もともとあったレストランのイメージも頭に残っている。
ー改めてこちらのお店に来ると、ずっしりと重厚感のある店構えに今野さんらしさを感じつつ、千駄ヶ谷の「V.E.L」や、渋谷パルコにあったお店とは、また違ったムードも感じます。


今野: 自分の中でもお店に対するアイデアが凝り固まっていた感覚があったので、これまで手掛けてきたお店とはちょっと毛色を変えたいなと思ったんです。店内は無機質な雰囲気にしつつ、什器で温かみを出すようなイメージですね。ミリタリーが軸にありつつも、そのままやるとコスプレ感が強くなってしまうので、オリーブグリーンを効果的に使いながら雰囲気を出すようにしました。
今回の内装デザインは地元である千葉の仲間に助けてもらい、施工も自分のお店に初期から通ってくれている千葉の後輩にお願いしました。ただ、まだ予算や工期の関係で未完成ではありますがそこはゆっくりと改善していければと思っています。
ーたしかに、什器が目立ってますね。
今野: 敷地面積に対して置けるものが限られるので、ひとつ一つバックボーンのあるものを設置したいと思ったんです。エントランスのショーケースと、天井に吊るされている照明は渋谷にある「Hooked Vintage」さんから仕入れました。
ーどちらも素敵です。


今野: こちらのショーケースは1900~20年代のもののようで、調べたら当時は塗料メーカーで使われていたもののようでした。一部だけ改造されていて、上にバーをつけてハンギングできるようになっています。いまのように服を吊るしてもいいし、トルソーを入れるのもいいなと思って。
ーすごく落ち着きを感じます。
今野: ガラスも『ゆらゆらガラス』と呼ばれる当時のもので、すこしだけ歪みがあるんです。いまのように均一じゃないところに趣を感じますよね。やはりこうした古いものは、誰かの手によって長いあいだ大切にされてきた経緯があり現存しているわけなので、個人的にそういうものを大切に受け継いでいきたいんです。そういった想いからセンターライトもすごく古いものを吊るしています。
ーこちらはどのくらいの年代のものなんですか?


今野: これは1800年代にパテント(権利)が取られていて、内側には当時のステッカーも残っています。〈I.P.フリンク〉というミラーシェードで有名なメーカーのものですね。当時は電球の明かりも弱かったので、光量を最大限に活用するために内側が鏡張りになっていて。その雰囲気も好きですごく気に入ってます。店内が本当にソリッドなので、インテリアの中でも特にライトは気合いを入れました。
ーこちらのラックもヴィンテージなんですか?
今野: これは大阪の「H.I.D」という什器屋さんに新しくつくっていただきました。大きなショーケースと、入口の扉もそうですね。とある縁で繋がった方で、今回はじめて一緒にお仕事をさせていただいたんですが、いろんな大手のブランドやショップの什器も手掛けられているようです。


ーラックでイメージしたものはあったんですか?
今野: ハンガーラックはなるべくミニマルにしたかったんです。ただ、そこにちょっとだけ色気を出したくて、部分的にゴールドのパーツを使用してもらいました。むかしの手法を使って加工をしているんですけど、ハンガーのフックとも親和性が出ていいなと思って。「$」のマークはこのパーツにもともと入っていたものですが、げんを担いで売上につながればうれしいですね(笑)。

ー入り口の扉もつくられたということで、蛇腹式になっていますよね。
今野: なるべく間口の調整はできるようにしながらも、扉を全開にして開放的にもできるお店にしたかったんです。この通り沿いにある「ボストック」さんも入り口が開放的で、なんとなく吸い込まれるような感覚がある。だからこの店舗もお客様に気軽に入ってきて頂きたいという想いを込め開放的にしました。

今野: あとは何よりもお店を閉めた後の佇まいも大事にしたかったので、そこもイメージしながら蛇腹式の扉にしました。ここにもともとあったイタリアンレストランも閉店後の姿が本当にいい雰囲気だったんですよ。ここを通る度に気になっていて、一度だけひとに呼ばれて入ったことはあったんですけど、料理を食べたことはなくて。ただ、雰囲気が抜群によかった。そのイメージもなんとなく頭に残っているんです。それでもともとあったヴィンテージのシャッターはそのまま残して活かさせて頂きました。