コロナ禍になってからこっち、ファッション業界に大きな変化が現れています。バイヤーの方々が容易に海外に買い付けに行けなくなり、日本国内で商品を企画、開発することが多くなっています。その結果、別注商品の明らかな増加に繋がりました。それは日々雑誌やWEB、インスタをチェックしているファッション好きの諸兄もお気づきなのではないでしょうか。
そんなわけで、我々メディアとしても、日々様々な別注商品のお知らせをいただくのですが、今回ご紹介するアイテムは企画に至るまでの成り立ち、ストーリーが本当に美しく、発売から少し日は立っているのですが、どうしても皆さんにお知らせしたく、取材をさせていただいたものになります。
1784年に英国ダービーシャー州にて創業、 今年で創業237年を迎える英国のファインゲージニットウェアブランド〈ジョン スメドレー(JOHN SMEDLEY)〉と、上質な素材と確かな縫製をベースに、伝統と革新をモダンなバランスでミックスした〈キャプテン サンシャイン(KAPTAIN SUNSHINE)〉の初のコラボアイテムです。
PROFILE
2013年春夏シーズンより始動した〈キャプテン サンシャイン〉のデザイナー。ヴィンテージ、アーカイブに関する豊富な知識と、モダンなセンスから生み出されるデイリーウェアにファン多し。夏はサーフィン、冬はスキーと、完全にイケてるひとのライフスタイルを鎌倉にて送る。
PROFILE
新卒で某セレクトショップに入社し、企画畑にて長年経験を積んだのちに独立し、フリーのデザイナーに。最近では、人気のブランドの陰には必ずホーリー(堀内氏)がいると囁かれるほどの辣腕。
理想的なコラボレーションの形のひとつ。
ー今回のコラボレーションは、児島さんの私物のニットポロから始まったと伺いました。
児島:そうなんです。ずいぶん前にニューヨークのフリーマーケット「ブルックリンフリー(Brooklyn Flea)」で見つけて買ったものです。けっこう安かったんですが、購入をものすごく迷ったのを覚えています。というのもまずこの大きな襟ですよね。70’s全開というか。加えてサイズもXLだったので、裄丈なんかも結構長くて。
ークセのある一着というか。
児島:はい。正直、買ってすぐはそんなに着てなかったんですけど、ここ何年かで着るようになって。ここ最近はコンパクトな襟がベーシックななかで、最近こうした大きい襟もありなのかな、と思ってきていて、それが今回の企画につながっていったんです。
ー今回、〈ジョン スメドレー〉側で企画を担当されたのが堀内さんということですが。
堀内:はい。自分はフリーのデザイナーなのですが、3年前から「リーミルズエージェンシー」にて〈ジョン スメドレー〉の企画に携わっています。前々から児島さん、そして児島さんの会社「クリップクロップ」にはお世話になっています。
児島:今、一番人気のデザイナーです。いや、本当に(笑)。
ー噂はかねがね(笑)。さて、今回の企画の発端となったのがこのニットですね。リリースには米国ブランドとありましたが、タグを見ると〈アバクロンビー&フィッチ〉ですね。
堀内:〈ジョン スメドレー〉は以前から様々なブランドのOEMや、コラボレートをやっているので、そのなかの一つだと思います。アメリカにはハイゲージのセーターを作れるところがそんなにないと思うので、児島さんからこれを見せてもらったときに、かなりの率でうちだろうなとは思ってました。
児島:僕も英国製というのと、この襟の形で〈ジョン スメドレー〉なのかなとすぐに思いました。あとはこのキャッツアイボタンですよね。
堀内:このニットをベースにするというのは、僕を含めた国内のスタッフのなかではすごくいい企画だねということになり、それから本国にアプルーバルを取るべく確認したところ、すぐにOKという返信が来たんです。
堀内:しかも、これを実際に手がけていた当人から連絡があって。ジャッキー・ターナーさんという〈ヴィヴィアン ウエストウッド〉とか〈マーガレット ハウエル〉とのスペシャルプロダクトを手掛けていたシニアデザインマネージャーです。ちなみに今回の〈キャプテン サンシャイン〉とのプロダクトを手がけたのを最後に、定年で退職されました。
ーなるほど。ものすごくいいストーリーですね。
堀内:自分が手がけたプロダクトがヴィンテージになって、日本のデザイナーがアメリカで見つけて、それが自分のところに戻ってくるという出来事は、生産者としては冥利に尽きるのではないでしょうか。
児島:堀内さんとは、ずっとなにかやりましょうとは言ってたんですけど、これはずっと封印していたんです。今回、満を持して出してみました。
堀内:長袖のポロシャツって、服好きの方なら手に取るかもしれませんが、なかなか難しいアイテムで。どうしてもおじさんっぽく見えてしまうという。ただ、このダイナミックな襟は今見ると、すごくファッション的に映るし、しかも児島さんのブランドで今これをやるというのが、すごくいいなと思ったんです。
ー〈キャプテン サンシャイン〉でロングスリーブのポロを作ったことはあるんですか?
児島:ニットでは今回が初めてですね。
ーなるほど。ということは結構な挑戦だったわけですね。元ネタ、そして現行のロングスリーブポロと違うところを教えてください。
堀内:私たちのインコレクションでずっと展開しているのが「ドーセット(DORSET)」というロングスリーブのポロシャツです。時代によってサイジング、襟の大きさ、ボタンの意匠などに変化はあるんですが、基本このスタイルでずっとやっています。おそらく、この〈アバクロンビー&フィッチ〉も「ドーセット」をベースにしているはずです。
ー現行のものとはずいぶん雰囲気が違いますね。
堀内:はい。まず襟の大きさが一番違います。イギリスブランドなので、クロージングと合わせることを前提に作っている部分があります。ジャケットのインナーに着たり、シャツと一緒に着たりと。
堀内:そうなるといまのテーラードジャケットって、コンパクトなものが多いので、どうしても襟も小さくなります。ちなみに〈ジョン スメドレー〉のこの襟をイングリッシュカラーって呼ぶんですけど、ブランドのアイコン的な仕様になっているんです。
児島:あとはボタンにも特徴があります。〈ジョン スメドレー〉の古いものは、僕ら古着好きのなかではキャッツアイボタンで、二つ穴ということになっているんです。いまは強度などの観点で、四つ穴になっていることが多いようなんですが。
児島:当時のボタンの色のブレが特徴的で、そこをヒントに、今回オリジナルでこのつや消しのボタンを作りました。染めて加工して、何回も試してと、結構こだわらせていただきました。
児島:あとはネームも今回のためにつくっています。本国のレギュレーションもかなり細かったので、何回も試行錯誤して、ようやくOKをいただいたものです。
ー〈キャプテン サンシャイン〉の文字の色がいいですね。ロゴマークがなんだかロイヤルワラントのようにも見えます。
堀内:そしてサイズ感です。当時はけっこうゆったりしていたんですが、それがいまの気分に合ったんですよね。児島さんもさっき仰ってましたが、買った当時はそんなに気分が乗らなかったけど、いまはフィットするという感覚ってあると思います。
堀内:このようにインコレクションは肩幅がけっこうコンパクトです。わざと肩幅を狭く設計しています。イギリス人の男性のスタイルって、やっぱりタイトフィットなんです。それが向こうのダンディズムとしてあるんですよね。
児島:そもそもジャケットのなかに仕込む、というのが前提としてありますよね。
堀内:そうですね。ただ、今回の企画意図はスーツインでは着るものではないので、児島さんと話すなかで、肩幅をかなりリラックスさせました。
ーとはいえ、オーバーサイズとか極端なドロップショルダーというわけではない微妙な塩梅ですね。
堀内:まさに。現行の「ドーセット」をワイドラペルのジャケットで着るとなると、少しバランスが悪いんですが、今回の襟であれば、イタリア系のジャケットとかそういうのとも合うはずです。
ーそれにしても、デカ襟がありだなと思えてきたのにはなにか理由があるんですか?
堀内:ここ最近のトレンドはミニマルでレスな雰囲気だったと思うのですが、それが徐々にアメリカンな感じとか、洗いがかかったものがいいとか、ヴィンテージっぽい雰囲気が気になるとか、そういうムードに移ってきているのを感じます。それでいうと、この襟幅はぴったり合ってくるのかなと思います。
児島:たしかにありますよね。そういう気分って。
堀内:〈ジョン スメドレー〉はやっぱりヨーロピアンブランドなのでどこかモダン、というベースがあるなかで、アメリカンカルチャーに精通された児島さんとのセッションというのはすごく面白かったですね。別注を作るうえでのモチベーションをかなり喚起されました。すでにけっこう多くの方にご購入いただいています。
児島:けど、ネタを持って行ったときからもうドキドキでしたよ。なにせロングスリーブのポロですからね(笑)。
堀内:いやいや。児島さんがこのアイデアをやるという時点で、間違いないなという感触はありましたし、今回のアイテムは直営店でも置かせてもらっています。実はそれ自体がけっこう稀なことなんですが。
児島:ありがたいことです。そして本当にホッとしました(笑)。
堀内:今回のコラボモデルって、デザインをそこまで入れているわけではないんです。ブランドの変わらない良さをキープしながらのアレンジなので、そこがいいところだなと思います。コラボレーションだからといって、過度にデザインしていない。
児島:今回はものづくりに至るまでの明確なストーリーがあったので、やっていて楽しかったですね。僕も全色買わせてもらいましたし、すごくいい取り組みでした。
いかがでしたか? 長袖ポロシャツに対するアレルギーを持っている方も多いかと思いますが、今回の逸品はこれまでのイメージを打ち破る、静かなエネルギーに満ちたアイテムなのではないでしょうか。すでに販売店によっては、カラー欠け、サイズ欠けが起きているようです。気になる方はどうぞお早めに。
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