こだわりの音響から流れる音楽を大音量で聴きたい。でも、クラブはちょっとハード。もっとカジュアルに落ち着いた環境で音に身を委ねたいし、会話もお酒も楽しみたい。そんないまの気分にぴったりなのがレコードバー。ストリーミングサービスでいくらでも音楽を聴ける時代だけれど、やっぱりレコードは音がいいし、ジャケットのデザインや盤面に針を落とす仕草など、アナログだからこその魅力が詰まっている。本連載では、ぼくらが気になるレコードバーにお邪魔し、その店の個性や魅力を紐解きます。第一回目は「Kompakt Record Bar(以下、KRB)TOKYO」。
- Photo_Mikito Hyakuno
- Text_JAY
- Edit_Kazuki Sakaguchi
PROFILE
韓国・ソウル発のミュージックバー「Kompakt Record Bar」のオーナー兼グラフィックデザイナー。韓国を代表するDJクルー「360sounds」共同創設者でもあり、ソウルのローカルDJシーンを築き上げ、東京のレコードカルチャーと密接につなぐ橋渡し役として注目を集めている。
PROFILE
『フイナム』『ガールフイナム』元編集長。現在はSKO EXTEDITを設立し、ファッション、アート、カルチャーなど幅広い分野でコンテンツの企画制作やブランディング、事業開発を手掛けている。都内を中心にDJとしても活動し、JINMOOとはDJ活動を通じて交流を深めた。
本格派だけど、気軽に立ち寄れる。
ーまずはお2人が出会ったきっかけを教えてください。
JINMOO:2018年、「KRB」のVer.1(1号店)をソウルにオープンして、その半年後にSAKUOが取材に来てくれたんです。
SAKUO:『フイナム』が発行していた雑誌『フイナム アンプラグド』で韓国特集をやったときだね。その後、コロナ禍もあってしばらく会うことはなかったんだけど、2021年に日本で再会してから仲良くなって。
JINMOO:そう、たまたま仕事で東京に来てたときに、SAKUOがDJをやっていたイベントに遊びに行きました。同い年だし、二人とも90年代からレコードを集めてたから話が合ったんだろうね。
SAKUO:それからたびたびソウルに遊びに行くようになって。すっかり「KRB」にハマってしまいました。
ー「KRB」のどんなところに魅力を感じたんですか?
SAKUO:カジュアルなDJバーって、当時は東京にもまだ多くなかったんです。もちろん良質な音響を備えたミュージックバーはあるけど、トラディショナルで敷居の高さを感じるというか。ビルの地下や上階にあって、気軽にフラッと立ち寄れるようなお店は少なかった。
JINMOO:遊ぶ場所はクラブが中心だった?
SAKUO:そうそう。でも、そればっかりだと疲れちゃう(笑)。もう少し気軽に音楽とお酒を楽しめる場所が欲しいなと思っていて。KRBは音質も選曲も良くて、だけど堅苦しくない。働いているひとたちも若くてオシャレでどこか力が抜けてる感じがすごく新鮮で。こういうお店が東京にもあればいいのになあと思ったのが、今回のプロジェクトの始まりでした。
JINMOO:もしクラシックなジャズとかをかけてたら、SAKUOは興味持ってなかったかもね。
ーそもそも、JINMOOさんはどういう経緯で「KRB」をオープンしたんですか?
JINMOO:もともとグラフィックデザイナーを本業とする傍ら、「360 Sounds」というクルーで仲間たちとパーティをしたり自分たちが着たいTシャツをつくっていました。そのなかで自然と、仲間たちと集まる場所をつくりたいと思うようになったんです。
ー店名の由来は?
JINMOO:“コンパクト”という言葉には、小さいけど中身が詰まっているという意味があって。当時見つけた物件が小さなスペースだったんです。狭いけどしっかりいい音を聴ける場所にしたいという想いを込めて、コンパクトと名付けました。
SAKUO:Kompaktの綴りにKを使ったのは?
JINMOO:ドイツでは“Compact”を“Kompakt”って書くんだよね。昔ドイツに留学してたから、そのルーツを入れてみた。
ーお二人とも互いの国を行き来していますが、それぞれに感じる違いを教えてください。
SAKUO:クラブでのお客さんの盛り上がりですね。日本だと割と落ち着いて楽しむ人が多い印象だけど、韓国ではみんなが声を上げて全力で楽しもうとしているし、DJもそういう選曲をしている印象です。僕もKRBでDJをすることがあるけど、いつもめちゃくちゃ楽しんでます。とにかく飲むっていうところは、日本も韓国も共通してるけどね。
JINMOO:僕は日本で飲むと記憶が飛びがち。〆の定番はラーメンだけど、それだけだとちょっと物足りなくて。追加でいろいろ頼んでるうちに、結局昼まで飲んでたみたいなこともある(笑)。
SAKUO:僕も韓国で飲むと常に記憶を無くしてる。明け方に食べるカムジャタンの美味さだけは、なぜか覚えてるんだけど(笑)。
JINMOO:日本に来て特に感じることは、レコード市場の成熟ぶりですね。僕はこれまで世界中のレコード店を巡り歩いてきたけど、コンディションもプライスもいいし、何より、こんなに丁寧にジャンル分けをしてくれているのは日本くらいです。
SAKUO:好きなレコード屋とかあるの?
JINMOO:大型店ももちろん好きだけど、最近ハマってるのは個人店だね。渋谷の「ココアイル・ミュージック・マーケット」や神保町の「ラバーガードレコード」では、そこでしか聞けない深い話がある。レコードの裏話とかを聞くと愛着が増すし、背景を知ることで自信を持ってプレイできるようになるからね。
ー昨今の世界的なアナログブームに対して、どう感じていますか?
SAKUO:世間一般の間ではそういう話があるかもしれないけど、僕らからするとあまり変わりはないかな。
JINMOO:20〜30年もレコードを掘ってると、アナログブームって言われるような時期はこれまでも何度かあったんです。だから「いまブームだよね」みたいな話はしないし、あまり気にしてない。
SAKUO:そうだね。アナログブームが始まっても終わっても、僕らは変わらず欲しいレコードを探し続けるだけですね。
JINMOO:もちろん、時代の変化を感じる部分はたくさんあるけどね。僕がDJを始めた90年代はUSのヒップホップにハマってたんだけど、当時の韓国ではなかなかレコードが手に入りにくかった。あの時代から考えたら、ずいぶん変わったもんだよ。
音楽好きもお酒好きも楽しめる、心地いい空間。
SAKUO:僕らはもともと夜の渋谷の住人なので、出店するなら渋谷近郊だと考えてました。ただ、ソウルのKRBは中心街から少し離れた閑静な場所にあって、大人の遊び場っていう感じだから、こっちでも渋谷ド真ん中じゃなくて少し外れたエリアで探してて。国道246号沿いの路面という絶好のスポットを見つけて、「絶対ここだ」と即決でしたね。
JINMOO:最初に聞いたときは「イケジリって?」って感じだったけどね(笑)。でもSAKUOが「ここなら間違いない」って。そこは彼の感覚を信頼していたし、実際に現地を見たときは、すごくいい場所だと思いました。
ー「ビームス」がパートナーとして関わることになったのは、どんな背景があったんでしょうか?
SAKUO:最初から、パートナーには「ビームス」しかいないって思ってました。「ビームス」とは20年以上の付き合いで、僕自身彼らのクリエイティブがすごく好きなんですよね。「KRB」の日本出店を現実的に考え始めたとき、「ビームス」なら絶対ハマるっていう直感があって。だから、思い立ったときにすぐ電話して「やろうよ」って。彼らもすごく乗り気で、積極的にいろいろな協力や提案をしてくれました。
JINMOO:僕がパートナーシップを築く上で重視しているのは、「言わなくても分かる」こと。何かをやるたびにいちいち説明が必要な相手だと、どんどんエネルギーが落ちていく。だけどSAKUOと「ビームス」チームは、初めから僕の求める方向性と意思を理解して提案してくれた。間違いなくいい場所になるという確信が持てました。
SAKUO:「KRB」のデザインと「ビームス」の編集力、双方の強みを掛け合わせられるのもメリットですね。店舗では「KRB」のインライン商品だけでなく「KRB TOKYO」限定のTシャツやグッズも販売しています。
Tシャツ 各¥7,150 手ぬぐい ¥1,980 コースター ¥1,320
※店頭のみの販売
ー店舗づくりでは、どのような点にこだわりましたか?
JINMOO:まずはスピーカー。レコードバーをやる以上やっぱり音質が第一だし、店の象徴となるようなデザイン性も不可欠だと考えて、〈オジャス(Ojas)〉と〈エヌエヌエヌエヌ(NNNN)〉「ON8 Small Club System」を選びました。クラブではなくバーなので、ローを少し弱めに設定したりと快適に過ごしてもらう工夫をしています。
JINMOO:照明は、韓国のデザイナー、イ・カンホ氏にお願いしました。僕自身彼のファンで、韓国のお店には小さな作品を置かせてもらっているのですが、この規模ははじめてです。
SAKUO:そのほかにもカーペットやスツールなどは「KRB」本店を踏襲し、デザイン性と居心地のよさを両立しています。基本は本店の空気感を丸ごと持ってこれたらと思っていたけど、「東京っぽさ」を出すことは意識しました。内装は「ランドスケーププロダクツ」に依頼したんですが、彼らが手掛けることで自然とそのニュアンスを出すことができたんじゃないかな。
JINMOO:本店ではハイスツールだけだけど、ここではロースツール、ローテーブルも置いてて、よりリラックスして過ごせるね。店内の前方と後方で天井の高さが違っていて、感じる雰囲気が変わるのもおもしろいですね。
SAKUO:DJプレイはアナログレコードに限っていて、それも本店と同じです。そう言えば、JINMOOはDJブース周りのコーナーを重視してたね。
JINMOO:ああ、それは僕からの唯一のリクエストだったかも。コーナーがあることで、DJが周囲のお客さんと会話しやすくなるからね。僕はそれをすごく大切なことだと思ってる。
ー今後、どのようなお店にしていきたいですか?
SAKUO:あまり大それたことは考えてないけど、2、3軒目でもう一杯飲みたいなっていうときに寄ってもらえるような店にしたいですね。
JINMOO:「わざわざ行く」って感じの特別な店にはなりたくないかな。なんとなく、いつもそこにあって、自然とひとが集まるような場所であってほしい。
SAKUO:平日も基本的にはDJを呼んで、レコードから流れる良質な音楽を楽しんでもらえるようにします。ジャンルを限定せず、音楽好きにもお酒好きにも幅広く楽しんでもらえる居心地のいい空間にできたら。
JINMOO:うん。さっきのアナログブームの話につながるけど、ブームが新しいお客さんの入口になるのはすごくいいと思うから、いろんなひとに来てほしい。もちろんそれに頼るだけじゃなくて、ぼくらもそのきっかけを作っていかなきゃいけないけどね。まずは「KRB TOKYO」というブランドが、東京のひとたちに広く認知されていくといいなと思ってます。
SAKUO:「ビームス」も1976年の創業時は路面店から始まって、そこから自分たちのコミュニティを広げてきたという歴史があるそうです。そんな「ビームス」の根底にある価値観を、創業50周年の節目の年に一緒に追体験することができるのは、新しい事業を一緒にやらせてもらうパートナーとしてすごくうれしいことだなと思いますね。
Kompakt Record Bar TOKYO
住所:東京都世田谷区池尻3-23-1 1F
電話:080-3400-6730
時間:19:00〜3:00(不定休)

