そもそもニュー・ヴィンテージとは?
1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。いまではさらに“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。
第6回目は再び「ブルールーム(blue room)」の葛西智裕さん。
Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii
葛西智裕 / blue room オーナー
Vol.6_ア ベイシング エイプのボーダーロンT&メルトンジャケット
―2巡目となる今回、取り上げるのは?
最近、気になっている〈ア ベイシング エイプ(A BATHING APE)〉です。前回も話しましたが、ぼくらが90年代〜00年代のストリートブランドをピックしているのって、自分らの知らない時代に、こんなに格好いいアイテムがあったという事実を、ぼくらのような若い世代に教えたいという想いから。そういう意味でも、派手なイメージが先行しがちですが、実はヴィンテージをサンプリングしたアイテムも数多いベイプを“ニュー・ヴィンテージ”として、取り上げるっていうのもイイんじゃないかなと。
ーなるほど。アイテムとしてはどんなのが面白いですかね?
まずはボーダーロンTです。ぼくも好きで着ているんですが、正直な話“ベイプといえばコレ”っていうアイコニックなデザインではないじゃないですか。90年代ですとエイプヘッドやデジカモ、1stカモ、近年ならシャークなどキャッチーなデザインが数多く存在するなかで、あえてのボーダー柄。当時を知る方々からすれば定番のひとつですが、いま挙げたようなデザインが真っ先に頭に思い浮かぶ若い世代には、新鮮に映ると思います。
―たしかに人気のアイテムとはまた毛色が異なり、地味といえば地味というか。
それと分かるのは袖タグくらいですしね(笑)。とはいえ、デザイナー本人が自分でも着たいと思うくらいですから、モノとしても隠れた名品たりえる実力を持っていると思っています。アイテムを見て、まず目がいくのが当時の空気感が感じられるシルエット。着丈短め&袖長めなので、袖はまくるか折り返すとバランスが良くなります。当時だとこの上にTシャツをレイヤードするのが王道的な着方でしたが、そういった着方をする人も見かけなくなったいまが狙い目じゃないですかね。
―ベイプの場合、アイコニックなアイテムを狙う人も多いですよね。
たしかにポップ&キャッチーはベイプの魅力ですが、ぼくたちとしてはそういうアイテムばかりではなく、もっと色んなアイテムに目を向けてもらいたいと思っています。先ほどのボーダーロンTのようにベーシックだけど格好いいアイテムは他にも沢山あって、こちらのメルトンジャケットなんかは、まさにその代表例のひとつ。このタイプは、スケシンさんとTETさんがやられていた初期〈フォーティーパーセント アゲインストライツ(FORTY PERCENTS AGAINST RIGHTS)〉からも出ていましたし、裏原宿のクラシックデザインのひとつだったんでしょうね。
―現行アイテムに比べると、かなりシンプルなデザインですよね。
たしかにフロントと袖にあしらわれたレタードワッペン以外はかなりシンプルですが、タグがまた素晴らしいんですよ。まさにザ・スケシンっていう感じで、もうこのタグだけで白飯食えちゃうくらい(笑)。ちなみに、スチャダラパーの『ドリジナルコンセプト』のMVで、メンバー3人が着用しているのが同モデルのブラック。お揃いで着たコレにキャップを合わせて、ラップする姿がすごく格好良くて、めちゃくちゃシビレましたね! 身幅広め&着丈短めっていうサイズ感も、いまの着こなしや気分にフィットしますし。
―憧れのMYヒーローが着ていたアイテムというのも、すごくアガります。
そうなんですよ! スチャはもちろん、パフィーやコーネリアスなど、当時のアイコンたちが着ていたモノを、若い世代が全然文脈と関係ないアイテムと合わせて自由に着こなす。それこそが、ぼくらの考える“ニュー・ヴィンテージ”とのひとつの付き合い方。この時代のベイプって、モノとしてはすごくベーシックですが、NIGOさんのヴィンテージ愛、スケシンイズムが光るグラフィックが詰まっているデザインからは、自分らが本当に格好いい・着たいと思うモノをつくっていたのが溢れ出ている。だからこそ、ぼくらのような若い世代にも刺さるんじゃないですかね。
―前回の〈サブウェア〉に比べて、チャレンジしやすそうですしね。
それこそ裏原ムーブメント直撃世代の方が「若い子が欲しがっているなら安くてイイから」と、買い取りに持ち込んでくれたりもしますし、探せばまだまだ隠れた良品が見つかると思います。そうして新たな楽しみ方とともに、次の世代へと引き継がれていく。これもまさに“ニュー・ヴィンテージ”ではないでしょうか。
葛西智裕 / blue room オーナー
スタッフは20代で構成されており、90年代〜00年代のストリートウェアなどを主に取り扱うショップ「ブルールーム(blue room)」。当時のファッションやカルチャーを、リアルタイムで通ってないなりの解釈で提案し、同世代を含む若い世代に”当時の熱量を伝えること”を目的とする。現在はオンラインショップのみで店舗の再オープンに向けて、日々準備中。
公式HP:www.blue-room.jp
インスタグラム:@blue_room___