原宿を原宿たらしめている要素は何か。ストリート沿いに連なる艶やかなショップ、東京のトレンドヘアを創り出しているサロン、それらを目当てに街を闊歩するビビットな若者たち。そして忘れてはならないのは、訪れるひとびとの胃袋を満たす“食”です。
80年代の竹下通りを席巻したクレープにはじまり、第一次タピオカブームやマカロン、最近ではチーズハットグやロブスターサンドなど、考えてみると原宿には片手で食べられる「ワンハンドフード」がカルチャーとして根付いています。
今回紹介するのは、そこに参戦することになるであろう、アメリカンかつジャパニーズかつ原宿的なドッグです。
キャットストリートと明治通りのあいだの路地裏にオープンした「JD SERVICE」。株式会社Hawker’s(ホーカーズ)が運営する異色フードトラック「BELLHOP SERVICE」の隣に、その根を張りました。
売り出すのは「チーズステーキドッグ」。一見ただの美味しそうなドッグなのですが、裏には数々の秘められたストーリーがあるそうで。今回は仕掛け人でもある、ホーカーズ代表の山田一歩さんにお話を聞いてきました。
ーまずはお店を出すことになった経緯を教えてください。
山田:もともと湘南と辻堂で「GREENSTAMPS COFFEE」というカフェをやっていて、そのつてで昨年、あるポップアップイベントでコーヒーを出しました。そこで「エンワントーキョー(en one tokyo)」さんと知り合い、経営について相談していたなかで、トラックを置けるスペースがあるから持ってるならここでやれば?という話に。
ーBA-TSU ART GALLERYなどを運営しているエージェンシーのエンワントーキョーさんですね。その繋がり、何かおもしろいことが起こりそうです。
山田:そうなんです、そこでエンワントキョーが運営する讃岐うどん屋「麺散」ディレクターの岡田さんとも出会い、いっしょにコンテンツを作ろうということになりました。
ーそのコンテンツというのがこのドッグだと。
山田:はい。もともと「麺散」さんの思想に共感していましたし、原宿のソウルフードを作りたくて。今回はタイアップという形で「麺散」さんと、街歩きしながら食べられる「チーズステーキドッグ」を作りました。
ーこのアイデアはどこから湧いたんでしょう?
山田:アメリカはLAのファーストフード「フィラデルフィアドッグ(薄切り肉とチーズをロールパンで挟んだもの)」に日本的な解釈を入れたいと思っていました。
山田:それで、岡田さんといっしょに築地に行ったときに、牛煮込みを大鍋からどさっと盛って売っているお店があって、これをそのままパンに乗せたら美味しいんじゃない?と。で、「麺散」で出している牛丼の頭を具にしようとなり、岡田さんのもとに修行に行って作り方を覚えました。
ー見たことがあるようでない、この新鮮さはその背景にあったんですね。うどん屋仕込みなだけあって出汁が効いています。これを包みこむパンにも、何かこだわりがあるんでしょうか?
山田:原宿にある「THE LITTLE BAKERY TOKYO」さんのものなんですが、これも経緯があって。商品開発の参考にと、亀有のある有名店のコッペパンを買ってきて、試しに具を挟んでみたところこれだ!となりました。
ーそういえば、学校の給食とかで、コッペパンに好きな具をはさんで食べていた子とかいました…その発想と似ていますね。
山田:まさにその通りで、余談ですが、毎回パンが大量に納品されるとき、なぜか懐かしい気持ちになるんです。たぶんこれが給食の記憶と結びついているんだと思います(笑)。
ーたしかに、コッペパンの匂いが束になって香る感じ、完全に給食です。
ー話を戻しまして、それからパン製作に取りかかったと。
山田:はい。同じのを作れないかと、社内でやってみたんですが設備の都合とかで、なかなかうまくいかず。結局、お店の近くにあって、かつこちらが理想とするパンをハイクオリティで作ってくれる「リトルベーカリー」さんにお願いすることになったんです。
ーなるほど、日本由来のコッペパンが軸にあったんですね。どおりで、牛丼の具とも相性がいいわけです。上にのっているチーズも普通のものと違いますよね?
山田:チーズがいちばん大変だったかもしれません。他の材料との組み合わせや、溶け具合を調整するのが大変で。最終的にはチェダーチーズを軸にソースとして完成させたんですが、その隠し味となったものは企業秘密でお願いします(笑)。
ーこのなめらかさと濃厚さの秘密は実際に食べてから、ということで。こちらの赤い揚げ物はなんですか?
山田:関西発祥の紅ショウガの天ぷらです。うどんのトッピングとして「麺散」でも出していて、これも作り方を教えてもらいました。キッチンカーの中で調理しているので、出来たてサクサクです。
ー食感がそれぞれ違うので、食べていておもしろいですし、何より飽きない! 流行りそうですね。今後の展望を聞かせてください。
山田:フェスやイベントへの出店も視野に入れていますし、イラストレーターの飯田梓さんに作っていただいたキャラクターたちも、うまく走らせたいなと思っています。グッズとかにしてもいいかなと。
ーぜひ着ぐるみやアニメーションにしていただきたいです! それぞれを店舗の看板キャラにするのもおもしろそうですね。
山田:企んでいきたいです。ソウルフードとして流行らせたい気持ちはもちろんありますが、今はあまり早まらず、着実に認知度をあげられたら嬉しいですね。
ー山田さんのお名前じゃないですが、一歩一歩、地道にってことですかね。これからの動向、楽しみにしています! にしても天気が悪いですね…
取材をしたのはお店のオープン前日、台風がちょうど東京に来かけていました。山田さん含め、同席していたスタッフみんなが天候を心配するなか、あるひとりが「雨スタートは縁起がいいらしいです」とポツリ。そういえば「雨降って地固まる」という言葉もあります。
数年後、「チーズステーキドッグ」が2020年代の原宿ソウルフードとして知れ渡ったとき。台風のエピソードは、懐かしい笑い話として語られることになるかもしれません。