「ヴァンドーム広場に並ぶジュエリーとは異なる、ユニークなジュエリーを望みます」
ジュエリーコレクションのアーティスティック・ディレクションをピエール・アルディに託すにあたり、〈エルメス(HERMÈS)〉の五代目当主、ジャン=ルイ・デュマが言ったのはそれだけだった。
パリのヴァンドーム広場といえば五大ジュエラー(グランサンク)が一堂に会するエリアだ。ファッションの世界では知られた存在だったとはいえ、アルディ氏にとってジュエリーは未知の領域になる。そんな彼に伝統と真っ向から勝負するのではなく、第三の道を切り拓くように課したデュマ氏。それは新作にも当てはまる。
最たるものがロープをモチーフにした「トルサード」だ。躍動感あふれるうねりは息を呑むほど美しい。
「トルサード」と共に新作として登場する「クルー・ド・フォルジュ」も捨てがたい。馬具の蹄鉄の釘に着想を得たそのリングはコンテンポラリーアートを思わせるオーラを放っている。
「シェーヌ・ダンクル・パンク」はすでに誕生して5年目を迎えるブレスレットだ。三代目当主、ロベール・デュマが船の錨にヒントを得てつくり上げた「シェーヌ・ダンクル」に、パンクムーブメントへのオマージュをまぶした。パンクをあらわすのは要所を飾る安全ピンをモチーフにしたチェーンである。
「トルサード」に象徴される抑揚の利いたシルエットは、ダンスとアートに造詣の深いアルディ氏の感性が反映されたものである。これを寸分の狂いなくかたちにすることができたのは、純無垢925という展延性(柔軟に変形する限界)が高いマテリアルの賜物だ。
クラシック・モダンなものづくりにおいて〈エルメス〉に敵うメゾンはないが、アルディ氏はものの見事に大役を果たしており、一向に衰える気配がない。アルディ氏がその職に就いて今年、21年目を迎えた。
Photo_Hiroyuki Takashima
Text_Kei Takegawa