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連載【で、NEW VINTAGEってなんなのさ?】Vol.44 “アリとナシの見極めは困難!?”。ゆえにセンス問われる刺繍Tシャツ。

そもそもニュー・ヴィンテージとは?

1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。いまではさらに“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。

なんだかんだ6シーズン目に突入した本連載。というワケで、ショップが入れ替わってリスタート。1巡目のラストを飾る第44回目は、代々木上原にある「ドゥージョー(dojoe)」の中野博之さん。

Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii


中野博之/dojoe オーナー
Vol.44_刺繍Tシャツ

―中野さんにとっての、ニュー・ヴィンテージとは?

ぼくが思うに“新たな発見”と“再発見”という2つがベースにあって、その上で他者からの共感を得られるモノ。それがニュー・ヴィンテージなのだと思います。野球で例えるなら、前者はドラフト1位で鳴り物入りのルーキー、後者は野村再生工場で復活した往年の名選手、もしくは県予選敗退チームの無名選手が育成枠でのし上がってくるみたいな。この育成というのがその時々のトレンドやタイミングということですね。で、そこから価値が付加されていくことでヴィンテージという存在になる。

―「ドゥージョー(dojoe)」のセレクトを見ていると、まさにソレですよね。

ジャイアンツのようにスター選手(売れ筋アイテム、ヴィンテージ)を揃えるのが困難な状況下で、どうやってチームを回していくか。そこで見方を変えて“自分らが面白いと思った選手を打線に入れていく”っていうだけなんですけどね。なので、アイテムをセレクトする際にも“初見で目に止まるということを意識しつつ、ある程度は探さないと見つからないモノ”というのを意識しています。どこにでもあるようなモノは、面白くても面白く見えなかったりするので。あとは、お客さんの共感が得られるかどうか。

―ということで今回、ご紹介いただくのは?

そんな大それたことを言っておきながら、何でもないモノをピックアップしてしまい恐縮ですが……今ハマっている刺繍Tシャツを持ってきました。古着業界では、たとえそれが人気の〈チャンピオン(Champion)〉であろうと“刺繍はスルー”という不文律が存在していて、ちょっと前までは、いや今でもですが(苦笑)、他の同業者からは見向きもされないジャンルです。その理由は単純かつ明快で“格好いいモノが少ない”っていう。

―そんな地雷のようなジャンルを紹介するということは、新たな発見が?

色々と見ていくうちに、「刺繍だから格好いいモノというのがあるんだな」って気付いたんです。まずはこの4枚をご覧ください。明らかにプリントより雰囲気が良くないですか? で、なぜかと考えた末に導き出された結論が、刺繍ならではの“立体感”。立体的に表現することでグラフィックの良さを引き出し、プリントとはまた違った面白さが生まれるんです。

(上から)コロナビールのTシャツ ¥3,850、アライド ドメクのTシャツ ¥3,850、アイ ソールド マイハウス.コムのTシャツ ¥3,850、シュライナーズ ホスピタルズ フォー チルドレンのTシャツ ¥3,850(すべてドゥージョー)

―たしかに。この4枚はすべて企業モノですね。

胸にワンポイント系だと、企業モノやロゴ系が多い印象はありますね。一番上がコロナビールで、その次がイギリスの食品会社。3枚目が不動産売買サイトのもので、一番下は小児科病院でしょうね。どれもユニフォームだと思うんですが、テキスト&ちょっとしたイラストに、刺繍の立体感が加わることで表情豊かになるというか。

―生地自体に凹凸が生まれて、平面的でありながら立体感があるというのが面白みなんでしょうね。で、こちらは?

続いては、刺繍が面白いタイプ。アメリカ・メイン州にあるバー・ハーバーというリゾート地のお土産ものです。かなり立体感があって、海辺の街ということもあり浮き輪や水着のイメージを落とし込んでいると思われます。こういうのって親戚や近所のオバちゃんが着ている感じもありながら、なんとなく洒落ている気もするという絶妙なバランスが気に入っています。

バー・ハーバーのTシャツ ¥3,850(ドゥージョー)

―レギンスと合わせるんですよね。スーパーの買い物袋を持っている姿が目に浮かびます(笑)。

そう! アリとナシのギリギリを攻めていくことになるんですが、その塩梅が本当に難しいんですよ。以前、「ドレギュラーTシャツ展」を開催した際に、レギュラーTシャツという沼を“さらに深く、さらに深く”と潜っていく中で辿り着いた先にあったのがコレでした(笑)。

―未開のジャンルですもんね。その埋もれた膨大な数のアイテムからアリを探すんだから、そりゃあハードルが高いのは当然。で、最後の1枚は普通のプリントTに見えますが?

よく見てください。左胸に小さく“COACH”と刺繍されているんですよ。どこかのバレーボールのチームのものだと思われますが、このなんのヒネリもないネーム刺繍とプリントとの温度差が面白いなって。ちょうどデザインの空いたスペースに収まった大きさもバランスも秀逸ですし。なんだかストーリーが感じられると思いませんか?

ウォリアーズのTシャツ ¥3,850(ドゥージョー)

―弱小高校のバレーボール・チームに新たに赴任してきたコーチの正体は、往年の名選手。そのスパルタっぷりに最初は反発していた生徒たち。だが徐々に信頼関係が生まれ、チームの仲間として認められた彼に生徒からのプレゼントされたのが、このTシャツ! みたいな? そういう視点で見ると、ドラマチックですね。

そう(笑)。どう見るかによって、楽しみ方が広がりますよね。ただ正直、ピックしているぼく自身も「果たして、これはアリなのか?」と頭を抱えることは多々あります(笑)。そんな中で1つポイントを挙げるならば“刺繍小さめの可愛いデザイン”というのはあるかも。その上で、まずは企業モノならハズレはないかと。これ位の刺繍の大きさなら、そこまで高いモノはないと思いますし。慣れてきたらストーリーを想像して楽しめるようなモノを探してみるのも楽しいですね。あとはもう筋トレと一緒。とにかく掘りまくって反復練習を繰り返すことで、古着の審美眼が鍛えられて、アリな1枚が分かるようになるので頑張ってください!(笑)。

中野博之 / dojoe オーナー
高円寺の古着屋「ナウオアネバー(NOW OR NEVER)」でキャリアをスタート。その後アメリカへ古着留学、帰国後に「オキドキ(OKIDOKI)」で働きながら、「アノラック(AnoLuck)」のizmt氏にシルクスクリーンプリントを学び、手刷りのTシャツブランドを始める。2015年に代々木上原に古着屋「ドゥージョー(dojoe)」をオープン。アメリカで買い付けられてきたインポート&ユーズドアイテムのセンスの良さと先見性から、業界内にもファン多数。
公式サイト:dojoe-tokyo.com
インスタグラム:@dojoe_tokyo

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