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細井美裕と白濱イズミと。2人のアーティストが話す、”違和感”の必要性。 

細井美裕『Lenna』2019年
Photo_KIOKU Keizo
Photo Courtesy_NTT InterCommunication Center [ICC]

9/19(土)〜27日(日)までの9日間、東京・お台場にある日本科学未来館で開催されている「文化庁メディア芸術祭」。アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門において優れた作品を表彰するとともに、受賞作品の鑑賞機会を提供するメディア芸術の総合フェスティバルとなります。第23回となる今年は、世界107の国と地域から3,566点に及ぶ作品の応募があり、多様化する現代の表現を見据える国際的なフェスティバルと成長を続けています。

そんななか行われたのは、「文化庁メディア芸術祭」第23回 アート部門において、サウンド・インスタレーション作品「Lenna」で新人賞を受賞された細井美裕さんと、ラブリとして雑誌、TV、ラジオ、広告などメディアで活動する一方で、詩や朗読、執筆、音楽、など形に捉われずに様々な展示方法を使いながら“言葉”の活動している白濱イズミさんとのリモート対談。初対面であるにも関わらず、いくつもの感性が重なり合った2人の対談の模様をお届けします。

PROFILE

細井美裕
アーティスト

1993年愛知県生まれ。高校時代合唱をきっかけに現代音楽に触れ始め、慶應義塾大学在学中からヴォイス・プレイヤーとして数々の楽曲、ライヴ、サウンド・インスタレーションに参加。また音楽家としてのバックグラウンドを活かした企画で、ミュージシャンとテクノロジストとの橋渡しを行ないながら、舞台演出などユニークなコンテンツを生み出している。22.2ch作品「Lenna」を含む自身の発する声のみで制作した自身初のフルアルバム『Orb』を2019年6月にリリース。
同年11月には山口情報芸術センター[YCAM]にて細井美裕+石若駿+YCAM新作コンサートピース「Sound Mine」を発表。

PROFILE

白濱イズミ / ラブリ
アーティスト / モデル

1989年生まれ。ラブリとして雑誌、テレビ、ラジオ、広告などメディアで活動する一方で、近年では自身の内側から生まれる「言葉」を白濱イズミとして表現している。2018年に初めての個展「言葉の記憶 展」、2019年に個展「デジタルと私との関係、私はどうやら数字らしい展」を開催。
Instagram:@loveli_official

「耳で読む」こと。「音で見る」こと。

ー細井さんは「音」を。白濱さんは「言葉」を表現方法のひとつとして発信されています。お互いの作品について、何か共通点のようなものを感じましたか?

細井:私は、言葉を使わないように意識して作品を作っているので、私にとって言葉は強いもの。また、経験上ネガティブなイメージが強くて、言葉以外のもので作品を作ろうとしていたので、詩の作品をみようと思って向き合ったことがなかったんです。でも、自分がやろうとしていたことが言葉でこんなにできるんだということを最初に思いました。
「見る」ことによって自分の中の何かを考え直すというか。自分の気づかなかったところが書いてあって、初めて考えるきっかけになるというか。そういう風になったらいいなと、自分の「音」の作品でやってきているので、自分と全然違うところにいると思っていたけれど、目指していた感覚はすごく近くって、方向が違うだけなんだなと思いました。


白濱:言葉ってフォントにしたらただの文字。でも、その根本は「音」だと思っているんです。だから私も「見る」というところの言葉の伝え方と、「聞く」というところの言葉の伝え方があると思っていて。私も展示の表現方法で「言葉を耳で読む」という言い方をしているんですけど、耳で読んでほしい。フォントからは伝わらない、音の言葉というか。そういう部分では似ている部分というか、伝えたいことの根本のベースは一緒なんだろうなと感じました。

細井:そうですね。「耳で読む」というのが、音だと「音で見る」「耳で見る」と言っていて、同じことを違う方向で伝えていて、ファンクション的には一緒なんだろうなと今、思いました。

ーそのなかでデジタルの関わり方やアナログの必要性という部分はどのように考えていらっしゃいますか?

細井:これまでの作品はゴリゴリにテクノロジーを使うことが多くって、今作っている新作も開発していって……という感じなんですが、最終的にはすごくアナログでしか受け取れないような感覚を人工的に達成するためにデジタルを使っています。あくまでもテクノロジーはツールでしかなくて。
テクノロジーはずっと更新されていくものなので、コンセプトを持ってしまうと、例えば次の年にはもう、そのコンセプトは古くなってしまったりするので、コンセプトはあくまで人間の活動に関わるところで持っていたいなという。最近思っているのが、デジタルは“表層”。アナログは“表象”。それを考えるものなのかなと思っています。

白濱:テクノロジーはツールでしかないというのは、一緒です。私もデジタルの中にアナログ的な温度がないと。と思っています。不思議なのはデジタルの中でもアナログ的なことが伝えられるというのは、デジタルとのうまい付き合い方、向き合い方かなと思っていて。デジタルの中でどれだけアナログ的な感覚、人間味のある温度感を伝えられるかっていうことだと思うんです。だから、私もアナログの温度がないとデジタルを使う必要性が感じられないというか。こうやってオンラインで話していても実際会って話すのとは違うと思うし。

細井:展示でいうと、人間の拡張になるところはテクノロジーのいいところだと思っています。それはサービスとかの意味ではなくって、センサーとかスピーカーとかかもしれないんですが、私は自分一人の声を何回も重ねて録ることで作品を作ったりしているんですけど、その時ももちろんマシーンもいるし、スピーカーもいっぱいあるし。自分だけじゃ物理的にできないんですが、マシーンとうまく付き合えばそれが実現する。それをアナログ的に「音」にすることで、身体的に受け取れることがあるだろうなと思って、テクノロジーを扱っています。

白濱:「身体的な体験」って私もあると思います。ただ言葉で詩を読む・音読するのと全然違う見せ方というか。言葉の側面だったり、音の側面の違いをデジタルを使って見せられるという感じがありますね。

「違和感」の必要性。

山口情報芸術センター[YCAM]
scopic measure #16
細井美裕「Lenna」
Photo_Yasuhiro Tani
Photo Courtesy_Yamaguchi Center for Arts and Media[YCAM]

ーメディアやアート、芸術の役割とはどんなものだと思われますか?

細井:メディアは私にとっては何か表現したものの本質を伝えるためのものでしかないと思っています。ただ、メディアを使った作品をみるということは、メディア・アートってメディアが単純に機材やマシーンという意味だけではなくって、世界の見方を変える媒体としてのメディアの表現方法というか。音声とかディスプレイといったメディアを一度疑わせるというか。「これって、もともとなんだったっけ?」と、考えさせるようなものだなと思っています。

Sound Mine
Photo_Yasuhiro Tani
Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media[YCAM]

白濱:役割は、誰かの入り口を作ってあげるもの。生きていると自分の主観だけで、自分の思う正しさというか、そういうもので固められてしまうと思っていて。そこに何か違う場所へ寄り道をたまたまして、それでちょっと自分とは違う違和感だったり、そういうものを取り入れさせてあげられたら意味はあるかな?入り口作りをしているんですけど、でも、自分よがりで作ってしまうと入口が固く見えたりとか、分厚いドアに見えたりするので、そこをいかに柔らかいドアにしてあげられるか。すんなり入れるドアにしてあげられるかっていうのが、こちらが表現する上での相手への優しさと思っているんです。その優しさをどうやって作品にするかだと思っています。

細井:イズミさんのお話の中で「違和感」という言葉を聞いて「確かに」と思ったことがあって。作品って、作家が作ってそれを一方的に見せるみたいな。大御所の作家のものを見に行って何かを受けようというような、矢印はこちら向きのイメージが強いと思うんですが、それを見て「違うな」と思ったってことは、違うと思える自分に違う軸があるということだと思っていて。「じゃあ、これはどうだろう?」と、似た作家のものを見に行ったりとか。それを気に入ったら「なんでそれを気に入ったんだろう?」ってなっていきますよね。自分が何が好きか?自分は何が得意じゃないか?ってことをすごく間接的に得るもののように思います。

白濱:展示を見に行く人、作品を見る人は興味があるし見ると思うんですけど、作品や美術館に行くことに慣れていない人ってそれがすごくハードルの高いものに見えたりとかしますよね。それに対して「私はわからないから見ない」って決めつけていることがあったりするので、無意識に展示を見ているというか…。
細井さんの表現はもちろん作品だし、でもそれを作品と思わせない「体験」が作品を感じさせるとか、そういうことで展示とは程遠かったはずの自分が無意識に展示を見ているという感覚だったりとか、その人が自然と自分の中に“好き”とか“嫌い”とかそういうことが生まれるということができたら作品としての存在がまた違った意味のあるものになるなと思うんです。

細井:……嬉しい。
私の原体験は高校の時の合唱団で。100人くらいで現代音楽をやるところにいたんです。毎年コンサートホールで演奏会があるのですが、舞台上に100人いたらスピーカーが100チャンネルあるのと同じですよね。普通だったら客席から聞くんですが、私はその中にいたので自分の周りで音が発生して空間が鳴っていて、また倍音が鳴って…。そんな空間が忘れられないんです。それって人がたくさんいないとできないことで。その音の空間がすごくよかったなというのがずっとあるんです。
そのなかで、メディア・アートというものを知って、これがあれば音を別の方法で、私があの時に「いい!」と思っていた原体験を再現できるんじゃないかって。それが全く同じものを再現するのではなく、感覚的には同じものを変換して作品にできるんじゃないかっていうのをずっと思いながら作っています。なのでその原体験をずっと追い求めています。

  • Text_Hanako Irisawa
INFORMATION

第23回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展

会期:9月19日(土)〜27日(日)
場所:日本科学未来館(東京・お台場)
入場:入場料(事前予約制)
※受賞作品展は、日本科学未来館の一部エリア(1階企画展示室、7階フロア)で実施します。これらのエリアに来場される場合は「来場予約」が必要です。受賞作品展のみの観覧であれば、入場料は無料です。予約は公式ウェブサイトから可能です。

※参加プログラムごとに来場予約、映像作品上映会予約、ワークショップ予約が必要です。いずれも、上記公式ウェブサイトから予約が可能です。

※日本科学未来館の常設展示(3階・5階展示フロア、1階ASIMO実演、6階ドームシアター等)を観覧する場合は、別途日本科学未来館のチケット(オンライン事前予約)が必要です。詳細は日本科学未来館公式ウェブサイトをご覧ください。

第23回文化庁メディア芸術祭 特設ウェブサイト

文化庁メディア芸術祭の世界観をオンラインでもお楽しみいただけるよう、 特設ウェブサイトを開設!受賞者トークイベントや受賞者コメント、会場を360度VRカメラで撮影したVRツアーなど順次公開します。メディア芸術祭の開催期間中は毎日トークイベントを配信、受賞者と各分野の第一人者が登壇し、受賞作品の制作秘話や、作品に込められた想いなどをお話いただきます。さらに、会場を360度VRカメラで撮影した映像により、実際に来場したかのようなVRツアーを体験できます。

今回のメディア芸術祭の世界観が、世界のどこからでもアクセス可能でお楽しみいただけます。本特設サイトは、10月31日(土)までの公開です。
特設ウェブサイト

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