたので。何十年とそこでやってきた職人たちのやる気をいかに盛り上げていくかがモノ作りにおいてはポイントでした。これが別の国や都市だったら、またちょっと違っていたと思います。
本当の意味で愛着を持ってもらえるような、ラグジュアリーバッグを作っていきたい
あれだけの種類のバッグを作るというのはこれまでのデザイナー人生においてなかったことだと思いますが、やはり大変な面は多かったですか?
相澤大変でした(笑)。でも、それ以上にやりがいがあったというか。プライス設定やMD的な視点から入り、〈ハンティング・ワールド〉のバッグをどういう場所で、どういう人が持ってくれるのがいいのかというのを考えながら作る仕事はとても魅力的でした。昔のアーカイブを探し出してきて今の形に変えて行く作業も非常に面白かったですね。
相澤さんはアウトドアプロダクトに造詣が深いですが、やはりアウトドアが背景にありながらも〈ハンティング・ワールド〉のバッグは他のアウトドアプロダクトを作る作業とはアプローチが異なりましたか?
相澤そこは全然違いました。〈ハンティング・ワールド〉の場合は機能美はもちろん大切ですが、それよりも品があるということが大前提。ただ単に使いやすいものを求めるならこのバッグじゃなくていいと思うんですよ。本来持っている艶っぽさや上品さを忘れずにデザインすることを一番心がけました。
“ラグジュアリー”であることが大事、ということですね。
相澤バチューというバッグを僕らがどれだけ大切にしながら、新しい見せ方ができるか。そこを一番重要視しています。僕自身、バッグにしても時計にしても、自分の普段着にすっと入れられるものであれば、以前に比べて品のあるものを求めるようにもなってきました。〈ハンティング・ワールド〉も、多くの人たちにとってそのようなブランドになってほしいと思っています。
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