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FEATURE|J.S.Homesteadが出会った奄美の泥染め。伝統工芸が彩る自然のカラー。

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J.S.Homesteadが出会った奄美の泥染め。伝統工芸が彩る自然のカラー。

真摯にモノづくりに向き合い、デザイン性だけでなくその生産背景などにもこだわりを示す「ジャーナル スタンダード(JOURNAL STANDARD)」内のレーベル、〈J.S.ホームステッド(J.S.Homestead)〉。今季、このブランドがスポットを当てたのが奄美大島の伝統工芸である“泥染め”です。他の染色方法とは違い、その仕上がりは優しい色合いでナチュラルなのが特徴。とはいえこうしたアプローチの裏側には、職人のたゆまぬ努力、繊細な技術、そして尽きることのない情熱があるのをご存知ですか? 今回はそんな泥染めのプロセスをご覧入れながら、奥深きクラフトマンシップの世界へご案内しましょう。

  • Photo_Kazunobu Yamada
  • Edit_Yuichiro Tsuji
  • Special Thanks_Kanai Kougei

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奄美大島で育まれる“泥染め”というカルチャー。

鹿児島の南海上に位置する奄美大島。沖縄の名護にほど近く、沖縄県の一部と誤解されがちですが、奄美大島は鹿児島県に属しています。南国のイメージそのままに、熱帯特有のトロピカルな植物たち、さらに目をみはるほど美しい海に囲まれ、足を一歩踏み入れるだけでリゾート気分にさせてくれます。

今回〈J.S.ホームステッド〉が注目した“泥染め”は、古くからこの島に根付く伝統的な染色方法。その発祥について詳しい文献は残っていないそうですが、少なくとも1300年前には文化として成熟を遂げていたそうです。

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奈良県にある正倉院の書物のなかに“赤褐色の着物が献上された”という記述があるんです。おそらくそれは、“大島紬(おおしまつむぎ)”という島の民藝品だろう、と言われています」

ゆっくりと落ち着いた口調でそう話してくれたのは、〈J.S.ホームステッド〉のアイテムを染色している金井工芸の職人である金井志人さん。彼が語る大島紬とは、島で生産される着物のこと。黒く光沢したその織物は、着物のなかでも高級品として知られ、愛好家たちの憧れの的でもあります。

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染色過程にある大島紬を織るための絹糸。これから紹介する泥染めを80回ほど繰り返し、黒く染めていく。

驚くほど生産工程が多いため分業によって生産される大島紬は、情熱を持ったたくさんの職人たちの手を介してつくられていて、丁寧かつ美しい仕上がりなのが魅力。そのプロセスのなかで欠かすことができないのが泥染めであるわけです。

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“染める”ではなく“染めさせてもらう”。

大島紬が奄美でしかつくられない理由。それは、この島で育まれる風土にあります。奄美には鉄分を多く含んだ古代層があり、それが染色に適した泥田となって地上に表れるのです。

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チップ状にしたシャリンバイを一度に600kgほど釜に入れ、2日間煮出してエキスを抽出する。

この泥に加えて、“シャリンバイ(奄美ではテーチ木と呼ばれる)”という樹木から抽出した朱色の染料を使用するのが泥染めの特徴。島ではこの木が豊富に採れるのです。

泥染めは、化学的なものを使わずに島にある自然を利用しています。だから染めるといよりも“染めさせてもらう”という感覚のほうが強いです。そうした自然に、先人たちから伝わる知恵を組み合わせて泥染めは成立している。そういったところに染色のおもしろさを感じますね」

気温や湿度の変化に応じて染め方を工夫する。

今回金井さんが染めてくれるのは、〈J.S.ホームステッド〉で実際に展開するアイテムです。

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Gジャンタイプのジャケット、Tシャツ、そして〈Dickies〉とのコラボパンツを、それぞれ異なる方法で染めていきます。

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まずはジャケット。下地として藍染めをしたあとに泥染めをしていきます。そうすることで青黒い深みのある色が出るとのこと。はじめに染料が浸透しやすいように水に通したあと、藍染めの甕(かめ)のなかに浸し、揉んだり絞ったりしながら生地にインディゴを染み込ませます。

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引き上げると、真っ白だったジャケットがグリーンに染まっています。金井さん曰く、藍というのは本来緑色なんだとか。それが空気に触れ、酸化することによって鮮やかなインディゴブルーが生まれるそうです。

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ということで、ジャケットを引き上げたあと、空気に触れさせるために干します。染色と干す作業を数回繰り返すことによって深く濃厚な藍色が表現されます。

染料は気温や湿度によって濃度が変わります。そのため、同じやり方をしても仕上がりが変わってくるので、ぼくたちはその日の状況に応じて揉み方や染めの回数を変化させているんです。製品になるとロットがあるので、すべてのアイテムがなるべく均等に染まるように意識しています」

丁寧にジャケットを染めながら金井さんが話します。頭のなかで完成形となる色をイメージし、そこに向けてひとつ一つのアイテムを染色をする。ここで染められているアイテムは、機械が持つことができない職人の確かな勘と技術があってはじめて成立するものなのです。

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染色を繰り返したあと、より鮮やかなブルーにするために、酸化を促進する酢酸ときな粉を混ぜた水のなかにジャケットを浸します。きな粉にはたんぱく質が含まれ、それが色の定着(堅牢性の向上)に役立つとのこと。

先人たちが発見した化学の知恵。

続いてパンツとTシャツ、そして先程藍染めをしたジャケットをシャリンバイで染めていきましょう。

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パンツは事前に、石灰水と鉄分を含んだ水に数回ずつ交互に浸して一度干しています。これによって生地に黄土色の下地がつき、最終的な色の仕上がりに大きな変化を与えるのです。

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左側のタンクには水、真ん中と右側にはシャリンバイから抽出した濃度の異なる染料が入っている。

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これはTシャツを染色しているところ。ジャケット、パンツも同様にこのボウルの中に入れて、それぞれ染めていく。

シャリンバイ染めでは、タンクから朱色の染料を金属のボウルに移し、そのなかにアイテムを浸します。藍染めと同様に揉んだり絞ったりしながら染料を浸透させます。

Tシャツを染めているときは、石灰水を染料と交互に染み込ませていました。その理由を尋ねると、「これは化学の話になるんですが」と前置きを添えて金井さんが説明をしてくれました。

シャリンバイの染料はタンニン酸という成分でできているんです。石灰は生地をアルカリ性に寄せる役割を果たしています。そうすることで酸が生地に付着しやすくなる。つまり、シャリンバイの色に染まりやすくなるんです。理想の色になるまで何度かこの作業を繰り返したあとは、色に深みを出すためにすこし寝かせます。そして最後にミョウバンという媒染剤を含ませて色を定着をさせます」

こういった知恵は先人たちから伝統的に受け継いでいるもの。科学の技術が進歩する前からこうした染色による“反応”を発見し、技術として応用してきたわけです。

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そうした古くからの知恵を駆使した染色が終わると、それぞれのアイテムはこんな色に。Tシャツはこれで染色が完了。ジャケットとパンツはこの後、泥で染めます。

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泥が均等に染み込むように、アイテムはひとつづつ染めている。

奄美の泥が繊維の染色に適している理由。

泥田ではジャケットとパンツを深く潜らせ、生地をこするようにして泥をすり込みます。泥に含まれる豊富な鉄分がシャリンバイのタンニン酸と結合することで黒い褐色が生まれるんだとか。

この泥はすごく粒子が細かく、繊維を傷つけずに糸を染めることが可能なんです。でもその反面、たくさんの粒子が繊維に絡まるため、余分に付着してしまう。それを取り除くには澄んだ流水が必要なんです。工房の近くには川があって、泥染めの余分な粒子をそこで洗っています」

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ということで、泥田での作業が終わると、川へ移動して余分な泥を落としに行きます。山の麓にある川は、木々が太陽の日差しを優しく遮っているため涼しくて快適。そして澄んだ水はひんやりとしているので、作業で火照った体を冷やしてくれます。

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アイテムを水にくぐらせて生地を優しくこすると、川の流れに沿うようにして付着していた泥がゆらゆらと漂っていきます。金井さん曰く「すべて自然由来の材料を使っているので、川を汚すことなく洗うことができる」とのこと。泥が落ちたら染色作業は終わり。あとはアイテムを干して、乾くのを待つのみです。

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金井さんはもともと音楽業界に身を置いていたんだとか。そんな金井さんの趣向を表すようなポスターが工房に飾られていたのが印象的だった。

モノづくりを楽しむというスタンス。

染色が終わったあと、金井さんに泥染めの文化について話をききました。奄美には現在、指で数えられる程の泥染の工房があるといいます。大島紬の生産が隆盛を極めた頃は100件近く存在したんだとか。

工房が減ってしまった理由はたくさん存在しますが、ぼくたちがいまもこうして残っていられるのは、泥染めという伝統工芸を多くの人に伝えようとする意識があるから。いまの社長がそういう人なんです。観光客を受け入れて泥染めの体験をしてもらったり、〈J.S.ホームステッド〉もそうですが、アパレルブランドと手を取り合ってその魅力を幅広く活用したり。柔軟な考えを持って泥染めの文化を継承し、発展させています」

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工房にはショップも併設されていて、カラフルに染められた服や雑貨類などを販売している。

泥染めはもともと、大島紬を生産するためのひとつの歯車として機能していました。つまり、大島紬のためだけに泥染めという手法を用いていたということ。そこに柔軟な考えを持ち込んだのが金井工芸なんだとか。新しい方向へ技術を応用し、文化を発展させる。伝統は守るだけではダメなのだと、金井さんたちの姿から学ぶことができました。

ぼくたちはものづくりを楽しもうというスタンスでいます。大島紬の伝統を理解しつつ、それとは異なるアプローチを模索する。染色にはいろんな技法があるし、生地や素材によって染まり方も変わるんです。自分たちの技術を使って、いろんな組み合わせにチャレンジしていきたいと思ってます」

受け継いだ技術を信じて確かな品質を届ける。

アイテムをひと晩干した翌朝、染色が完了したアイテムを金井さんが見せてくれました。

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奄美泥染め × J.S.Homestead S/S Pocket Tee ¥10,000+TAX

こちらはシャリンバイで染めたTシャツ。パープルに近い赤褐色に染まっています。他の染料は使っていないので、これがシャリンバイ本来の色。自然由来の優しい色合いが魅力です。

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奄美泥染め × J.S.Homestead Blouson ¥25,000+TAX

続いてジャケット。藍染めによるインディゴブルーと泥染の黒が相まって、奥行きのある色に染まっています。光に当たってブルーが鮮やかに輝くのは、深くて濃い影があるからこそ。その深みは泥染によってつくられています。

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奄美泥染め × Dickies ×J.S.Homestead Pants ¥18,000+TAX

パンツはベージュのような色に染まりました。シャリンバイと泥染だけではこの色を表現することはできません。下地として染めた黄土色に奄美の染色技法が加わって成立しています。「いろんな組み合わせにチャレンジする」という金井さんの話にあったように、多角的なアプローチをすることで、こうした淡い色に染め上げることも可能になるのです。

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金井さんと共に新しい泥染めの可能性を模索する若手の職人。この他にもたくさんの職人たちが金井工芸で働いている。

ひとつひとつのアイテムを丁寧に扱う姿が印象的だった金井さん。この工房には大島紬の伝統を守る年配の職人たちと、新しいことにチャレンジする若手の職人が在籍しています。どちらにも共通しているのは、両手を使って、染める対象をひとつ一つ丁寧に扱っているということ。機械に頼らず、受け継いできた技術を信じて確かな品質を届ける。そのため、染色できるアイテム数には限りがあり、工場で大量生産されるモノとは異なる表情がそこには宿っているのです。それを“ハンドメイド”や“手仕事”といった言葉で表現するのは簡単ですが、その言葉の核は、伝統、技術、そして職人たちの汗によって構成されています。店頭でこの商品を手にとったき、その構成要素を思い出してみてください。デザインのよさはもちろんですが、表層部分には表れない分厚い魅力を感じ取ることができるはずです。

また「ジャーナルスタンダード 表参道」では、奄美大島在住の木工作家・ Woodworks-CUEの今田智幸氏に別注し、金井工芸にて泥染め・藍染め別注を施したウッドボウルや、通常商材の皿やフラワーベースなどの販売も同時展開しております。そちらも合わせてチェックしてみてください。

JOURNAL STANDARD 表参道
住所:東京都渋谷区神宮前6-7-1
電話:03-6418-7961
営業:11:00~20:00(不定休)
journal-standard.jp/
instagram:@jounalstandard.jp

金井工芸
www.kanaikougei.com

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