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幾人もの映画ファン、映画人を狂わせた相米慎二。『セーラー服と機関銃』『台風クラブ』など、監督した全13作品が横浜シネマリンで、絶賛上映中です。

©︎ KADOKAWA 1981

相米慎二という映画監督を知っているだろうか。

獰猛で、繊細で、美しく、奥深い。どれも彼を、彼の映画を表現する言葉としてよく使われます。代表作をあげるのならば、『セーラー服と機関銃』(1981年)、『台風クラブ』(1985年)、『風花』 (2001年)でしょうか。

13もの作品をこの世に残し、2001年9月9日に逝った相米慎二。世界的に評価されはじめたのは没後で、2012年にナント映画祭(フランス)、エディンバラ映画祭(イギリス)、パリシネマテーク(フランス)、2015年にはフランクフルト映画祭(ドイツ)などで、次々とレトロスペクティブが行われました。

あれから20年、なぜいま相米慎二なのか。彼の何が、我々を掻き立てるのか。それを確かめる方法はただひとつです。

本日6月26日(土)から7月9日(金)の14日間のわたり、横浜の映画館「シネマリン」にて特集上映が行われます。相米慎二が監督した全13作品が一挙に公開。ひとつずつ見ていきましょう。

翔んだカップル(1980年)

ⒸTOHO CO., LTD.

出演:鶴見辰吾、薬師丸ひろ子、尾美としのり、石原真理子

相米慎二のデビュー作で、ひとつ屋根の下で暮らすことになった高校生のふたりを描く。独自の長回しや、名ワードと名シーンが強く印象に残る。今回上映されるのは<オリジナル版>。

セーラー服と機関銃(1981年)

©︎ KADOKAWA 1981

出演:薬師丸ひろ子、渡瀬恒彦、風祭ゆき、大門正明、林家しん平、酒井敏也

映画監督・黒沢清の助監督デビュー作でもある。突然、やくざの組長になってしまった女子高生の物語。クレーンで吊るされたりなど、アイドル映画という枠組みを超えた超絶演出の数々で、相米映画史上最高のヒット作となった。今回上映されるのは初公開時の<通常版>。

ションベン・ライダー(1983年)

 

©︎ 1983 kittyfilm

出演:藤竜也、河合美智子、永瀬正敏、鈴木吉和、坂上忍

レナード・シュレイダーの原案を脚本化。「セーラー服」の興行的成功からより過剰な方向へ舵を切ったそう。壮絶な貯木場のシーンは有名。

魚影の群れ(1983年)

 

©︎ 1983松竹株式会社

出演:緒方拳、夏目雅子、十朱幸代、佐藤浩市

吉村昭の同名小説を映画化。少年少女を描いてきた相米が“大人の映画”に挑んだ。ベテラン漁師と娘、彼女に想いを寄せる青年。夏目雅子の美しさが印象に残る。

ラブホテル(1985年)

 

©︎ 日活

出演:速水典子、寺田農、志水季里子

相米が念願の“日活ロマンポルノ”に挑戦。2年前に出逢ったホテトル嬢と再会した男の話。山口百恵「夜へ」、もんた&ブラザーズ「赤いアンブレラ」など挿入される歌が鮮烈なイメージを与える。

台風クラブ(1985年)

 

©︎ ディレクターズ・カンパニー

出演:三上祐一、紅林茂、松永敏行、工藤夕貴、大西結花、金沢朋子、三浦友和

東京国際映画祭・ヤングシネマグランプリ作品。審査委員長、ベルナルド・ベルトリッチが絶賛した。台風の日の校舎に閉じ込められた少年と少女の、痛快な青春作品である。

雪の断章 ―情熱―(1985年)

 ⒸTOHO CO., LTD

出演:斉藤由貴、榎木孝明、岡本舞、レオナルド熊、世良公則

佐々木丸美の「孤児4部作」の1作目の映画化。斉藤由貴の映画デビュー作でもある。さまよっていたみなし子と保護した男の、10年後の物語。冒頭の長回しシーンは相米の長回しの中でも想像を絶する長さと凄さ。

光る女(1987年)

 

©︎ 1987 ヤングシネマ’85共同事業体/角川映画

出演:武藤敬司、安田成美、秋吉満ちる、出門英、すまけい

小檜山博の同名小説を映画化。北海道から上京した野人のような青年が、オペラ歌手の女と出逢うストーリー。後にオペラを演出することになる相米の、新たな演出が現れた一作。

東京上空いらっしゃいませ(1990年)

 

©︎ 1990イール・トウェンティワン/バンダイビジュアル/松竹

出演:中井貴一、牧瀬里穂、笑福亭鶴瓶、毬谷友子

牧瀬里穂のデビュー作。CMのキャンペーンガールに抜擢された少女が事故で死亡するも、笑福亭鶴瓶演じる死神を言いくるめて地上に戻る物語。「帰れない二人」のリフレインと終盤のミュージカル的場面が涙を誘う。

お引越し(1993年)

 

©︎ 1993 読売テレビ放送株式会社

出演:中井貴一、桜田淳子、田畑智子

ひこ・田中の同名児童文学を映画化。田畑智子のデビュー作でもある。不安定な父母にはさまれた少女が、次第に大人になっていくその機微を描く。国内での評価を高めた一作で、集大成的な作品ともといえる。

夏の庭 The Friends(1994年)

 

©︎ 1994 読売テレビ放送株式会社

出演:三國連太郎、坂田直樹、王泰貴、牧野憲一、戸田菜穂

湯本香樹実の同名小説を映画化。サッカー少年3人組が死を目撃したいと、老人の観察をはじめる物語。相米が新たなフェーズに挑戦したといえるテイスト。

あ、春(1998年)

©︎ 1998トラム/松竹/衛星劇場

出演:佐藤浩市、斉藤由貴、富司純子、藤村志保、山崎努

村上政彦の原作「ナイスボール」を中島丈博が脚本化。昔、死別したと聞かされていた父が現れ、一緒に暮らしていくストーリー。相米オールスターズが競演し、キネ旬第1位を獲得、ベルリン国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞した。

風花

出演:小泉今日子、浅野忠信、尾美としのり、鶴見辰吾、柄本明、笑福亭鶴瓶

鳴海章の同名小説を映画化。若手官僚とピンサロ嬢が出逢い、女の故郷、北海道へと旅へ出る物語。本作公開後の9月9日に相米が死去し、遺作となった。

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この特集が組まれた裏には、没後20年の節目だという理由以外にもうひとつ訳があります。

2005年、全州映画祭(韓国)で相米慎二の回顧上映で行われ、衝撃が流れました。そして、『パラサイト 半地下の家族』(2019年)、『はちどり』(2020年)、エドワード・ヤンの『牯嶺街少年殺人事件』のリバイバルが重なり、世界の映画ファンの視線は、アジアに注がれることとなります。

さて、アジア映画だけが持つものは何か。荒々しさ、凶暴性、そのなかに潜む儚さ。それを考えたときふと思い浮かぶ作家は、そう日本が誇る相米慎二なのです。つまり、いま脚光を浴びているアジア映画の文脈を、過去になぞるとたどりつくのが相米慎二なのです。

と堅苦しいことをつらつらと書きましたが、相米慎二の映画は構えずに観られるポップさも兼ね備えています。それに上映期間中、アジアの監督を交えたオンライントークや、彼を知る人物によるトークショーも予定されているとか。

これほど多角的に相米慎二を追求できる機会は、これまでもこれからもないのではないでしょうか。初見のひとも、ファンだというひとも、ぜひ横浜のシネマリンに足を運んでみてください。

INFORMATION

没後20年 作家主義 相米慎二

期間:6月26日(土)〜7月9日(金)場所:横浜シネマリン
公式サイト
公式インスタグラム
公式ツイッター

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