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【STAY HOME】ブレクジットに続く、新型コロナウイルス。転換期を迎えるロンドンの今。

今年2月1日、EUを離脱したイギリス。ブレクジット直後、この国を襲ったのは新型コロナウイルスでした。死者数は増え続け、このまま推移するとイタリアを抜く可能性もあるといいます。その中で気になったのはポップカルチャーの中心地、ロンドン。以前報告したパリ同様、街はロックダウンされていますが、その詳しい様子はこちらに伝わってきません。そこで今回は、現地でファッションコンサルタント、エディターとして活躍し、フイナムのブロガーも務める日野達雄さんにリポートをお願いしました。話を聞くと意外にもさまざまなメディアやソーシャルによる新しい取り組みがはじまっているとか。この非常事態の中で人々の求めているものが見えてきました。

“STAY HOME, STAY CREATIVE” コロナ禍のクリエイティブマインド。

3月23日の英政府のロックダウン宣言から数週間が経ちました。国民が意識的にひとと接触する機会の制限し、対人の距離=ソーシャルディスタンスを保つことで、感染ピークを最小限に抑える政策の効果は、4月19日現在少しずつ現れています。外出が許されるのは食料品の買い物、通院、ジョギング等のエクセサイズ、自宅勤務できない場合の通勤のみ。外出時はソーシャルディスタンスが適応される他、居住を共にしない家族や友人と会うこと(2名以上の集まり)は禁止で、基本的に自宅近辺での行動を原則としたルールになっています。正当な理由がない外出は警察による罰金刑もあり得ます。

一方、毎日17時から「BBC」で政府官邸特別記者会見が放映され、そこで現状や展望について発表されています。疫学の権威で知られる「インペリアル・カレッジ・ロンドン」の推測によると、政府の介入がなければ(何もしなければ)感染者は50万人に及ぶ予想もあり、3月末の時点では厳格な方針を執ることで死者数を2万人以下に抑えることができたら上出来という報道が出ました。

外出禁令例の必要性を説いた、首相官邸から自宅に届いた手紙。すべての世帯に郵送されたと思われる。

英国には「NHS(国民医療制度)」があります。“ゆりかごから墓場まで” という言葉をご存知の方は多いと思いますが、第二次世界大戦後のイギリス二大政党の現野党、労働党が掲げた社会保障政策のスローガンで、国民全体が無料で医療サービスが受けられる制度です。だが、長年の緊縮経済の煽りを受けたこともあり、現在はこのような非常事態に対応できるだけのキャパが無いのが実情です。

英政府はコロナ感染者に対応できる病床数が足りず、ビジネスコンファレンスセンター大型施設「エクセルセンター」を患者数最大4千人が収容可能な集中治療室(ICU)を設けた緊急病院「NHSナイチンゲール病院」に変えました。1日200人の軍隊を派遣して9日間で工事を行い、4月3日には稼働させたのです。その時、多くの国民がこの未曾有の事態の大きさを初めて実感しました。

今日現在で、感染者数は12万人強、死者数は1万6千人強です。3月末の死者数が約2千人だったので、コロナの感染スピードの早さが分かります。生活に不可欠なサービスを提供するスーパーマーケット、食料品店、薬局、オフライセンスなど以外のショップは閉店状態であり、2線以上乗り入れていない地下鉄40駅も閉鎖、バスと同様に間引き運行が行われています。ロンドンの交通機関は、キーワーカーというカテゴリーに入る「NHS」に勤務する医者や看護師、食料関係の業務、ロジスティック・配送業務、清掃業務に携わる人々、またそういった人たちの子供を受け入れるために一部の学校が開いており、そこで教鞭を執る先生などのための交通手段のひとつとして最低限残っている状態です。大まかな社会の動きはこれが現状です。

実際にどうかというと、1日1回外出すると基本的に買い物に行く人かエクセサイズを行う人、デリバリー業者の姿しか見ない。ロックダウンの当初は、極度のパニック状態でスーパーマーケットの棚から食料品やトイレットペーパーが無くなりましたが、いまは少しずつ平常に戻りつつあります。しかし、まだ部分的に空の棚がある状況も続いています。どのスーパーマーケットも開店からの1時間を70歳以上の高齢者を優先的に買い物できるようにしていて、多くの八百屋や食材の個人商店では医療を支える「NHS」スタッフには特別ディスカウントを設けることで感謝と敬意の意を伝える自主的な取り組みを行なっています。

薬局やスーパーに入るには、まず入り口前の列に並ぶ必要がある。待っている間、前や後ろの人と2メートルの距離を維持する(地面に2メートル間隔でテープが貼られている)。買い物客が店内から一人出たら、一人店内に入る。

スーパーのショッピングルール。(1)1世帯から大人1名のみ入店可。(2)カードでの支払い。(3)体調不良の場合は入店拒否。(4)店内でも2メートル間隔の保持が必要。

個人経営のデリのショッピングルール。(1)常に店内の客の数は3名。(2)1世帯から大人1名のみ入店可。(3)入り口横の消毒液を使用してから入店。(4)カード決済のみ。(5)購入する商品のみ触ることが可能。(6)店内の赤いテープに沿って2メートル間隔を保つこと。

英国のGDPは一時期的に15パーセントほど縮小する報道も出ています。外出禁止令で営業できなくなり、従業員を解雇せざるを得ない企業、リテールや飲食店への補償は、中小企業向けの無担保融資制度や事業税の免除などが発表されました。営業停止に伴い、従業員を解雇することでしか凌げない会社には従業員をつなぎとめるため、コロナ後の経済のいち早い回復を目指して、国が従業員の80パーセントの給与を(色々な諸条件はあるのだが)3月1日〜6月30日までの4ヶ月間分、雇用主に補償する制度も用意されています。自営業やフリーランスは当初除外されていましたが、同制度が適応されることになりました。

この制度の発表とその決断へのスピードは早かった。簡単にいうと従業員の一時解雇を行い、6月末に再雇用をするという流れになるため、その勧告を受けた従業員はその間、勤務してはいけない決まり。つまり仕事してはいけないということ。毎日、昼間からジョギングやエクセサイズをしている若者が増えているのも、このスキームを適応している会社が多いからかもしれません。

公園に掲示されたジョギングをする人への警告。(1)左側通行。(2)2メートルのソーシャルディスタンス。(3)集団でのジョギングの禁止。(4)無理な追い越しは禁止。(5)唾を吐くことの禁止。(6)他人により配慮すること。

4月16日の政府の会見で、ロックダウンの最低3週間延長が発表されました。長引くことでネガティブ思考に陥いりやすいが、クリエイティブにこの事態を乗り超えようとお互いを励ます取り組みがソーシャルやオンライン上で展開されています。例えば、『DAZED & CONFUSED』を含めた数社の出版社は書店の営業停止もあり、読者が雑誌をオンライン上でしかオーダーできない状況を加味して丸ごと一冊デジタルイシューとしてダウンロードできるようにスタート。また、カルチャーを根底にしたビジネス誌『COURIER MAGAZINE』はコロナの影響を受ける中小企業に対するアドバイスや知識を提供するデイリーポッドキャストをはじめるなど、状況に適応しながら読者へのポジティブな還元を行っています。音楽のストリーミングサービス「BOILER ROOM」がホストとなり5月18日まで開催されているオンラインフィルムフェスティバル「THE 4:3 ONLINE FILM FESTIVAL」、「英国王立美術館」のオンラインバーチャルツアー「Picasso & Paper」など自宅で楽しめるコンテンツもそのひとつ。4月19日、「BBC」で放送されたオンラインチャリティライブ「TOGETHER AT HOME」では著名なミュージシャンがグローバル規模で結束する必要性を訴え、ひと時のエンターテイメントが楽しめるコンテンツを発表しました。サバイバル=クリエイティブがイギリスの縮図でもあります。

通常はレストランの「Brunswick East」。今はテイクアウト専門のベイカリーであり、八百屋であり、ワインショップだ。インディペンデントレストランならではの動きで、個人経営レベルのレストラン用の仕入れを活用してそのままオーバーカウンターショップとして運営している。

センスがよくて美味しいレストラン・ワインショップ「TOPCUVEE」。今はハンドメイドパスタやワインをデリバリーするショップに早替わり。その名前が「TOPSHOP」というのも微笑ましい。

“コロナ危機” は、人類へのレッスンかもしれません。国籍、人種、宗教など関係無くどの人間にも脅威を与えるパンデミックであり、結果として残念なことに国際間協力の衰退、大国間の対立などポピュリズム政治による国際問題をより顕著化させました。他方で、ソーシャルディスタンスにより、自分以外のひととのコミュニケーションの欠落で、我々はこれまで以上に親密な関係を持とうとしています。

毎週木曜20時から生死をかけて国を支えている「NHS」スタッフに敬意を込めて国民が家の軒先で拍手をする。近所の人や友人と連絡を取り合い、お互いを励まし、助け、食材を購入して家の軒先にそっと置いていく。休校によって子供の家庭学習とテレワークを両立させる親たち。定年した元「NHS」の医者や看護師がボランティアとして現場に復帰したり、医学を志す大学生が就職を前にボランティアとして医療の現場を手伝う。そして、この未曾有の事態にロンドンという大都市を動かしているキーワーカーたちへ個々が伝えたい感謝の気持ち。まさに、イノベーションを推進し、起業家が築いてきた都市生活を啓蒙し過ぎたことで、生活に根ざすべきコミュニティの大切さが忘れ去られてしまった。皮肉にも今それが最も必要とされています。

「TEDTalks」にアップされたインタビューの中でビル・ゲイツ氏は、今後の経済に関する質問に対して「お金はいずれ戻ってくるが、亡くなった人は戻ってこない」とコメントを残しました。人への配慮=ソーシャルディスタンス。それがコロナを乗り越える近道なのかもしれません。


窓に飾られた「NHS」への感謝を示す手書きのポスター。レインボーがモチーフになったデザインで街のありとあらゆる所で見受けられる。

PROFILE

TATSUO HINO
メディア / ファッションコンサルタント

英『DAZED & CONFUSED』誌出身で、現在音楽、ファッション、フード、写真とさまざまなジャンルのコンサルティング業務に携わる。英『Courier Magazine』Editor-at-Largeを兼務している。
Instagram:@tatsuo_london
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