4月1日(水)にグランドオープンを迎えた「大多喜有用植物苑」。もともと西洋のハーブを楽しめる植物園だった施設を再編集し、東洋の暮らしを支えてきたハーブの活用の仕方や魅力を体感できる開かれた庭としてリニューアルしています。植物苑でありながら、庭だけにとどまらず飲食やショップも充実。そもそも、有用植物って? そんな気になる千葉の新名所に行ってきました。
- Photo_Yuki Furue
- Text & Edit_Kazuki Sakaguchi
暮らしに息づく植物文化と出会う庭。
渋谷からクルマで約1時間半。アクアラインを通過しやってきたのは、千葉県夷隅郡大多喜町。ここに「大多喜有用植物苑」はあります。もともと西洋ハーブガーデンとして運営していた施設が、東洋の暮らしを支えてきた植物と出会い直す庭としてリニューアルされました。リニューアルに際して、植物のみならず食、建築、農業、染織など多方面のスペシャリストがプロジェクトメンバーとして参加し、いろんな切り口から植物の恵みを体感できる場になっています。
ちなみに有用植物とは、人々の生活に寄り添い文化として受け継がれてきた植物のこと。かつて、植生の豊かな日本や東南アジアなどの国々では、食や衣服、薬に建築、道具など、生活のほとんどを植物で賄っていました。この施設での体験を通して、身近な植物の活用の仕方を知りその魅力に気づくことで、心身が豊かになっていく。そんな自然と暮らしが一体となった景色を取り戻すことを目指しています。
植物苑というからには欠かせないのが、植物を鑑賞する庭。内庭、外庭、公園の3つのエリアで構成される庭には、日本を中心に東アジア・東南アジアなど照葉樹林帯が広がる地域の植物が植えられています。日本に自生するものだけに限定しなかったのは、国という人間が定めた境界ではなく、気候や植生といった自然界の区分に則りたいという想いがあったから。実際に、東アジア・東南アジア諸国の間には、植物との関わり方に多くの共通点が見られるんだそう。
高床リビング
ここでは、取材時に完成していた内庭をご紹介。内庭は、香り、建材、スパイス・薬、果樹、食用、クラフトというように生活への取り入れ方で分類された6つのゾーンに分かれています。腰をかけてゆっくりと植物を鑑賞できる「高床リビング」の周りには、シュロチク、マキなど、風を遮ったり、建築材や器具材として利用されてきた植物を配置。今後ライブイベントを開催する際には、ステージとしても活用予定だそう。植物苑で音楽を楽しめるなんて聞いただけでワクワクします。
地中リビング
続いて見えてくる「地中リビング」は、地面より低い位置に身を置くことで大地に包み込まれるような感覚のなかで植物を見上げることができるスペース。普段と視点を変えることで、植物の新たな一面が見えるかもしれません。周りには、お茶や湿布など民間薬として使われてきたビワや、疲労回復効果があるとされている龍眼など、日々を整えるためにハーブやスパイスとして利用されてきた植物が植えられています。
軒下リビング
そして、隣町・いすみ市の竹で設えた屋根付きベンチ「軒下リビング」からは外庭が望めます。強い日差しが降り注ぐ夏でもここなら快適。カフェで買ったドリンクを飲みながらゆっくりするのもよさそうです。周りには、柑橘のタチバナや花を乾かしてお茶として飲む金花茶など、味覚で楽しめる植物が集合。このように座れる場所が多いから、植物に囲まれて憩いの時間を過ごすことができます。
一般的な植物園と違い、あえて各植物に大きなネームプレートを付けていないのも「大多喜有用植物苑」の特徴。それは、五感を通して、いい匂いだな、花が綺麗だな、実がなってる!など直感的に楽しんでもらうことを目的としているから。どうしても植物名や詳細を知りたいという好奇心旺盛な方もご安心を。そんな方のために、web図鑑が用意されています。
土から身体へ、大多喜で循環するハーブ。
自然光が差し込むこちらの広々としたスペースはカフェ&レストラン。フードやドリンクには苑内で採れた四季の有用植物が取り入れられ、味覚を通じて植物の恵みを感じられます。フードのメニューは、「マルタ(Maruta)」の元ヘッドシェフを務め、薪火と発酵を軸に森を食べる料理を探究する料理人・石松一樹氏が監修。庭だけでなく飲食にもかなり力が入っています。
烏山椒の野草カレー ¥1650
取材日にいただいたのは、烏山椒の野草カレー。烏山椒とはココナッツのような香りが特徴の山椒の仲間です。他にも、苑内で採れたコリアンダーやルッコラ、レモングラスに月桃などのハーブを使用。食材はフレッシュな方がおいしいし、フードマイレージも削減できていいこと尽くしの地産地消な一皿です。
ドリンクメニューには、創作ノンアルコールや、「ローシュガーロースト(Raw Sugar Roast)」によるコーヒー系のメニュー、ハーブティーにジュースまで幅広いドリンクがラインナップ。立地上クルマでくる方が多いはずなので、ノンアルコールメニューが充実しているのはうれしいポイントです。
庭だけでなく、内装、インテリアの素材も東アジアの植物にこだわっています。食堂の中心に置かれた象徴的なロングテーブルは、建築デザイン事務所「suha」がインドネシアのバリ島で製作したもの。アジア各国から選び抜いた竹を、金属は使用せず土の左官と竹のビスで固定しています。中央の穴にはその日の朝に採れた植物を活けて、テーブルに彩りをプラス。
ソファに使用されているファブリックは廃棄となる木の皮で草木染め。クッションは藍で染めるなど、植物をとことん活用した施設となっています。
有用植物のお裾分け。
普段は行かないエリアへお出かけしたら、お土産を買いたくなるのがひとの性。庭やカフェレストランをゆっくり楽しんだあとはショッピングの時間です。広々としたショップには、観葉植物をはじめ、調味料やアロマなどの有用植物を原料にしたアイテムからセレクトの生活雑貨まで、数多くのアイテムがラインナップ。有用植物のお裾分けをコンセプトに掲げ、苑内で五感を通して気付いた植物の恵みを日常に持って帰れる場所となっています。
なかでも気になったのが、苑内の調香室での研究をもとに誕生した香りのブランド〈OHG Scent Research〉によるプロダクト。クラフトジン〈ホロン(HOLON)〉を手掛ける蒸留家の堀江麗さんディレクションのもと、苑内で展示する季節の植物を使用し嗜好品としての香りを追求しています。現在は、ボタニカルティー、お香、ルームスプレー、ディフューザーの4アイテムを展開。今年は色と香りの関係をテーマに掲げ、緑、白、赤の3種の香りが用意されています。
首都圏からであれば日帰りで非日常を味わえる「大多喜有用植物苑」。週末やゴールデンウィークのお出かけに、ぜひ足を運んではいかがでしょうか。外庭にはドッグランも用意されているので犬連れの方も安心です。

