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小さなパーツがもたらす大きな前進。 10 アイヴァンが変えてしまったアイウェア界の常識。

「着る眼鏡」をコンセプトに、1972年、日本ではじめてのファッションアイウェア・ブランドとして生まれた〈アイヴァン(EYEVAN)〉。長い軌跡の中でその品質とデザインが評価され、アメリカの〈オリバーピープルズ〉とのライセンス契約を交わしたり、数々のセレブリティたちに愛用されるなど、輝かしい歴史を残してきました。

2017年にこのブランドから誕生した〈10 アイヴァン(10 eyevan)〉は、「美しい道具」をコンセプトにつくられるまったく新しいアプローチのアイウェアです。特徴的なのはそのパーツ。デザイナーの中川浩孝さんが、長年アイウェアのデザインに携わる上で、”こうだったらいいのに”というアイデアをひとつひとつ丁寧にアップデートしていった結果、10個に及ぶ特別なパーツが生まれました。そのパーツを用いることで、従来とは異なるアイウェアができあがったのです。

見た目はシンプルなメガネ。では一体、どんなところが変わったのでしょう? デザイナーの中川さんに教えてもらいました。

PROFILE

中川浩孝
10 eyevan デザイナー

機械工具業界にてキャリアをスタートし、のちにメガネ業界へ。はじめはショップにて経験を積み、その後自身のブランドの立ち上げを経験。3年ほどブランド運営をおこなったあと、株式会社アイヴァンに入社しデザイナーとして活躍中。

パーツを見直すことによって生まれた機能とデザイン。

ー〈10 アイヴァン〉のスタートの経緯を教えてください。

中川:ぼくはもともと〈アイヴァン 7285〉というメインコレクションのデザインを担当していたのですが、ずっと仕事をしてきた中で、いままでなかったパーツを思いついて、そのアイデアがどんどん溜まっていったんです。

ーそれが〈10 アイヴァン〉のアイテムに使われている10個のパーツのことですね。

驚くほど可憐で繊細なデザインのアイテム。言わずもがな非常に軽いのも特徴。

中川:そうです。その一方で、福井の鯖江で熟練した技術を持つ職人の方々と出会ったりもしました。そうして思い描いていたアイデアを実現できる環境が徐々に整っていきました。

ーなるほど。

中川:たとえば、ひとつ象徴を挙げるとしたらネジです。〈10 アイヴァン〉に使われているのは“トルクスネジ”といってiPhoneやバイクにも使われている星型のネジなんです。

ー普通のネジとどこが違うんですか?

中川:ネジ業界では締めやすくて緩みにくいネジとして有名です。この星型のネジ穴がドライバーとフィットして、少しの力でギュッと締まるんです。一方で螺旋状になったエラの部分はOSロックといって緩みにくい構造になっているのも特徴です。実際にアイウェアってネジが緩むたびに締めなおさないといけないんですが、その回数が圧倒的に減ります。

ーいままでそうしたネジはなかったんですか?

中川:あったんですが、素材がステンレスでした。今回ぼくたちがつくったのは、βチタンと呼ばれる強度のある素材なんです。というのも、あまりにも締まりやすい構造なので、すこし力を入れただけでネジの頭が耐えきれずに飛んでしまうんです。では、なぜ過去にこうしたネジをつくらなかったかというと、単純につくるのが難しいというのが理由。サイズが小さい上につくるとなるとコストもかかりますし、そこまでする必要性を感じていなかったんでしょうね。

ー締めなおしの回数が減る他になにかメリットはあるんですか?

中川:アイウェアの品質を判断する基準のひとつに、”あがき”と呼ばれる動作があります。これはテンプルを開けたり閉じたりしたときの滑らかさのことなんですが、このネジを採用したことによって”あがき”がすごくスムーズになるんです。通常のネジだとひっかかりを感じたり、金属が擦れている感覚があると思うんですが、擦れているということはネジが緩みやすく、浮いてきやすいということ。そうすると顔にかけたときのバランスが悪くなったり、妙な違和感が生まれたりします。〈10 アイヴァン〉ではその問題をクリアしているんです。

専用のドライバーをはめると、凹凸がしっかりとはまり合う感覚がある。力学的な計算に基づいてこの形になっているのだとか。

中川:それともうひとつメリットがあります。このトルクスネジの締めやすくて緩みにくいという特徴から、通常のネジよりもレングスが短くて済むんです。ネジが使われるのは”智(ヨロイ)”と呼ばれる部位で、フレームのフロントとテンプルを繋いでいる部分のことですね。ネジが短いぶん、この智も厚みを抑えることができます。要するにフレームのデザインにも影響するんですよ。

ーなるほど。よりミニマルなデザインが可能になると。

智の厚みが抑えられたぶん、ブリッジも同じように繊細なつくりに。とはいえそれだけでは強度に問題があるため、前後で二重にしてカバーしている。

中川:通常、智とブリッジの厚みは同じくらいに設定するのが定説です。なので、すごく繊細で華奢なデザインを実現することができました。実はフレームもチタンでつくっているので、柔軟性があって強度の問題もカバーしています。

ーネジ以外にも特徴的なパーツはありますか?

真珠貝といえば、服のボタンにも使われる素材。このパッドは奈良のボタン工場でつくられている。

中川:鼻に当たるパッドの部分は真珠貝を使っています。実際に使うとすごく心地いいんですよ、きめ細かくて。ただひとつだけデメリットがあって、カルシウムなので使っているうちにすり減っていくんです。使いやすくて壊れない道具という風につくっていたら、化学繊維のものをここにつけるんですが、あくまでも”美しい道具”というテーマにこだわって、使ってて心地いいものを選んでます。

特許申請したが故に専用の工具も同時につくったそう。卸先に置いてあるほか、お客さんが自分でメンテナンスできるように販売用のものも用意。

ーすり減ったあとはどうすればいいんですか?

中川:交換できるようにしています。このパッドごと取り外せるようになっているんです。その留め具は特許を取っています。

ーこちらのアイテムはフレームがないように見えますね。

アイウェアもファッションと同じく1年に2回新作を発表するが、〈10 eyevan〉に関しては「いいものができたら発表する」と中川さん。焦らずじっくり納得のいくまでつくり込んでいるのがわかる。

中川:そうなんです。智がコの字状になっていて、レンズを前後から挟んで留めるような設計になっています。この智はレンズの厚みに合わせてスライドするようになっているので、どんな度数のメガネでも対応が可能です。これもトルクスネジがあってこそのデザインなんです。

こだわりを実現するために細部も徹底的にこだわる。

ー今回、〈10 アイヴァン〉のラインナップにセルフレームのアイテムも加わったんですよね。

左上から時計回りに〈10 eyevan〉No.3III、No.5III、No.3III、No.7III、No.3III、No.7III 各¥58,000+TAX

〈10 eyevan〉No.5III COL.1005S ¥58,000+TAX

〈10 eyevan〉No.5III COL.1001S ¥58,000+TAX

〈10 eyevan〉No.7III COL.1000S ¥58,000+TAX/CLIP ¥28,000+TAX

中川:そうなんです。もともとプラスチックのフレームを〈10 アイヴァン〉でやりたいという思いがあったんですが、デッドストックのいい生地がなかなか見つからなかったんですよ。

ーやはり、生地にもこだわりがあると。

中川:セルフレームってよく聞くと思うんですが、いま流通しているほとんどの生地はアセテートが使われています。セルロイドは1850年くらいにイギリス人がつくった世界最古のプラスチックで、原料がニトロセルロースと樟脳(しょうのう)というふたつからできていて、どちらも植物から採れるんですね。だから天然由来で土に還るし、すごくきめ細かくて肌触りがいい。服の繊維でたとえるならシルクのような感じです。

写真の板でだいたいアイウェアひとつぶん。今回、タタミ1畳ほどある大きさのデッドストックの板が何十枚も出てきたそう。

ーどうしてアセテートがいま主流なんですか?

中川:ニトロセルロースの取り扱いが難しいからです。これは火薬の材料なんですよ。火花とかで火災が起こったりしてしまうので、工場で扱いづらい。だからアセテートに移行してしまったんです。いまでも極限られた工場でセルロイドはつくられているんですが、品質を安定させるためにできあがったあとに寝かさなければなりません。だからいい生地に巡り会えるのを待っていたんです。

ーそれで今回納得のいくデッドストックの生地が見つかったわけですね。

中川:はい、いろんな人に声をかけ続けて、ようやく見つけることができました。

ーデザインに関してはどんなことを意識されたんですか?

中川:ネジと真珠貝のパッドはこちらでも使用しています。あと、蝶番もポイントですね。通常プラスチックのフレームには合金の蝶番が使われるんですが、βチタンとの相性が悪いんです。

ー強度が異なるからですか?

中川:その通りです。だからこうした細かな蝶番もチタンでつくりました。なので、セルフレームでもスムーズな”あがき”が実現しています。こうしてただ単にデッドストックのセルロイドを使うだけじゃなくて、細かなところもこだわってつくっています。

新しいことに挑戦しないと技術が古くなってしまう。

ー先ほど「アイデアを実現できる環境が整った」というお話がありました。〈10 アイヴァン〉の製造過程のほとんどが福井県鯖江市でつくられていると思うんですが、鯖江のメガネといえば分業制が有名です。つまりそれは、それぞれのパーツづくりや生産過程に、その道のスペシャリストや職人たちがいたということですか?

中川:そうですね。分業制とはいえ、生産をまとめる大元のメーカーがあって、そこからさまざまな工場へ部品の発注がいくというのがざっくりとしたシステムです。でも、今回ぼくらがやったのは、それぞれの部品工場へ直接掛け合うことでした。

ー足を動かしたわけですね。

中川:メーカーに「貝のパッドをつくりたい」と相談しても、「そんなの無理だよ」と言われて終わりなんです。わざわざぼくらのためだけにそんなことをやるなんて効率が悪いですから。でも発想を逆転すれば、ぼくらがパーツをつくって「これを使ってください」って頼んだらやってくれるんです。ぼくらは小売も含めるともう長いあいだアイウェア業界にいます。そうした実績も後押ししてくれましたね。

「ぼくが“かっこいい”と思うものは、ちゃんと理由があるものなんです」と語る中川さん。ミリタリーウェアのように必要性のあるディテールやデザインに惹かれるという。ある意味、〈10 アイヴァン〉もそれと同じ感覚でつくられているといえる。

ーパーツをつくるときに職人さんたちはどんな反応だったんですか?

中川:だいたい嫌がられましたね(笑)。失敗したら不良品になっちゃうので、いままでの実績のあるやり方を薦めてきますよ。でも、「ぼくらはこれがやりたいんです」と何度も説明しました。長く付き合いがある方々だったので、ぼくのキャラもわかってくれて、仕方ないなぁという感じで最終的にやってくれたんですが。でも、職人たちも挑戦しているうちにだんだんと楽しんでいるようでした。これが成功すれば工場も技術が向上するし、他の仕事にも応用できる。新しいことに挑戦しないと技術が古くなって発注がこなくなってしまう懸念もあります。そういう意味では絶対にやったほうがいいという話はしました。

つくって終わりではなく、ひとつひとつのモデルを大事に。

ー〈10 アイヴァン〉を手に取るお客さんにどんなことを感じ取って欲しいですか?

中川:〈10 アイヴァン〉は、決して見た目にインパクトあるアイウェアではありません。でも、実際に使ってみるといままでとの違いを実感できるはずです。実際にぼくもセルフレームのメガネをここ1ヶ月くらい使っているのですが、天然素材の心地よさと、現代のテクノロジーでないとできない使い勝手のよさを実感しています。そうした従来のアイウェアとの違いを知って欲しいですね。

ー最後に今後の〈10 アイヴァン〉の目標について教えてください。

中川:老舗のシューズメーカーには木型と呼ばれる靴をつくるための型がたくさん残っています。これは立ち上げの頃から思っていることなんですが、ぼくら〈10 アイヴァン〉もそれと同じように、つくって終わりではなくひとつひとつのモデルを大事にしていきたいと考えています。たとえば同じモデルでも、素材違いでつくったりとか、デザインをアレンジして新しいモデルをつくったりとか、そうして少しずつ自分たちのやりたいことを広げていきたいですね。どうしてもこれをやろうという気負いはないんです。あくまで自分たちのペースで。それが〈10 アイヴァン〉が目指す方向です。どの業界にも常識というものが存在しますが、〈10 アイヴァン〉が実現したのは、その常識の枠からはずれて新たな枠組みをつくることでした。とはいえ、それはこれまで培ってきた経験と実績があるからこそ成せるものなのだと思います。

今回の話にあったセルフレームのアイウェアは、大阪と東京にある「アイヴァン 7285 フラッグシップ ストア」にて12月7日(土)より先行発売。青山の骨董通りにある「アイヴァン 7285 トウキョウ」では、先行発売日の12月7,8日の2日間、中川さんが店頭に立って接客にあたるそうです。ぜひ、従来のアイウェアとの違いを堪能しに足を運んでみてください。

Photo_Shinji Serizawa
Text_Yuichiro Tsuji

INFORMATION

EYEVAN 7285 TOKYO

住所:東京都港区南青山5-16-2
電話:03-3409-7285
時間:11:00~20:00(火曜定休)
http://10eyevan.com

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