音を立てていい瞬間といけない瞬間。サーブの直前には数千人が息を潜め、ボールがライン際に落ちた途端一斉にどよめきが上がる。テニス観戦には、画面越しには伝わり切らない、奇妙で心地いい緊張感と解放感があります。その極致を体験しに、有明コロシアムで行われた「木下グループジャパンオープンテニスチャンピオンシップス(以下ジャパンオープン)」へ行ってきました。
- Photo_Hideaki Nagata
- Text_Jun Nakada
- Edit_Jun Nakada,Kazuki Sakaguchi
PROFILE
設計事務所「ダイケイ ミルズ(DAIKEI MILLS)」代表。商業空間や公共施設などのプロジェクトを通じ、ひとと空間の在り方について一貫し考え続けている。2020年からは都市の遊休施設を時限的に占有し一般へ解放する運動「SKWAT」を発足。多摩美術大学環境デザイン学科 非常勤講師も務める。テニス歴は13〜14年。〈ウイルソン〉の「プロスタッフ」を愛用中。
Instagram:@daikei_mills
PROFILE
代官山に店を構えるバーバー「バーバーボーイズ(BARBER BOYS)」で、理容師として活躍。自他共に認める趣味人で、なかでもヴィンテージをこよなく愛し、写真や美術にも造詣が深い。テニス歴は1年半ほどながら、その楽しさにどハマり中。アメリカのブランドという理由から、はじめて購入したラケットは偶然にも〈ウイルソン〉の「プロスタッフ」。
Instagram:@yu_shimada
買う、見る、打つ。3拍子揃ったウイルソンブース。
「ジャパンオープン」は世界中からトップ選手が集まる、日本一規模の大きな大会。その最終日、会場の有明コロシアムで待ち合わせた二人は、同じテニス好きでも観戦歴は好対照でした。
中村さんはテニス歴13〜14年。いまも週に1〜2回は練習し、実は取材の前日にもプライベートで準決勝を観戦に来ていました。2日続けて同じ大会に足を運ぶのは、取材熱心というより純粋にテニスが好きだから。一方の島田裕生さんは、はじめてまだ1年半ほど。それでも熱量はかなり高く、この日が人生初の生観戦とあって、試合前からテンションが上がっている様子。
この日の予定は、ダブルス決勝、錦織圭選手のトリビュートセレモニー、シングルス決勝。その前に〈ウイルソン〉のブースを巡る流れ。ここまで来ると取材というより、テニス好き二人の休日に編集部が便乗しているようなもの。ひとりは長くプレーしてきたひと、もうひとりはいま夢中になりはじめたひと。2つの視線があるからこそ、同じ一球も少し違って見えてきます。
ダブルス決勝の前に訪れたのは〈ウイルソン〉ブース。2人とも普段からテニスをプレーするだけに、ウェアを選ぶ眼差しは真剣。〈ウイルソン〉のウェアはクラシックなデザインだから、コート上でサマになるんです。ちなみに、2人がこの日着用しているトップスも〈ウイルソン〉のもの。日常使いのしやすさも魅力です。
隣の「KEI NISHIKORI MUSEUM」では、錦織選手のキャリアを辿る写真や、歴代のサイン入りラケットの展示が。名場面を振り返りながら、数時間後に行われる本人のトリビュートセレモニーへ向け気持ちを高めていきます。
会期中は、ブースでスポーツアパレルを購入したひとを対象に錦織選手直筆サイン入りのラケットが当たる抽選企画も実施されていました。プロのラケットについて、「市販品と同じモデルでも、選手仕様は重さや細かなセッティングが違うんです」と教えてくれた中村さん。同じ名前のラケットでも、使うひとの数だけ別の道具になる。テニス好きの話は、フレームの数ミリからでも広がっていきます。
展示を見終えたら、次は身体を動かす番。アトラクションブース「DEFYER SNIPER」は、新作ラケット「DEFYER」でターゲットを狙う的当てゲーム。チャンスは5球。ホルガ・ルーネやカレン・ハチャノフらトップ選手が信頼を寄せるラケットを2人が握ります。
あっという間の5球。調子をつかんだ頃にはもう終了といった具合に、島田さんも中村さんもフォームからして本気でしたが、残念ながら景品には届かず……。
ラリーの速さと、静けさの理由。
そうこうしているうちに、ダブルス決勝が幕を開けます。第4シードのオースティン・クライチェック/ニコラ・メクティッチ組を、第2シードのテオ・アリバージュ/アルバノ・オリベッティが迎え打つ好カード。互いに一進一退の攻防を見せ、勝負の行方は10点先取のマッチタイブレークへ。最後はクライチェック/メクティッチ組が制し優勝を決めました。
ダブルスは反応するまでの時間がとにかく短く、速いサーブが返ったと思えば、次の一球はすでにボレーで叩かれていたりする。中村さんは「近年のレベルの高さは異常ですね。数年前までは、こんなスピードでラリーが続く感じではありませんでした」と驚いた様子。初観戦の島田さんは、ダブルスの最終セットが通常のゲームではなく、10点先取のマッチタイブレークで行われることをここで知ったそう。新たな発見があるのも、実際にプロの試合に足を運ぶおもしろさのひとつです。
ダブルス決勝の余韻が残るなか、午後4時30分から錦織圭選手のトリビュートセレモニーがスタート。キャリアを振り返る映像、長く師事したマイケル・チャン氏からの言葉、ロジャー・フェデラーやノバク・ジョコビッチらレジェンドから届いたビデオメッセージが、コロシアムの大きなスクリーンに映し出されました。
「いかに錦織選手が愛されてきたかが、ものすごく伝わりました。マイケル・チャンさんの言葉も映像も、本当によかったです。」と島田さんは振り返ります。会場には目を潤ませるひとも多く、島田さんも「もらい泣きしそうでした。」と素直にこぼしました。
最後はお待ちかねのシングルス決勝。昨年度王者のカルロス・アルカラスと、安定感を武器に着々と存在感を高める次世代の注目株イジー・レヘチカによる一戦です。レヘチカが握るのは、中村さんと島田さんも愛用する〈ウイルソン〉のラケット「PRO STAFF」。ラケットだけでなく、ウェアからシューズまで全身〈ウイルソン〉のアイテムを着用しています。
肝心の試合は、第1セットは互いに譲らず、タイブレークへ。アルカラスは2-4とリードされたところから5ポイントを連取し、セットをものにしました。第2セットは3-3からアルカラスがブレーク。レヘチカも強打で食らいつきましたが、アルカラスが7-6(4)、6-4で勝利し、大会連覇を果たしました。
スコアだけを見ればストレート。けれど両者の印象は僅差でした。中村さんが注目したのは、アルカラスの緩急。高速のラリーの途中でドロップショットを落とし、あえて柔らかくクロスへ運んだ次の球を、一気に加速させます。
「いざというときにひとを魅了するプレーが出せる。それはアルカラスもレへチカも同じですが、今回はアルカラスが顕著だった印象。会場の空気もだんだんアルカラス寄りになっていきました。そこも含めて、実力なんでしょうね。」
「他のスポーツって、もっと声を出し続ける感じがありますけど、テニスは一球ごとに静かに見守りますよね。その緊張感もテニス観戦の魅力のひとつではないでしょうか。」と中村さんは振り返ります。
初観戦ながら濃厚な一日を過ごした島田さんは「ダブルスも見応えがありましたが、シングルスは躍動感も雰囲気も全然違いました。はじめて観ましたが、めちゃくちゃ面白かったです。」と興奮を隠せない様子。「面白かった」というシンプルな感想と満足げな表情にすべてが詰まっていました。
プロの試合を見たからといって、翌日から打球が急に速くなるわけではありません。でも、何かしら自分のテニスに取り入れられる気づきはあったはず。次にコートへ立ったとき、きっと今日見た何かを試したくなるはず。2人のテニスライフはまだまだ続きます。

