サーフィンのDNAを継承しながら、次なる道へ。

冒頭で述べたように、〈マジックナンバー〉は長年、中村竜さんが牽引してきましたが、2024年より新ディレクターに梅津さんが就任。数々のブランドに携わり、デザインやパターンを手がけてきた彼の手で、ブランドはどんな方向へと舵を切っていくのか。ここからは梅津さんのインタビューを通して、デニムのこと、そしてブランドの未来をたどります。
About Denim setup
〈マジックナンバー〉ではおよそ3年ぶりとなるMade in Japanのデニムアイテム。過去の名作を現代的なサイジングで〈マジックナンバー〉流に表現し、タイムレスながら現代的なシルエットに再構築。特殊なムラ染めで綺麗な縦落ちを実現した「INDIGO」「VINTAGE WASH」の2色展開。2月21日(金)より発売スタート。
ー 梅津さんがディレクターとして手がけたアイテムは、いつからリリースされるんでしょうか?
梅津: 2025年2月からデリバリーがはじまるもの、シーズンとしては2025年春夏からですね。
ー 梅津さんがディレクターになって、変わる部分を教えてください。

梅津: これまでも大部分を任せてもらっていたんですが、今後はシーズンテーマだったり、コンセプトの部分もぼくが担当することになりました。とはいえ、ファウンダーが中村あることに変わりはありません。
ー ブランドのアイデンティティでもある、海を感じられるモノづくりは変わらず、ということですね。
梅津: 変わらずです。ぼくらは普通のアパレルブランドではなくて、バックボーンにはサーフィンがあるので、そこをどう見せたり、隠していくか。デザインを通して、その加減をするのが自分の仕事だと思っています。
ー そして、梅津さんが新ディレクターとなったコレクションを象徴するものが、デニムのセットアップということですね。

梅津: はい。横乗りのイメージが強いブランドが、デニムのセットアップを本気でつくったらどうなるんだろうと思ったんですよね。絶対いいものができると思ったし、ほかのブランドとは違うアプローチができるとも思いました。数年前にもデニムパンツはつくったことがあるんですが、セットアップははじめてなんです。
ー 岡山の児島で作るというのも、こだわりのひとつだったのでしょうか?
梅津: 半世紀以上もデニムを使ったモノづくりを続けている街なので、その分、スキルやノウハウも十分にあります。だからこそ、自分がやろうとしているものをカタチにできると思いましたし、ぼく自身も昔、児島に本社のあるOEMの会社で働いていたことがあって、その繋がりもあり実現しました。

梅津: あくまで個人的な感覚ですけど、日本には織物が盛んな地域がいろいろありますが、児島はアメリカっぽい服がつくれる環境があるのかなと思っています。例えば東北は繊細なモノづくりができる一方で、児島はちゃんと隙があって無骨に仕上がるようなイメージです。
ー ありがとうございます。では、デニムのこだわりについても聞かせてください。
梅津: とにかく細部までこだわりました。均一にパッカリングが出るよう、ジャケットもパンツも共通してステッチの幅は運針まで指定しています。縫製には数種類の巻き縫いミシンを使わせてもらいました。
ー ジャケットはいかがですか?

梅津: 背中のTバックは、1940年代〜1960年代前後のGジャンに見られる特徴のひとつで、〈リーバイス〉のファーストタイプのディテールなんです。ただ、ぼくらは〈リーバイス〉のセカンドタイプをベースに落とし込みました。なおかつ、本来であれば高い位置に付けられるポケットも、少し下げてチェストポケットの代わりに使えるようにしています。
ショーツとの相性も考えて、シルエットは身幅を広く、着丈も絶妙な長さに調整しました。後ろのシンチバックを絞ってもらえばバルーンシルエットになるので、2wayで着用できます。
ー ショーツに合わせることを想定しているあたりに、サーフの要素を感じます。パンツはいかがでしょうか?
梅津: パンツは、強度を保つため、ヒップポケットの両脇に隠しリベットを打っています。こうして、できる限り細部にこだわりたかった。手間のかかった縫製は、児島の熟練の職人さんとミシンがあってこそなんです。ネオバ釦とリベットもオリジナルで作っています。
ー シルエットも特徴的ですよね。

梅津: パンツに関しては一見すると太いんですけど、履いてみると、ウエストはジャストなのにヒップとワタリは広い。ヴィンテージだと、履きたいシルエットにするために大きいインチを選ばないといけないけれど、ぼくらのデニムは普段32インチの人は32インチを履いてもらえれば、理想のシルエットになってくれるはず。中心線も外にずらしてあって足を広げたようなパターンにしているんですよね。なので、海に紐づけるならバイクだったりビーチクルザーにも跨ぎやすい設計になっています。
ー 厚すぎず、薄すぎずのオンスもいいですよね。
梅津: 13.5オンスです。この厚さであれば通年着られますし、ストレスも感じにくいと思います。
ー 今回はカラバリが2色で、それぞれウォッシュにもこだわられていると聞きました。
梅津: 自分が持っているアーカイブを工場さんに渡して、イメージに近づけていったのですが、どちらもヒゲはつけたくなかった。かつ、今日ぼくが着ているヴィンテージウォッシュのモデルは、可能な限り本物のヴィンテージに近づけたかったので、ピンポイントでピンを打ってもらって、色落ちを細かく調整してもらったんです。あくまで自然な色落ちにしてほしいとリクエストしました。
ー デニムのセットアップはハードルが高い印象がありますが、〈マジックナンバー〉のセットアップは、色味もシルエットも現代的にチューニングされていて、気兼ねなく着られそうです。

梅津: いまだからこそ、面白いとも思うんですよね。いままでの〈マジックナンバー〉は保守的なデザインというか、色のチョイスをはじめ最大公約数を狙っていました。ただ、これからは自分のエッセンスを加えて、もう少し振り切ったものをつくれたらと思っているんです。